利用研究

2022.06.06(月)

打ち上げから5年目を迎える「しきさい」

気候変動観測衛星「しきさい」とは

2017年12月23日にJAXA種子島宇宙センターから打ち上げられた気候変動観測衛星GCOM-C「しきさい」は、水循環観測衛星GCOM-W「しずく」と共に、地球環境変動を総合的かつ継続的に観測することを目的としたミッション(GCOM:Global Change Observation Mission)の一環として現在運用されています。 「しずく」が主に水循環に関わる観測を担うのに対し、「しきさい」は地球全体における放射・熱収支※1と炭素循環(主に基礎生産※2)に関わる地球上の様々な物理量を観測しています(図1)。例えば、雲・エアロゾル※3といった大気環境に関わるもの、植生指数・陸面温度といった陸域環境に関わるもの、海面温度・クロロフィルa濃度※4といった海洋環境に関わるもの、そして積雪域・海氷分布といった雪氷環境に関わるものが観測対象となっています。これらの物理量は互いに密接に影響し合いながら変化するため、総合的かつ長期に渡ってデータを蓄積することが非常に重要となります。
 「しきさい」に搭載されている多波長光学放射計SGLI(Second generation GLobal Imager)は、近紫外~熱赤外域(波長0.38μm~12μm)という地球から反射・放射されるエネルギーが特に大きくなる波長帯に感度を持ち、人間の目には見えない光も含めて様々な地球の情報を得ることが可能となっています。また、宇宙から広い視野(観測幅1150km以上)で観測することで、地上観測だけではカバーしきれない地球全体の変化を高頻度(中緯度では約2日に1回の頻度)でモニタリングできる点も特長の一つとなっています。
 現在「しきさい」の観測データは、進行する地球環境変化の監視だけでなく、数値モデルとの連携による将来予測精度の向上に向けた研究に貢献すると共に、海面水温や植物プランクトン等のデータによる漁場や生育環境の評価などの水産分野での利用、日射量や植生指数等による広域の農業生産の評価、さらには火山監視を含めた災害対応など、現業的な分野にも利用が広がっています。

図1 「しきさい」が観測する地球環境に関する物理量。複雑に影響し合う大気、陸、海、雪氷における放射収支や炭素循環を精度良く観測することが「しきさい」のミッションの一つとなっている。温室効果ガスである二酸化炭素をはじめとした炭素は、地球上の様々な生物や大気、海洋の間で形を変えながら循環している。人間活動に伴い排出される二酸化炭素が、結果的に地球にどの程度影響を及ぼすかを知るためには、こうした炭素循環を詳細に把握することが重要となる。

※1 放射・熱収支…地球に入ってくる太陽放射エネルギーと地球から出ていくエネルギーのバランスのこと。収支が釣り合っている状態を放射平衡と呼ぶ。
※2 基礎生産…陸上の植物や海中の植物プランクトンといった生物が二酸化炭素等の無機物から有機物を生成すること。1次生産ともいう。
※3 エアロゾル…気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子と周囲の気体の混合体のこと。粒径(サイズ)は0.001μmから100μm程度まで幅広く存在する。黄砂やPM2.5も含まれる。
※4 クロロフィルa濃度…植物プランクトンに含まれる主要な光合成色素の海洋表層における濃度のこと。

「しきさい」の成果を全4回にわたって解説

今回の「地球が見える」では、打ち上げから5年目を迎える「しきさい」によって得られたこれまでの成果や今後の展望について、①大気、②陸、③海、④雪氷の4つのテーマに分けて紹介していきます。

■各記事へのリンクはこちら

①大気(公開済み)

②陸(公開済み)

③海(公開済み)

④雪氷(公開済み)

「しきさい」の利用に関するウェブサイト

「しきさい」の衛星データは無料で公開されており、どの方でも利用可能です(サイトポリシー・利用規約)。以下に「しきさい」を利用したい方向けのウェブサイトをいくつかご紹介します。

EORC / GCOM-Cウェブサイト
「しきさい」に関するより詳細な情報(アルゴリズムや検証、校正状況等)を提供しています。

JASMESポータル
「しきさい」データをはじめとした地球の気候形成に関わる様々な物理量の季節・経年変動と現在の状況に関する情報を提供しています。

JASMES/SGLI標準モニタ
日本周辺および全球の「しきさい」標準プロダクト画像を公開しています。

JASMES/SGLI準リアルタイムモニタ
日本周辺の「しきさい」準リアルタイム画像を公開しています。準リアルタイムプロダクトは標準プロダクトと異なり、配信時間を最優先として作成される実利用機関向けのデータとなります。

地球観測衛星データ提供システム G-Portal
JAXAの地球観測衛星によって得られたデータの検索(衛星/センサ検索、物理量検索)と提供を行うシステムです。データ形式はGeoTIFF、HDF、NetCDF等となります。

JAXA for Earth on COVID-19
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による地球上の多様な変化を捉えるために、地球観測衛星を用いて社会・自然環境の変化を観測しています。交通、物流、産業、温室効果ガス、水質の分野に関する分析結果を掲載しています。

Earth Observing Dashboard
JAXA、NASA、ESA間の協力の元、地球観測衛星データによる地球環境や社会経済活動の変化に関する解析結果を公開しています。環境変化や気候変動、それによって引き起こされる社会・経済への影響を広く理解するための客観的な視点や情報を、一般の方や企業を含む幅広い層に向けて提供しています。

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