災害

2021.10.07(木)

福徳岡ノ場の噴火と新島~衛星観測による新島形成・変色水・軽石・火山ガス・噴煙の把握~

■概要

8月13日に福徳岡ノ場海底火山で大規模な噴火が発生し、新島が形成されました。船舶の航行安全や、我が国の領土・領海の正確な把握のため、海域火山の観測は重要ですが、非常に遠方で航空機等による観測を頻繁に行うことができません。そこでJAXAでは人工衛星による観測結果を国内の火山関係機関 (気象庁、海上保安庁等)に提供する協力を行っています。ここでは福徳岡ノ場の衛星観測で捉えた、新島形成とその後の変化や噴火前からの活動状況(変色水等)を紹介します。
今後も福徳岡ノ場の新島の状況等の関係機関への情報提供や、海域火山の活動状況把握のための衛星利用技術開発を進めていきます。

10月13日更新
・誤記のお詫びと訂正:10月7日公開の本記事「図5:噴火後の変色水の推移」について、観測日と変色水の説明に誤りがありました。お詫び申し上げますとともに、訂正させて頂きます。
・新規観測画像の追加:表1に10月8日観測の「だいち2号」レーダ画像を追加しました。

図1:衛星「しきさい」観測による変色水
(変色水(緑色部分)が島の周囲や北側に約20kmひろがっている)
(2021年9月5日)
図2:衛星「だいち2号」観測による新島
(今回の噴火で形成された東西の新島が確認できる)
(2021年8月23日)
図3:衛星「ひまわり」観測による噴煙の推移
(2021年8月12日-14日)

※このページの衛星観測日はすべて日本時間です。

■福徳岡ノ場とは

福徳岡ノ場は、東京の南方1300kmにある海底火山です。東京から奄美大島までとほぼ同じ距離にあります(図4)。この福徳岡ノ場は、北福徳カルデラ(南北16km、東西10km)の中央火口丘にあり、複合火山「北福徳堆」(南北40km東西20km、比高2000m)の山頂部にあります。これまで1904年、1914年、1986年の3回、噴火に伴う新島を形成した記録があるものの、いずれも海没しました。福徳岡ノ場の詳細は海上保安庁海域火山データベース海域火山通覧をご覧ください。

図4:福徳岡ノ場の位置(赤▲が福徳岡ノ場、黄色□は噴煙の動画の表示範囲)

■今回の噴火の概要について

今回、福徳岡ノ場では、噴煙が高さ16kmと成層圏に届く噴火が発生しました(気象庁発表資料)。この噴火はプリニー式とみられます。プリニー式噴火とは、大量の火山灰、軽石を噴出する噴火です。噴煙柱が成層圏に達し、大量の火山灰が地球全体に広がった場合には、異常気象を引き起こします。最近では、ピナトゥボ火山(1991年噴火)、セントヘレンズ火山(1980年噴火)等が知られています。プリニー式噴火等の噴火の種類の解説については、科学技術振興機構Science Window 2009年夏号13ページをご覧ください。

■新島の形成とその後の変化

福徳岡ノ場は、これまで1904年、1914年、1986年の3回新島を形成した記録があるものの、いずれも海没しました。 
JAXAでは、天候に左右されず観測可能な陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)や、アメリカ地質調査所(USGS)のLandsat8等、入手可能な複数の衛星観測結果を解析し、新島の状況を注視しています。
福徳岡ノ場の新島の衛星観測データの判読結果を表1に示します。新島の形状変化が分かりやすいよう、8月17日のLandsat8画像から判読した海岸線を各画像に加えています。8月17日、23日に東西2つの新島を確認しましたが、その後の衛星画像では東側の新島ははっきり見えず、浸食等が進んだように見えます。9月18日、20日は東側の新島の箇所に通常の海面と異なる様子が見られます。その後、10月4日の観測では西側の新島についても海岸線が後退、島が縮小しているようです。海面の波の影響等に注意しながら引き続き注視していきます。

表1:噴火で形成した新島の状況推移(衛星観測データからの判読)
Landsat8画像 だいち2号画像  

8月1日(噴火前)

8月9日(噴火前)
・Landsat8、だいち2号ともに、福徳岡ノ場の噴火前には島影は確認されない。
しきさい画像  

8月13日(噴火当日)
福徳岡ノ場で噴火発生(気象庁海上保安庁発表)
・しきさい:福徳岡ノ場上空に噴煙を確認した。
Landsat8画像 だいち2号画像  

8月17日

8月23日
・Landsat8:東西2つの新島を確認した。
・だいち2号:西側の新島に変化は見られないが、東側の新島はLandsat8より不明瞭になっていた。

9月2日

9月5日
・Landsat8:西側の新島の大きさに変化はないが、東側の新島は一部水没し、白波らしきもののみが確認できた。
・だいち2号:西側の新島の大きさに変化はないが、東側の新島は確認できなかった。

9月18日

9月20日
・Landsat8:西側の新島の大きさに変化はないが、東側の新島は一部水没し、白波らしきもののみが確認できた。
・だいち2号:西側の新島の北端の海岸線がやや後退した。東側の新島の箇所は弱い反射が見られた。

10月4日

10月8日
・Landsat8:西側の新島の北端や南西側の海岸線が後退し、島が縮小している。9月18日の観測と同様に、東側の新島の個所に白波らしきものが見えた。
・だいち2号:西側の新島はさらに縮小したが、新島は引き続き存続している。

■変色水

変色水は火山活動により海水が変色する現象で、海域火山の活動状況の指標になっています。
8月13日に噴火した福徳岡ノ場は現在でも継続して変色水が確認できます(9月27日時点)。図5および図6は「しきさい」の観測結果です。地球全体を周回しながら常時観測しており、福徳岡ノ場付近も約2日に1回の頻度、250m分解能で観測できます。「しきさい」は海の色を正確に観測できるため、「しきさい」で観測した変色水の画像から火山活動の状況を把握することが可能です (周辺の海水は青く、福徳岡ノ場周辺は緑色の変色水が確認できます)。
2021年2月、3月頃から福徳岡ノ場の火山活動が活発化した可能性が高いことが変色水の画像 (図6)により分かり、海上保安庁が注視していた中、噴火しました。引き続き、変色水の発生状況や規模把握等を継続し、海上保安庁、気象庁等の関係機関への情報提供をしていきます。

10月13日更新
誤記のお詫びと訂正:「図5:噴火後の変色水の推移」のうち、3枚の画像のそれぞれの説明文に誤りがありました。お詫び申し上げますとともに、以下の通り訂正させて頂きます。
(誤)2020年12月15日(変色水確認されず)、2月16日(北に約2km変色水)、3月8日(北に約8km変色水)
(正)8月17日(北西に約120km変色水)、9月1日(北西に約70km変色水)、9月17日(北東に約20km変色水)

8月17日
(北西に約120km変色水)
9月1日
(北西に約70km変色水)
9月17日
(北東に約20km変色水)
図5:噴火後の変色水の推移
(「しきさい」海色画像、赤▲は福徳岡ノ場の位置、黒い部分は雲等によるデータ欠損部分)

2020年12月15日
(変色水確認されず)
2月16日
(北に約2km変色水)
3月8日
(北に約8km変色水)
図6:噴火前の変色水の推移
(「しきさい」海色画像、赤▲は福徳岡ノ場の位置、黒い部分は雲等によるデータ欠損部分)

■軽石

プリニー式噴火であったため、今回の噴火では大量の軽石が発生しました。軽石はしばらく沈まずに浮遊を続け、船舶の航行の妨げになります。9月27日時点では、福徳岡ノ場から北西に約850km離れた場所に浮遊していることが「しきさい」で観測されています。今回の噴火で、図7「しきさい」の可視画像(カメラで撮影したようなカラー画像)の左上に茶色く見えるものが軽石です。昼間の熱赤外線画像(暖かいものほど明るく見える画像)を併せると軽石と特定できることが分かりました。軽石は熱赤外線で明るく(暖かく)見えていますが、これは、軽石が太陽に暖められ、海より暖かくなっているからです。

8月17日の可視画像
(左上部の茶色部分が軽石)
8月17日の熱赤外画像
(白色の高温部分が軽石)

図7:福徳岡ノ場から北西約120kmに到達した軽石の様子
(「しきさい」可視画像と熱赤外線画像、赤▲は福徳岡ノ場の位置)

■二酸化硫黄および噴煙

火山活動により放出されるガス:二酸化硫黄や噴煙も人工衛星で観測可能です。噴煙は気象庁の静止気象衛星「ひまわり」、二酸化硫黄は欧州宇宙機関(ESA)の地球観測衛星「Sentinel-5P」で観測した例を下記に示します。図8は、「ひまわり」可視画像(10分間隔)を噴火前の12日から14日まで連続で示した動画です。噴煙が同じ場所から出ており、徐々に西側にひろがっていく様子がわかります。また、噴火当日の8月13日、8月14日はSentinel-5Pの観測結果から二酸化硫黄が確認されましたが(図9)、それ以降は確認されていません。

図8:噴煙の推移(「ひまわり」可視画像の連続動画)

8月12日 (噴火前) 8月13日 (噴火当日) 8月14日
Copernicus Sentinel-5Pデータ(Sentinel Hubから取得)
図9:二酸化硫黄の推移 (Sentinel-5P、赤▲は福徳岡ノ場の位置)

■海上保安庁のコメント

 海上保安庁では、海上交通の安全確保や新島誕生による領土領海の権益確保を目的として航空機や測量船による海域火山の監視・観測を行っています。

しかしながら福徳岡ノ場のような遠方にある海域火山は、航空機等による観測を頻繁に行うことは困難であることから、これまでもJAXA等の観測衛星による監視・観測を、航空機等による観測を補完する意味で重要と考え、活用してまいりました。

 今後は、更にJAXA等の観測衛星により火山活動の急激な変化を監視するとともに、航空機による詳細な活動状況の把握を併せ、相互に補完しながら海域火山の活動状況の把握に努めていくことが重要と考えています。

■東京工業大学 野上健治教授のコメント:

海域火山の活動活発化は海上交通に影響を及ぼすためその監視・観測は極めて重要である。また、放出される火山ガスや噴煙の広がりは航空交通にも大きく影響する。衛星観測によってもたらされる海域火山活動に関する詳細な情報は、防災上のみならず国益上の観点からも極めて有益であり、今後ますます重要な役割を果たすと期待される。

■JAXAの火山活動速報システム (研究中)

火山活動速報システム

「しきさい」や小型赤外カメラ等の可視光線や赤外線データを用いることで、遠方の火山等を広域かつ定期的に監視することができます。JAXAは、将来の防災・減災に寄与することを目指して、外部機関と協力して研究し、衛星データを防災機関等に提供しています。その一環として、日本周辺の火山を対象に赤外線データ等の解析結果を「火山活動速報システム」として公開しています。

■関連サイト

JAXAひまわりモニタ:図8に示した噴煙を閲覧できます。気象庁から提供されている静止気象衛星ひまわり標準データ、およびJAXAがひまわり標準データから作成する物理量データを公開しています。
海上保安庁:福徳岡ノ場 (海域データベース)
気象庁:福徳岡ノ場
国土地理院:福徳岡ノ場の噴火活動関連情報
東京工業大学 理学院 火山流体研究センター

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