気象・環境

2025.11.05(水)

世界最大の氷山「A23a」の分裂
~最新の人工衛星「いぶきGW」と「しずく」、「だいち2号・4号」が捉えたA23a氷山の軌跡~

南極氷床から漂流していた世界最大の氷山「A23a」が、南大西洋のサウスジョージア島の北東の海洋まで移動し、分裂したことが確認されました。巨大氷山の漂流は島の野生動物や海路に影響を与えるため、A23aの移動および状態が注視されてきました。これまでJAXAはマイクロ波を用いる「しずく」、「だいち2号」、「だいち4号」でA23aを観測してきました(※1、※2)。「しずく」搭載のマイクロ波放射計「AMSR2」は、分解能が数km-十数kmと比較的低いですが、観測可能な範囲と頻度が高いことから、A23aのような巨大な氷山の位置や大まかな形状を時間的にシームレスに把握することが可能です。一方、「だいち2号」や「だいち4号」搭載の合成開口レーダ(PALSAR-2、PALSAR-3)は、観測頻度が少ないものの、分解能が数m~数十mと高いため、氷山の面積や亀裂など細かな状態を観測することが可能です。マイクロ波を検出するこれらの衛星センサは雲の有無や昼夜を問わず全球を観測できるため、A23a氷山の動態を継続的に把握する上で最適なツールとなります。本記事では、前回の記事に引き続き、A23a氷山の軌跡および状態に関する解析結果を2025年10月まで拡張して報告するとともに、2025年6月29日に打ち上げられた新たなマイクロ波放射計「いぶきGW」搭載のAMSR3(※3)による、最新のA23a氷山の観測画像を紹介します。
A23a氷山は、1986年にフィルヒナー棚氷(Filchner Ice Shelf)から分離した後、ウェッデル海の海底に約30年以上にわたり座礁していました。ところが2020年頃、海底から離脱して漂流を開始しました。図1(a)は、「しずく」搭載のマイクロ波放射計AMSR2のデータを用いて、2022年1月15日以降のA23a氷山の動きを1か月ごとに追跡した結果を示しています。氷山は約2年間にわたり南極大陸の陸棚斜面に沿って北西方向へ移動し、ウェッデル海を横断した後、南極周極流の影響を受けて北東方向に転じ、2025年2月27日頃にはサウスジョージア島沖の大陸棚に再び座礁しました。約3か月間、A23a氷山は同地点に留まりましたが、この間の崩落や融解の進行により、5月中旬頃に陸棚から離脱して再び東方へ移動を始めました(図1b)。その後、A23a氷山はサウスジョージア島を半時計回りに移動し、その間に連続的に生じた大規模崩落により、島の北部に回り込んだ9月頃には面積がおよそ半減しました。
図1(c)は、「いぶきGW」に搭載のAMSR3が捉えた、A23a氷山の最新の姿を示しています。2025年10月10日時点で、A23a氷山は複数の大きな氷片に分割されており、その崩壊の進行が明瞭に確認できます。A23a氷山は、その面積の変化からも明らかなように、多量の冷たい淡水を海洋へ放出しており、これによる海洋生態系への影響が懸念されています。

図1. AMSR2によるA23a氷山の追跡結果(a,b)とAMSR3の観測画像(c)。(a)は2022年1月から2025年3月を月毎、(b)は2025年6月~9月の間を半月毎で追跡した結果で、背景色はETOPO (https://www.ncei.noaa.gov/products/etopo-global-relief-model)の海底地形を表している。(c)は2025年10月10日3時30分頃に取得されたAMSR3観測画像(R:36GHz/V偏波、GB:36GHz/H偏波)を表す(黄色枠:図2におけるALOS-4画像の範囲)。なお、本図では、AMSR3の観測データに高解像度化処理を施し空間解像度(約10km)を5kmグリッドにアップサンプリングしたデータを用いている。赤★印は、1986年にフィルヒナー棚氷から分離した直後から2020年頃までのA23a氷山の座礁位置を示し、黄★印は2025年3月にサウスジョージア島沖で再び座礁した位置を示す。

次に、高空間分解能の「だいち」シリーズの画像を用いて、より詳細な氷山の状態を捉えました。図2(a)は「だいち2号」の広域観測モード(分解能100m),図2(b)は「だいち4号」の高分解能モード(分解能10m)で観測された画像です。氷山がウェッデル海に座礁していた2015年8月29日時点(図2a)で約4050㎞2の大きさがあった氷山は、2025年10月9日時点(図2b)で約1350㎞2まで縮小しました。高分解能の「だいち」シリーズでは、氷山の状態を詳細に観測することができ、氷山の周縁から少しずつ分裂している様子がわかります。今後、南半球に春が到来し海水温度が上昇すれば、氷山の融解・分裂が加速し、まもなく消滅することが予想されています(※4)。

図2.「だいち2号」と「だいち4号」の観測画像の拡大図。(a)は2015年8月29日に「だいち2号」で観測された画像、(b)は2025年10月9日に「だいち4号」で観測された画像である。(a)、(b)共に、赤色と緑色にHV偏波、青色にHH偏波の画像を割り当ててカラー合成した。

このように、マイクロ波を用いる「しずく」、「いぶきGW」、「だいち2号」、「だいち4号」のそれぞれの強みを生かすことによって、現地での観測が非常に困難である南極域の氷山の変化を観測することができました。JAXAでは今後もさまざまな地球観測衛星による当該地域への観測を継続していく予定です。

参考:

※1. 「だいち2号」による漂流する巨大氷山「A23a」の観測結果
https://www.eorc.jaxa.jp/ALOS/jp/library/general-topics/20231205_nankyoku_j.htm.

※2. 世界最大の氷山「A23a」、ついにサウスジョージア島の陸棚に座礁か?!
~「しずく」「だいち2号」「だいち4号」から見るA23a氷山の軌跡~https://earth.jaxa.jp/ja/earthview/2025/02/28/8535/index.html

※3 AMSR3は、2002年打上げの米国Aqua衛星搭載AMSR-Eに始まる「AMSRシリーズ」による、23年以上にわたる「地球上の水に関する観測」を引き継ぐセンサです。AMSRシリーズは、高い観測頻度、大口径のアンテナによる高い空間解像度、低周波~高周波までカバーする観測チャネルにより、世界最高性能を有する日本のマイクロ波放射計のシリーズです。地表面や大気などの自然界から放射または散乱される微弱なマイクロ波を観測することで、海面水温、海上風速、降水量、土壌水分量、積雪深、海氷密接度などの観測を行うことが可能です。これらのデータは、極域海氷面積の減少等の気候変動の把握に加え、気象予報、漁業(水産業)、船舶の航行支援等の分野で現業利用されており、AMSRシリーズは幅広い分野に貢献しています。AMSR3とAMSRシリーズの詳細はJAXAサテナビ『地球の水を見る「AMSRシリーズ」~1.5秒間に1回転する「高性能マイクロ波放射計」~』をご覧ください。
https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/news/2025/06/17/11087/index.html

※4. CNN Climate, World’s biggest iceberg, A23a, has broken up
https://edition.cnn.com/2025/09/03/climate/worlds-biggest-iceberg-a23a-broken-scli-intl

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