気象・環境

2017.07.26(水)

「しずく」が捉えた南極氷床棚氷からの巨大氷山分離

2017年7月12日、南極半島のラーセンC棚氷から巨大氷山が分離しました。イギリスの研究プロジェクトMIDASによると、A68と名付けられたこの氷山は三重県に匹敵する大きさ(5,800km2)で、その重量は1兆トン以上と推定されています。この巨大氷山の分離を、JAXAの水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)が捉えました。

ラーセン棚氷は南極半島の東側に位置し、ウェッデル海に氷床が張り出した巨大な棚氷です(図1)。ラーセン棚氷は北から南に向かってA、B、Cの3つに分かれており、ラーセンA棚氷は1995年に、ラーセンB棚氷は2002年にそれぞれ崩壊しています。今回氷山が分離したラーセンC棚氷は3つのうちで最も巨大な棚氷です。

南極半島およびラーセンC棚氷の位置と輝度温度画像(AMSR2の89 GHz垂直偏波)。

図1 南極半島およびラーセンC棚氷の位置と輝度温度画像(AMSR2の89GHz垂直偏波)。陸地を濃い灰色で色付けし、棚氷と海洋との境界線を点線で示している。7月12日に棚氷から分離した氷山の領域を赤線で示している。

図2は「しずく」に搭載されている高性能マイクロ波放射計AMSR2によって撮影された、ラーセンC棚氷表面の89GHzの垂直偏波の輝度温度画像です。左側の7月1日に撮影された画像のうち、黒色は輝度温度の低い海氷で覆われた領域、白色は輝度温度の高い、氷に閉ざされていない海面、画像中央の灰色は、ラーセンC棚氷の領域を示しています。図2右側の画像の赤枠で示した部分に、7月12日には輝度温度の高い白線が、分離した氷山を囲むように現れているのが確認できます。これは氷山が棚氷から完全に分離し、氷山と棚氷との間に海面が出現したことを示しています。

2017年7月1日、7月12日のラーセンC棚氷の輝度温度画像(AMSR2の89 GHz垂直偏波)

図2 2017年7月1日、7月12日のラーセンC棚氷の輝度温度画像(AMSR2の89GHz垂直偏波)。7月12日に赤色で囲った範囲内で氷山の完全分離が確認された。

巨大氷山分離の様子は、日々の観測画像を並べることでより明瞭に確認できます。図3は、2017年7月6日から20日にかけて巨大氷山周辺を撮影した輝度温度画像です。7月6日~10日には海面の露出を示す白線はみられませんが、7月11日に薄く白線が見え始め、7月12日には明瞭に確認できます。氷山は分離した後もその場所に留まり、分離から1週間以上経過した7月20日でも大きな動きがないことが確認できます。図4は7月1日から24日までの観測データで作成したアニメーションです。氷山が分離した7月12日以降に、棚氷と氷山との間に輝度温度の高い海面がはっきりと見られます。

分離した氷山周辺の2017年7月6日~20日の輝度温度画像(AMSR2の89 GHz垂直偏波)

図3 分離した氷山周辺の2017年7月6日~20日の輝度温度画像(AMSR2の89 GHz垂直偏波)

2017年7月1日~24日の輝度温度画像(AMSR2の89 GHz垂直偏波)が捉えたラーセンC棚氷からの氷山分離

図4 2017年7月1日~24日の輝度温度画像(AMSR2の89 GHz垂直偏波)が捉えたラーセンC棚氷からの氷山分離

「しずく」に搭載されている観測センサ(AMSR2)は、昼夜・天候に関わらず同一箇所を毎日2-3回観測できる利点をもっています。現在、南極は1日中太陽の当たらない極夜のため、光学センサでは捉えられない巨大氷山の分離を、高い時間分解能で捉えることができました。一方でAMSR2の空間分解能は約5km(周波数89GHzチャンネルの場合)とやや粗いのですが、その分解能よりも氷山の分離で出現した海面の幅が十分に大きいことからも、この氷山がいかに巨大であるかを窺い知ることができます。

過去にも「地球が見える:極域のモニタリング~パイン島氷河の分離~」や「地球が見える:巨大氷山の行方」でも報告していますが、分離した巨大氷山は、やがて融解・崩壊を繰り返しながら、南極大陸から離れて外洋へと漂流していきます。大規模な氷山の分離とその後の移動は、気候変動の重要な指標となるだけではなく、周辺海域の船舶航行の安全確保という観点からも、継続的な注視が重要です。「しずく」の高い観測頻度は、氷山の日々の移動を詳細に捉えることができると期待されます。JAXAでは今後も「しずく」や陸域観測技術衛星2号「だいち2号」などを用いて、この巨大氷山の移動を継続して観測していく予定です。

なお、南極および北極の表面輝度温度情報は、情報システム研究機構国立極地研究所が開設している北極域データアーカイブ(ADS)のVISION上で日々更新を行い、公開しています。VISIONは、利用者が直観的な操作で可視化・解析が可能な、オンラインアプリケーションです。国立極地研究所のADSチームが様々な分野の利用者の衛星データやグリッドデータの相互利用の促進を目的として、開発・運営を行っています。

観測画像について

画像:観測画像について

図2、3、4

観測衛星 水循環変動観測衛星 しずく(GCOM-W)
観測センサ 高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)
観測日時 2017年7月6日から7月20日 昇交軌道

 

いずれもAMSR2の89 GHz帯の垂直偏波の輝度温度画像で、データの空間分解能は5 kmです。輝度温度画像はADSのVISIONによって作成しました。

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