災害

2021.03.12(金)

東日本大震災後の人工衛星の防災活用について

 はじめに

2011年3月11日に発生した東日本大震災では、宇宙航空研究開発機構(以降、「JAXA」)は、多くの人工衛星による被災地域の観測やその観測画像より求められた推定被害地図などの情報を、自治体をはじめとする関係機関へ複数チャンネルを通して提供し災害対応の支援を行いました。以降、2014年5月に陸域観測技術衛星2号機「だいち2号」(以降、「だいち2号」)が打ち上げられ、この人工衛星の目的の一つである防災利用として災害発生時に多くに活用されています。ここでは、東日本大震災以降のJAXAにおける人工衛星による防災利用実証活動および今後の取組みについて紹介します。

「だいち2号」による緊急観測対応

自然災害発生時の「だいち2号」による緊急観測対応は、「だいち2号」の打ち上げ後の機能確認後の2014年7月10日の台風8号による豪雨災害より開始しました。それ以降、2014年8月の豪雨による広島市の土砂災害、2015年9月の関東・東北豪雨災害、2016年4月の熊本地震災害、2018年7月の平成30年7月豪雨災害、2019年10月の東日本台風災害や、最近では2020年7月の令和2年7月豪雨災害にて政府防災機関からの要請による緊急観測対応を行いました。また、国内災害だけでなく、センチネルアジアや国際災害チャータなどの国際的な人工衛星による防災活動支援の枠組みからの要請による緊急観測を実施しています。これまでの「だいち2号」による国内・国外の自然災害による緊急観測対応を図1に示します。

「だいち2号」による国内・国外の緊急観測対応

図1. 「だいち2号」による国内・国外の緊急観測対応
(緊急観測対応数は、同じ災害で複数の緊急観測要請があっても1カウントとしています)

国内災害対応

東日本大震災以降の主な国内防災活動

2015年9月の関東・東北豪雨災害

2016年4月の熊本地震災害

2018年7月の平成30年7月豪雨災害

2019年10月の東日本台風災害

2020年7月の令和2年7月豪雨災害

東日本大震災では、災害発生翌日より陸域観測技術衛星「だいち」(以降、「だいち」)による緊急観測を実施し、総計643シーンの観測を行いました。また、災害に関する国際的な協力枠組みである、アジア太平洋地域の自然災害の監視を目的とした国際協力プロジェクトである「センチネルアジア」や、大規模災害時に宇宙機関の衛星データをユーザへ提供する「国際災害チャータ」に支援を要請し、14カ国・地域、27機の海外衛星による集中観測が行われ、約5,700シーンもの衛星画像の提供を受けました。

東日本大震災での対応の経験を活かし、大規模災害では非常に多くの人工衛星による緊急観測の実施および観測データが提供されることから、それらの観測データの解析による被害状況等の情報化と防災機関への迅速な提供に関する体制を強化することになりました。

防災省庁間連絡会「防災のための地球観測衛星等の利用に関する検討会」(2014年9月、文科省及び内閣府主催)にて、防災関係機関等での「だいち2号」の防災利用の定着や「だいち2号」以降の防災利用に向けた災害情報提供について整理され、東日本大震災での対応を反映し、大規模災害時における画像解析等でのJAXAの支援や緊急地図作成等の高度化、および周辺自治体等への対応も目的に、大規模災害衛星画像解析チームが設置され、大学や国立研究所の専門家を中心とした支援体制が構築されました。

その後、2016年4月の熊本地震災害、2018年7月の平成30年7月豪雨災害、2019年10月の東日本台風災害や令和2年7月の令和2年7月豪雨災害等の大規模災害では、「だいち2号」による観測だけでなく、被害規模が大規模かつ長期間に渡ったことから、防災活動の国際枠組みであるセンチネルアジアおよび国際災害チャータへの支援要請を行いました。それぞれの災害対応において提供された情報が図2となります。

これらの災害対応にて提供された「だいち2号」を含む多くの観測データは、大規模災害衛星画像解析チームによって解析され、ここで得られた被災情報が防災関係機関に提供されました。

また、東日本大震災以降、内閣府や国土交通省などの政府系防災関係機関や、山口県や徳島県などの地方自治体との人工衛星の防災利用に関する協定を締結することで、人工衛星による防災利用活動の社会基盤としての定着化に向けた取り組みを促進しています。

国際災害対応

東日本大震災以降の主な国際防災活動

2015年4月 ネパール地震

2015年6月 西ブータン 氷河湖決壊洪水

2015年7月 ミャンマー 豪雨

2017年9月 米国 ハリケーン豪雨

2018年2月 台湾地震

2018年7月 ラオス 洪水

2018年8月 ミャンマー 洪水

2018年9月 インドネシア 地震

2020年1月 フィリピン 火山噴火災害

2020年8月 モーリシャス沿岸における油流出事故をうけた「だいち2号」の観測協力

 

国際的な人工衛星による防災枠組み

センチネルアジア

国際災害チャータ

国内だけでなく海外での自然災害発生時に現地の防災機関からの要請に基づき、国際的な防災枠組みであるセンチネルアジアおよび国際災害チャータを通じて、JAXAは「だいち2号」による緊急観測の実施および観測データの提供や、災害時の衛星画像の解析による被害情報の抽出による支援を行なっています。このセンチネルアジアのコミュニティでは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が「Executive Secretariat(執行事務局)」として全体の運営を司り、緊急観測支援要請窓口を務めるアジア防災センターとともに中心的な役割を担っています。

センチネルアジアは2007年の運用開始後、これまでに30カ国・地域での災害に対し、343回の緊急観測要請が発動され、JAXAは304回の要請に対して緊急観測対応を行なっています。(2021年2月現在)

東日本大震災から10年を経て、2011年3月末には70機関であったセンチネルアジアの加盟機関は、111機関(2021年3月1日現在)に拡大しました。そして、当時から緊急観測を支援していたインド宇宙研究機関(ISRO)、タイ地理情報・宇宙技術開発機関(GISTDA)、台湾国家宇宙センター(NSPO)、JAXAに加え、シンガポールリモートセンシング研究センター(CRISP)、アラブ首長国連邦ムハンマド・ビン・ラシード宇宙センター(MBRSC)、ベトナム科学技術院/宇宙技術研究所(VAST/STI)の3機関が新たにDPNとして観測支援を行っています。

2021年3月現在のセンチネルアジアの緊急観測支援衛星一覧

2021年3月現在のセンチネルアジアの緊急観測支援衛星一覧

近年の特に優良な成果としては、2018年7月23日にラオス南部のXepian-Xe Nam Noy水力発電所ダムが決壊し、貯水池の水が流出し、下流の村を洪水が襲った事案が挙げられます。本事案では、ラオス社会福祉・救済復興省社会福祉局(DSW)の要請を背景に、アジア災害予防センター(ADPC)から7月24日にセンチネルアジアに緊急観測支援要請がなされ、JAXAが7月26日及び27日に「だいち2号」による緊急観測を行いました。緊急観測画像は、解析支援機関であるアジア防災減災準備センター、アジア工科大学、シンガポール地球観測研究所、国際水管理研究所、山口大学が解析し、浸水域地図等の情報を提供しました。そして、インドネシアのASEAN防災人道支援センターが、提供された浸水域地図の情報をもとに、現地での避難場所設置先決定や、ASEANから提供される救難支援物資の展開先決定の意思決定に活用しました。

センチネルアジアから提供された浸水域地図をもとにASEAN防災人道支援センターが決定した避難場所設置先

センチネルアジアから提供された浸水域地図をもとにASEAN防災人道支援センターが決定した救難支援物資の展開先

センチネルアジアから提供された浸水域地図をもとにASEAN防災人道支援センターが決定した避難場所設置先(左)、救難支援物資の展開先(右)

もうひとつの国際的な防災活動の枠組みである国際災害チャータでは、加盟機関は東日本大震災時はJAXAの他8機関でしたが、その後8機関が加盟し、2021年2月現在17機関と、国際災害チャータの発動時に対応しうる加盟機関は概ね倍増しました。これに伴い、JAXAの「だいち2号」をはじめとする国際災害チャータの枠組みで緊急観測データを提供できる各加盟機関の衛星数も増え、2021年2月現在は約60機以上にもなります。

東日本大震災以降、海外災害時に112回の発動要請に対して「だいち2号」による緊急観測に対応しました。JAXAの最近の災害対応活動に、2020年8月のモーリシャス共和国沿岸で座礁した貨物船による油流出事故での協力活動があります。ここでは、国連関係機関の要請により国際災害チャータが発動し、「だいち2号」による緊急観測を実施し観測データを提供しました。ここで提供した観測画像は、国連訓練調査研究所をはじめてとする複数の機関により開催が行われ、油流出の推定地図情報が提供されています。

 今後に向けて

JAXAは都市部での被害状況把握、海底火山活動の検出や衛星地図作成に優位な広域高分解能光学センサを搭載する「だいち3号」や、「だいち2号」の後継衛星で観測範囲の拡大や観測頻度の向上等の高性能化を目指した「だいち4号」の衛星開発を進めていきます。また、防災関係機関からの衛星データの観測要求受付から提供までをワンストップサービスでスムーズに実現できることを目的に、「防災インタフェースシステム」を開発し運用を開始しました。

次号では、防災事業に関する3つのシステム(防災インタフェース、衛星全球降水マップ(GSMaP)、Today’s Earth)と、「だいち2号」共に「だいち3号」や「だいち4号」も含めた地球観測衛星システムについて紹介します。


※衛星データは政府機関や防災機関による被害予測や被害状況把握に利用されますが、解析や解釈には高度な専門知識が必要となります。災害時には必ず政府機関やお住まいの市町村から発令される情報を参照し、行動するようにしてください。

観測画像について

図2

観測衛星 上から
陸域観測技術衛星2号「だいち2号」
Pleiades-1A
KANOPUS,Sentinel-2
SAOCOM-1A
観測センサ 上から
Lバンド合成開口レーダ(SAR)

Multispectral Imaging System(MSS),MultiSpectral Instrument(MSI)
Lバンド合成開口レーダ(SAR-SA01A)

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