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データ解析の流れ

衛星データを解析するにあたっての作業の流れの一例をご紹介します。

地球観測衛星データについて知る

データ解析を始めるにあたり、「地球観測衛星が何を、どのように観測しているのか」、「地球観測衛星データがどの様な事に使われているのか」、を知ることで、より具体的な解析工程を立てやすくなったり、解析結果の解釈に役立ったりします。

解析の目的を整理する

衛星データ解析の一歩目として、衛星データを解析する事で取得したい情報の要素を整理します。要素としては以下の様なものが挙げられます。

対象範囲
  • 衛星データ解析の一歩目として、衛星データを解析する事で取得したい情報の要素を整理します。要素としては以下の様なものが挙げられます。
対象期間
  • 最近の情報を知りたいのか、過去のある時点の情報を知りたいのか、過去から現在までの変化や平均値を知りたいのか、など。衛星データが存在する期間よりも過去の情報を取得する必要がある場合は、地上での観測など他の情報源を当たる必要も出てきます。
知りたい物理量・情報
  • 地表面温度、土壌水分量、海面水温、降水量といった物理量や、大雨による洪水範囲、森林が減少した面積、都市部での地盤沈下、都市が拡大した面積といった情報。
必要な衛星データの空間分解能
  • 捉えたい現象や情報の空間スケールを踏まえて必要となる空間分解能(地上分解能)。空間分解能が高いほど空間的に詳細な情報が得られますが、その分データサイズが大きくなり、解析にかかる時間が増えることもあります。また、高分解能の衛星データは有償のものが多くなります。
必要な衛星データの時間分解能
  • 捉えたい現象や情報の時間スケールを踏まえて必要となる時間分解能(観測頻度)。時間分解能が高いほど詳細な時間変動の情報が得られ、また光学観測であれば観測対象が雲に覆われていないデータを得られる確率が高くなりますが、対象期間の長さによっては取りあつかうデータ量が増え、解析にかかる時間が増えることがあります。

衛星データを探す、解析手段を決める

次に、2. で整理した情報を元に解析する衛星データを探します。衛星データは主に地球観測衛星を運用している機関がデータ検索システムなどを通して配布しています。JAXAの地球観測衛星のデータであればG-Portalからデータの検索、ダウンロードすることができます。

また、探した衛星データに合わせて、解析の手段の選定も必要になります。一般的には、解析するためのプログラムを自分でプログラミングするか、グラフィカルユーザインターフェース(GUI)で操作できるソフトウェア(アプリケーション)などの解析ツールを利用することになります。こうした解析ツールは幅広いデータに対応しているものから、特定の衛星データに特化したものなど様々なものが公開されています。

衛星データを取得する

目的に合った衛星データが見つかれば、データ検索システムからデータをダウンロードします。G-Portalを始めとして、データ検索システムからデータをダウンロードする際にはアカウントの作成が必要になること多くあります。また、データ検索システムによっては、無償のデータでも、一度注文を出してダウンロードの準備が完了するまで時間がかかるものもあります。

衛星データを読み込む

データのダウンロードが完了したら、次の自作のプログラムや解析ツールを使ってデータを読み込みます。プログラムを自作する場合は、衛星データのフォーマットを扱うための既存のプログラム(ライブラリ)を利用することが一般的です。

衛星データの座標系の変換

三次元である地球の表層を観測している衛星データの多くは、地図投影法を用いることで位置情報を持った二次元の画像として表示されます。異なる地球観測衛星のデータや地上観測データ、地理情報システム(GIS)のデータと比較をするような解析の場合は、緯度経度で表す位置情報(地理座標系)の基準となる測地系や、データの位置情報(投影座標系)を設定する地図投影法をデータ間で合わせる必要があります。

測地系
  • 測地系とは、位置や高さの基準面となる地球楕円体(ex. GRS80楕円体)と、緯度経度の原点と原方位を定めた座標系(ex. ITRF94)からなる系(システム)のことを示します。代表的な測地系として日本測地系2011(JGD2011)やWorld Geodetic System 1984(WGS84)などがあります。
地図投影法
  • 回転楕円体面や球面上の図形を平面上に移す方法で、衛星データや解析結果の表示、またGISでは以下のような投影法が使われます。
  • 投影法 概要 画像例
    メルカトル(Mercator)/正角円筒図法 地球を正軸法で円筒に投影した図法で、2地点間の角度が正しく表現されます。高緯度は歪みにより実際に面積よりも大きく表現されます。

    出典:地図投影法学習のための地図画像素材集

    ユニバーサル横メルカトル(Universal Transverse Mercator: UTM)図法 西経180°から東経180°までを6°幅で分割した各経度帯における中央経度を基準子午線として、各経度帯の南緯80°から北緯84°までを横軸法で円筒に投影し、極域をユニバーサル極心平射図法で投影した図法です。
    正距円筒図法 標準緯線上の距離が正しく表現されるように地球を円筒に投影した図法です。緯線と経線が正方形網(直角かつ等間隔)に表現されます。

    AMSR2海面水温

    モルワイデ図法 地図上の面積比が正しく表現される正積図法。緯線は水平な直線になり、経線は標準緯線が垂直な直線でそれ以外は弧を描く曲線になります。

    GOSAT全球二酸化炭素濃度分布

    サンソン/正弦曲線(sinusoidal )図法 地図上の面積比が正しく表現される正積図法。緯線は水平な直線になり、経線は正弦曲線で表現されます。

    GCOM-C植生指標(NDVI)

    極心平射(Polar stereographic)図法 地球の極に接する平面を置き、平面に接していない側の極に置いた視点と地球上の点を直線で結び、平面と交わる点に投影する図法で、2地点間の角度が正しく表現される。 AMSR2北極海氷分布

    AMSR2北極海氷分布

これらの座標系の変換には、解析ツールや地理データを扱うライブラリ(ex. GDAL)が良く使用されます。

目的に合わせた解析処理を行う

データを読み込み、必要な座標変換などの処理ができたら、プログラミングや解析ツールを用いて目的に合わせた処理を行います。以下は解析処理の一例です。

画像処理
  • 主に物理量などに変換されていない画像データから情報を抽出するために行います。主な処理として画像の強調(濃度変換、カラー合成、ヒストグラム変換)や、様々な特徴を抽出するための画像間演算(スペクトル特徴)、フィルタリング(幾何学的特徴)、テクスチャ解析(テクスチャ特徴)などがあります。
分類
  • 主に画像データ内の対象物を区別するために、ピクセル単位や似た特徴を持つピクセルの集まり毎に、その特徴合わせた分類クラスをつける処理です。分類には様々な手法(ex. クラスタリング、マルチレベルスライス法、ディシジョンツリー法、最短距離分類法、最尤分類法、エキスパートシステムの利用、ニューラルネットワークの利用など)があり、衛星データ/教師データや分類クラスに応じて適切な手法を選定することが重要です。
時間解析
  • 物理量などの時間方向の特徴(ex. 平均値、最大値、最小値、平均値からの差など)を取得するために、異なる時期の複数のデータを用いて解析します。物理量に変換されていない光学、レーダ画像でも異なる時期の画像データを用いてカラー合成することで、地表面の変化(ex. 森林の伐採、洪水の範囲なおd)を捉えることができます。
空間解析
  • 画像処理で行うような特徴抽出処理以外にも、物理量や分類結果などの空間方向の特徴(ex. 特定の領域内の平均値、特定の領域内の各分類クラス割合など)を取得するために、GISデータなどを利用して解析します。
標高・変動情報の解析
  • ステレオ撮像データ(立体視画像)による数値標高モデル(DEM)の作成や、合成開口レーダ(SAR)データの干渉SAR(InSAR)解析による標高計測・地表面の変動計測など、特定の観測手法により高さ方向に関する情報を取得することがきます。

結果の出力

画像データやグラフ等の解析処理の結果を、画像・テキストなどの形式で出力します。
こちらのページからは様々な衛星データの解析結果と解説が掲載されています。また、G-Portalで配布されている標準プロダクトなどをもとに、解析処理を行い作成したデータの一部は研究プロダクトとしてEORC研究グループのwebページなどからも配布されています。

参考情報

衛星データの解析には、衛星データを扱うのに十分なメモリや計算能力を備えた計算機環境(ex. パソコン、ワークステーションやクラウドサーバなど)が必要になりますが、3.〜7.の処理を1つのプラットフォームで一貫して行えるツールやサービスも提供されています。

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