災害

2021.03.16(火)

今後の防災活動について

 はじめに

2011年3月の東日本大震以降、2016年4月の熊本地震災害、2018年7月の7月豪雨災害、2019年10月の東日本台風災害や令和2年7月の令和2年7月豪雨災害等の大規模災害など、数多くの大規模災害に見舞われました。

JAXAでは、防災関係機関からの要請に基づき、陸域観測技術衛星2号機(ALOS-2、以下「だいち2号」という)による緊急観測を実施し、観測データより得られた被災情報の提供を行なってきました。

これからは、「だいち2号」だけでなく、打上げ予定の「だいち3号」や「だいち4号」、海外宇宙機関への支援要請や提供される観測データの管理・解析など、防災機関へより多くの情報を迅速かつ効率的に提供することで、防災活動の支援を強化していきます。また、発災後の対応だけでなく、人工衛星の降雨情報やそこから得られた災害予測情報を求め、発災前からの準備により災害時の対応をより効率的な運用とすることで減災の実現を目指していきます。

ここでは、人工衛星による防災関係のシステムや、防災に活用される地球観測衛星について紹介します。

 防災インタフェースシステム

[防災インタフェースシステム]

JAXAでは、地球観測衛星を用いた防災利用実証実験において、情報共有のため利用していた「だいち防災WEBポータル(防災WEB)」の運用を2020年9月末で停止し、同年10月から「防災インタフェースシステム(以下、「防災IF」という)」の運用を開始しています。防災WEBでは、主に衛星画像の提供を行い、緊急観測要求の受付はシステムの対応範囲外でした。一方、防災IFは、防災関係機関からの緊急観測要求の受付から,JAXAのALOSシリーズおよび防災の国際枠組みであるセンチネルアジアや国際災害チャータから提供される衛星画像をユーザに提供するまでをワンストップサービスで実現したシステムとなっており、現在は「だいち2号」のデータ提供を行っています。

防災IFのシステム概要図

防災IFのシステム概要図

防災IFのアカウントはJAXAと防災利用に関する協定を結んでいる防災機関に対して発行しており、防災IFにサインインすることで、アカウント設定に応じた各種機能を利用することができます。ここでは、実際に災害が発生し、緊急観測要求からデータ提供までのタイムラインに沿って、防災IFの各機能を紹介します。

防災インタフェース Webポータル(サインイン後)

防災インタフェース Webポータル(サインイン後)

被災地に関して観測条件を確認した防災機関は、JAXAに緊急観測要求を行なっています。防災IFが運用開始となる前は、システムは緊急観測要求の機能を有していないため、担当者間の電話・メールでのインタフェースとなっていました。防災IFはこの機能を有しており、緊急観測要求がシステム上で実施可能となっています。
防災ユーザは、防災IFの緊急観測要求画面より、観測要求範囲のみを選択する「簡易モード」か、観測を要求する衛星等の選択まで含めた「詳細モード」の2つの方法で要請することができます。「詳細モード」では、JAXAの衛星だけでなく、センチネルアジアや国際災害チャータなどの防災に関する国際的な枠組みが発動されたときに要請できる海外衛星も含まれます。これにより、広範囲の災害発生時にはJAXA衛星での観測要望範囲、海外衛星への観測希望範囲を有機的に設定することで、短期間で災害範囲をカバーする緊急観測の実現を可能としています。

防災IFにおける緊急観測機会検索画面(詳細モード)

防災IFにおける緊急観測機会検索画面(詳細モード)

緊急観測要求を行った後は、随時防災IFから自動で観測状況や衛星データおよび自動処理された災害地図など作成状況等の進捗がメールで通知され、また、防災IF上で要求した緊急観測の処理状況が確認できます。
次に、観測計画に従って、緊急観測が実施されると、その観測データは地上システムを経由して防災IFに登録され、防災ユーザ側でダウンロード可能となります。また、観測画像の提供準備と並行して、防災IF上に実装している自動解析処理機能によって、被災前後の画像を比較する等し、変化域を着色した災害速報図を様々なフォーマットで提供しています。必要に応じて、災害速報図や他の情報を基に専門家が目視判読を行い被害域の抽出を行った被害区域図も提供しています。これらの災害速報図等は、アカウントを有しない一般の方でも閲覧およびダウンロードが可能です。

その他、今後打ち上げ予定の「だいち3号」や「だいち4号」においても、災害時において緊急観測した場合、このシステムを通して衛星プロダクト等を提供する予定です。

防災インタフェース 災害情報毎プロダクト一覧

防災インタフェース 災害情報毎プロダクト一覧

 衛星全球降水マップ(GSMaP)

[衛星全球降水マップ(GSMaP)]

[令和2年7月豪雨災害]

衛星全球降水マップ(以下、「GSMaP」という)は、全球降水観測(GPM)計画の下、GPM主衛星に搭載された二周波降水レーダを中心に、複数の降水を観測する衛星や静止軌道衛星を組み合わせて開発した世界の雨マップです。GSMaPでは、1時間ごとの世界の雨の様子を閲覧することができます。

衛星全球降水マップ(GSMaP) Webサイト

衛星全球降水マップ(GSMaP) Webサイト

このサイトでは、”雨分布リアルタイム”では30分毎にリアルタイムの世界の雨分布を表示し、”雨分布速報”では2000年3月から4時間前までの指定した日時の世界の雨分布を、”雨分布統計”では日雨量・月雨量などの積算した雨量などの統計情報を提供しています。

衛星全球降水マップ(GSMaP) Webサイト

令和2年7月豪雨災害時のGSMaPの発信情報

上記の図は令和2年7月豪雨災害でのGSMaPにて得られた7日間の積算降雨量になります。九州南部の降水量が比較的高いことがわかります。このとき、GSMaPによる広域の雨分布に加え、全球降水計画主衛星に搭載されている二周波降水レーダによって宇宙から降水の立体構造を詳細に観測することで、九州周辺に分布する線状降水帯に伴う強い降水が確認されました。

このように、GSMaPから提供される降雨地図情報は、積算処理を行うことで災害が発生しうる降雨量であるかどうか、その判断の参考情報となります。特に、地上降雨レーダなど十分な設備を有していない国においては、GSMaPから提供される降雨情報が非常に重要となります。

今後は、監視のみならず“予測”にかかわる情報を発信することで、衛星を用いた過去・現在・未来の広域降水情報を提供となり、気候変動で激甚化する水災害の被害を低減に貢献していきます。

 Today’s Earth

[Today’s Earth]

Today’s Earth(以下、TEという)は、東京大学 生産技術研究所との共同プロジェクトであり、台風などによる洪水氾濫被害の軽減を目指し、日本の陸上における水循環を計算・推定するシステムになります。これにより、日本中の河川の流量やその氾濫域の推定結果をモニタリングすることが可能です。

Today’s Earth Webサイト (令和2年7月豪雨災害時)

Today’s Earth Webサイト (令和2年7月豪雨災害時)

現在提供している情報はリアルタイム情報であるが、河川の危険度を30時間以上前に予測計算することが可能であり、現在はその予測情報を用いた「だいち2号」による緊急観測オペレーションでの観測範囲の選定での活用について関係者にて調整しています。

また、現在20を超える地方自治体との実証実験を行なっており、TEによる精度の高い予測情報をこれらの関係機関と連携し提供することで、災害現場にて対応される多くの方々に利用されることで減災の一助となるべく活動していきます。

 地球観測衛星シリーズ(ALOSシリーズ)

陸域観測技術衛星「だいち」シリーズでは、「広域かつ全天候観測」が可能な「だいち2号」による緊急観測を継続し、これから打ち上がる「広域かつ高い判読性」を有する「だいち3号」、「より広域かつ全天候観測」が可能な「だいち4号」を組み合わせることで、単独の衛星での支援以上の防災活動への効果を実現しています。

これは、災害発生時により多くの被災情報を得ることだけでなく、火山噴火活動のモニタリングや、水害発生後の危険度の高い土砂ダムの検知およびモニタリングを行うことで、減災活動への貢献も含めた活動を促進していきます。

 さいごに

東日本大震災から10年を迎えて、当日の災害対応活動の振り返り、被災地の復興状況の観察、東日本大震災以降の防災活動および今後の防災活動について紹介しました。

東日本大震災時、人工衛星による緊急観測の実施、および観測データより得られた被災情報を日々防災関係機関に届けていました。その中で、人工衛星より得られる災害情報の重要性が認識され、2014年9月に行われた防災省庁間連絡会「防災のための地球観測衛星等の利用に関する検討会」にて、「だいち」及び「だいち2号」の防災分野の利用をより一層促進させるとともに、今後の防災のための地球観測衛星システム等の開発・運用等に向け、防災関連業務における地球観測衛星利用の実効性・有効性向上の検証等を実施することを目的として、「だいち2号」防災利用実証計画が確認されました。それ以降、国内外問わず発生する自然災害に対して「だいち2号」による緊急観測を実施するとともに、そのデータより得られた被災情報を防災機関に提供し、現場での活動に活用されてきました。JAXAは、引き続き防災機関と連携して、地球観測衛星を用いた防災活動を促進するとともに、災害発生時の被害状況の把握だけでなく減災の実現に向けて研究開発を進めていきます。

東日本大震災以降も、日本は数多くの災害に見舞われ、多くの方犠牲者が発生しました。

最後に、東日本大震災によりお亡くなりになられた方々に深く哀悼の意を表するとともに、被災されました皆様に心よりお見舞い申し上げます。


※衛星データは政府機関や防災機関による被害予測や被害状況把握に利用されますが、解析や解釈には高度な専門知識が必要となります。災害時には必ず政府機関やお住まいの市町村から発令される情報を参照し、行動するようにしてください。

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