重点テーマ:水災害・水資源管理
― 衛星水関連ソリューションのグローバルサウスへの展開による市場獲得―
目指す便益
水災害・水資源問題を抱えるグローバルサウス(GS)諸国に対して、我が国発の水災害・水資源ソリューション を展開すること等により、当該諸国との関係を強化し、外交や産業上での多面的な便益を引き出す。
なぜ、グローバルサウスの水災害・水資源問題なのか?
今後著しい経済発展・人口増加が見込まれるGS諸国について、日本政府はGS諸国との一層の関与強化を示し、これを外交上の重要課題として識別しています。GS諸国が抱える重要な課題として水災害・水資源管理があり、経済発展のボトルネックとしての水問題、越境水による地政学リスクの顕在化等の観点から、これらの課題の解決が望まれています。
何を目指すのか?
JAXAは、2031年度までに便益共創パートナーとの連携による水関連ソリューションの展開を通じて、GS諸国に展開する日系企業の事業リスク軽減や、我が国の民間企業の水ソリューションによる市場獲得、さらには外交ツールとしての活用を目指します。具体的には次の(1)~(3)の便益創出を目指します。
(1) GS諸国に展開する日系企業の事業リスク軽減
GS諸国には多くの日系企業が事業展開しています。一方GS諸国では、日本国内のような気象情報や水害ハザードマップのような防災情報が十分に整備されておらず、洪水や渇水などの水災害・水資源問題が企業の事業活動やサプライチェーンに影響を与える大きなリスクになります。例えば2011年のタイ洪水では、現地の工場等が数か月間操業停止となり、3兆6000億円もの経済損失が生じたと言われています。このような水に関するリスクを「早く・広く・客観的」に把握するために、衛星を活用した水関連ソリューションを展開し、以下のようなソリューションの提供を目指します。
・進出先や工場立地の“水リスク”を事前に評価できる
・洪水・干ばつを早期に察知し、操業停止を回避できる
・サプライチェーン全体のリスクを見える化できる
(2) 国内民間事業者による水関連サービスの展開と市場獲得
気候変動により水災害が深刻化し、世界的に水観測・予測・管理サービスの需要が急拡大しています。水災害・水資源問題はGS諸国のボトルネックとなり、この解決に向けたインフラ強靭化、早期警戒、水資源確保等の分野で官民投資も拡大しています。
こうした潮流を捉え、JAXAによる衛星利用技術と国内の民間事業者が持つ技術・ノウハウ・ネットワーク等を相乗的に活かしつつ、本重点テーマで連携するパートナー機関とも協力しながら、GS諸国の市場獲得を目指します。
(3) GS諸国でのソリューション浸透・外交ツール化
GS諸国では、気候変動の影響等により、GS諸国における水災害・水資源問題が深刻化しています。一方で、監視すべき河川数が膨大であり、観測の時空間的な空白等が課題となっており、ダムや堤防等のインフラ事前防災投資も限定的です。加えて、急速な都市化や上下流域間での利害対立などにより水資源の安定的利用も課題となっています。例えば、150か国以上が領土に国際流域を含むなかで、国際的な運用取決め等がある水域は全体の30%以下であるなど、越境的な水文情報の不足や政治対立などの地政学リスクも顕在化しています。
このような越境的な水災害・水資源問題に関する状況監視やリスク把握にあたっては、国境を越えた広域的な観測が不可欠であり、衛星を活用した全球での降水観測やその観測データを活用して河川の状況変化をモニタリングするグローバル水文シミュレーションシステムが重要な役割を担います。
共創で切り拓く、新たな水課題ソリューションの開発と展開
水に係る各種課題等を踏まえ、JAXAは、便益共創に向けたパートナー機関や民間事業者と連携しながら、水災害に係る早期警戒情報や統合水資源管理、事前防災投資に必要となるグローバル水文シミュレーションシステムや気象水文の季節予測情報などを開発・実証し、展開に向けた働きかけを行います。 また、国内の民間事業者主体主導で現地ニーズに応じた高度な水災害・水資源管理を可能にするアプリケーションの開発・サービス展開をしていけるよう、官民連携の下で出口を見据えたソリューションの研究開発を行うとともに、関連技術をJAXAから段階的に民間に移管することを目指します(図1)。

実施体制及び共創活動の詳細については、以下の資料の14-17頁をご覧ください。
「JAXA第5期中長期計画における衛星地球観測の重点テーマについて」資料97-4、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会、宇宙開発利用部会(第97回)、2025年7月4日。
技術開発:水災害・水資源関連のシステム・ツール
(1) 陸面・水循環シミュレーションシステム「Today’s Earth」の高度化
世界中の河川(流量・水位、浸水状況など)をボーダーレスに監視し、過去・現在・未来(約5日後まで)の変化を確認可能!
Today’s Earth (TE)は、JAXAが東京大学と共同で開発している陸面水文量シミュレーションシステムです。 本システムでは、衛星地球観測を計算機によるシミュレーションと融合し、時々刻々と変化する気象状況に応じて、地表面や河川の状態を数値計算から導き出すことで、衛星だけでは捉えられない物理量も含めた様々な水循環諸量について、過去・現在・未来の情報を提供しています (図2) 。

現在、JAXAでは東京大学と共にシミュレーションの解像度の向上や、さらなる精度向上を目指し、研究開発を進めています。
(2) 衛星全球降水マップ「GSMaP」の高度化
全球の雨をリアルタイムに監視し、過去データも踏まえてその日、その月の雨の分布・強さ・豪雨干ばつ度合いなどを確認可能!衛星全球降水マップ”GSMaP”は、全球降水観測(GPM)計画の下、全球降水観測計画「GPM主衛星」に搭載された二周波降水レーダ(DPR)を中心に、複数の降水を観測する衛星や静止気象衛星を組み合わせて開発した世界の雨マップです。1998年以降から現在までの1時間毎の世界の降水分布情報を提供しており、気象や防災などの分野をはじめ、気候、農業、公衆衛生、教育などの多岐に渡る様々な分野で幅広く利用されています(図3)。

現在、JAXAでは新規センサの導入や、AI・機械学習等を活用し、より高精度なアルゴリズム開発を行っています。さらに、次項に示すGSMaPローカル雨量計補正ツール「G-LINT」の開発も含め、GSMaPの高度化に向けて研究開発を進めています。
(3) GSMaPローカル雨量計補正ツール「G-LINT」の開発
G-LINTは、地上に設置した雨量計を用いて、衛星によるGSMaP降水量を補正するツールです。地上観測を融合することでより定量的な降水量がわかります。
オープンソースのツールとなっており、2026年度はコミュニティ向けの公開、2027年度以降は一般への公開を予定しています(図4)。

参考文献
・JAXA 「雨のデータを 使ってみませんか? TRMM / GPM / GSMaPの 利用事例集」
・JAXA 「衛星全球降水マップGSMaP利用ガイドライン」
・JAXA 「Today’s Earth-プロダクト説明書」