災害

2022.01.20(木)

トンガ火山島噴火に関する衛星観測について

●はじめに

2022年1月15日、南太平洋のトンガ王国の火山島であるフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山(地図)で大規模な噴火が発生しました。トンガを始めとする周辺国での被害、日本国内においてもこの噴火に起因した津波の被害が発生しており、被害に遭われた方々にお見舞い申し上げます。
JAXAでは陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)などの衛星観測情報を用いた解析・関係機関へのデータ提供を行っております。

地図:フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の位置

●「だいち2号」による観測

今回は海外の火山の噴火であるため、センチネルアジアのメンバーである現地の太平洋共同体(Pacific Community)などと連携して、「だいち2号」の緊急観測、観測情報の提供を行っています。センチネルアジアはJAXAが事務局を務める宇宙技術を用いた国際的な防災協力枠組みです。

Sentinel Asia: Volcano eruption in Tonga on 15 January, 2022
https://sentinel-asia.org/EO/2022/article20220115TO.html

JAXAでは、雲や噴煙の下でも画像を取得可能な「だいち2号」搭載の合成開口レーダ「PALSAR-2」による緊急観測も行いました。図1-1は、2022年1月17日23時頃(世界標準時,日本時間で同1月18日8時頃)に「だいち2号」の広域観測モードで緊急観測を行った際の観測画像を地図に重ねたものです。

図1-1 「だいち2号」による緊急観測範囲
(2022年1月17日、世界標準時)

図1-2は、2019年12月14日(噴火前)と2022年1月17日(噴火後)に「だいち2号」が観測したフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山周辺の画像です。噴火によって、画像のほぼ中央にあった火口を中心に大半の陸地が消失しています。

図1-2 「だいち2号」が観測したフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の変化
(左)2019年12月14日、(右)2022年1月17日

図1-3は、JAXAも参加している国際災害チャータで公開されている欧州およびフランスの光学衛星画像です(原図はこちら)。噴火前の2021年12月8日と、噴火後の2022年1月16日を比較していますが、やはりフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山島の大半の消失が分かります。光学衛星は視認性が良い特長がありますが、1月16日の光学衛星画像では、点線で示されている(2021年12月8日の)島の領域において、画像左側の部分は雲が掛かって良く見えていません。

図1-3 国際災害チャータで提供された光学衛星画像
(左)2021年12月8日 Sentinel-2(分解能10m)
(右)2022年1月16日 Pléiades (分解能50cm)
Copyright: Contains modified Copernicus Sentinel data (2021)
Includes Pleiades material © CNES (2022), Distribution Airbus DS.
Map produced by UNITAR / UNOSAT

The International Charter Space and Major Disasters – Volcanic eruption in Tonga and the Pacific
https://disasterscharter.org/web/guest/activations/-/article/ocean-wave-in-tonga-activation-744-

災害発生時は、迅速かつ確実に情報を得られることが求められますが、「だいち2号」では噴煙や雲の影響を受けず安定的に災害状況を確認できます。これらレーダと光学の2種類の衛星画像の両方を使うことで、現地の状況把握に役立てることが可能です。現地防災機関での被害把握等に役立つよう、「だいち2号」の緊急観測、画像提供を実施していきます。

●「しきさい」による変色水の観測

海域火山である海底火山(水面下の火山)や火山島(水面上まである火山)の活動状況の把握には、周囲に発生する変色水の分布(規模)や色の変化が有効とされています。変色水は、火山活動に伴って発生する熱水が海水と反応することで発生するものです。

補足:火山活動が活発な時は熱水の酸性度が高く、鉄を多く溶解して含み、濃度に応じて緑色から赤褐色の変色水を発生します。また、熱水の量が多いほど、変色水の量(衛星で見た場合の面積)も大きくなります。

フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山島においても、昨年12月から大規模な変色水が発生しており、火山活動が活発化していたことを「しきさい」で捉えていました。噴火前は図2-2(1)(2021年11月19日)の通り、変色水の分布は火山島周辺に限られていましたが、12月23日、27日には図2-2(2)、(3)の通り、黄色の矢印で示した場所に変色水が観測されました。この火山島は12月20日から28日にも噴火しており、これに関係した変色水と解釈されます。
また、図2-2(4)、(5)の通り、大噴火前日の1月14日には変色水の範囲が約100 kmに達し、大噴火3日後の1月18日は変色水が300 km程度と特に大規模に広がっている様子が観測されました。噴火後でも大規模な変色水が確認されたことで、引き続き火山活動が活発な可能性があります。今後も変色水の確認を続けていきます。
なお、各画像の右寄りに筋状の水色の箇所が見えますが、これは環礁などの浅所です。これについては、後述します(図2-3)。

図2-1:フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山(中央赤▲)周辺の地図
(黄色枠は図2-2,2-3で衛星画像を示す範囲)
(1) 2021年11月19日(噴火前:火山島周辺のみ変色水)
右寄りの筋状の水色の箇所は変色水ではなく、環礁などの浅所
(2) 2021年12月23日(12月20日から28日の噴火中)
(3) 2021年12月27日(12月20日から28日の噴火中)
(4) 2022年1月14日(大噴火前日)
(5) 2022年1月18日(大噴火3日後)

図2-2 火山島周辺の「しきさい」観測画像
火山島(▲)周辺に水色に見えるもの(黄色の矢印で図示)が変色水

図2-2の各画像で、中央右寄りから右上にかけて、矢印のない水色の箇所が見えます。これらは環礁等の浅瀬と見られます。図2-3(1)に噴火前(2021年11月19日)の火山島周辺の「しきさい」観測画像を示します。この画像では変色水は見られませんが、細い水色の部分が見えています。図2-3(2)には、環礁等の浅所を黄色で示しました。両者は良く一致し、噴火前から見えている水色の箇所は、変色水ではないと判断されます。

(1)衛星による可視画像
(2)可視画像に環礁等の浅所を黄色に表示した画像

図2-3 噴火前の火山島周辺の衛星「しきさい」可視画像と浅所の範囲
浅所のデータは「Millennium Coral Reef Mapping Project」による

●「しきさい」による軽石の観測

大噴火3日後の1月18日の「しきさい」観測画像では、軽石のようなものも見えており、フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山島の周りに点在している様子が判読できます。変色水を見ていた図2-2の時と比べて、軽石を分かりやすくするために色調を補正しているため、水色に見えていた変色水は緑色にみえています。

(1) 2022年1月18日(大噴火3日後)
(2) 2022年1月18日(火山島周辺を拡大)

図2-4 火山島周辺の「しきさい」観測画像から
判読した軽石とみられるもの
火山島(▲)周辺に茶色に見えるもの(黄色の矢印で図示)が軽石

「しきさい」は観測幅が広く、衛星の進む方向と直行する1,150 kmの幅を観測できます。また、海面を高感度に観測可能できる性能を持っているため、今回のような広域の海洋の状況を観測することが可能です。JAXAでは、「しきさい」による国内海域火山(西之島や福徳岡ノ場など)の変色水の監視利用に向けた実証活動を、海上保安庁や国内の研究者(東京工業大学理学院 野上教授)とともに行っております。

●気象衛星「ひまわり」による噴火観測

すでに気象庁・各種報道で動画が公開されていますが、気象庁から提供を受けているひまわりデータを、JAXAにて等緯度経度格子に加工(変換)した上で可視化し、動画にしたものを紹介します。上空から見た姿に投影変換された画像のため、噴煙と衝撃波が火山島を中心とした円形に広がる様子が分かります(図3-1)。

図3-1 気象衛星「ひまわり」による火山島噴火の様子
(日本時間2022年1月15日13時~19時)

●最後に

JAXAでは引き続き「だいち2号」、「しきさい」等による観測を継続し、関係機関への情報提供を行っていきます。追加の観測結果が得られ次第、随時公開する予定です。

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