利用事例

2020.08.28(金)

モーリシャス沿岸における油流出事故を受けた「だいち2号」の観測協力

モーリシャス共和国沿岸で座礁した貨物船「WAKASHIO」による油流出事故(日本時間2020年7月26日に座礁、8月6日に燃料油が流出)に対し、日本の国際緊急援助隊・専門家チームが派遣され、油防除作業、環境分野の支援活動等が行われています。

この活動への協力のため、JAXAは陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)でのモーリシャス沖の緊急観測を実施し、国際緊急援助隊・専門家チームに参加している海上保安庁への観測データ(画像)提供及び技術支援を行っています。「だいち2号」観測データは海上保安庁において解析され、国際緊急援助隊・専門家チーム(一次隊)により利用されました。現在活動中の二次隊に向け引き続き「だいち2号」の観測データを提供しています。

座礁船付近の海面観測結果

2020年8月10日から8月22日にかけて10回の「だいち2号」によるモーリシャス沖観測を実施しました。この内、8月10日、14日、15日、17日(現地時間)の撮像結果を紹介します。

各画像で、レーダから照射した電波の反射が強い陸地(島)、船舶、(サンゴ)環礁などは明るく(白く)見えています。一方で海面は反射が弱いため暗く(黒く)、油が海面に浮遊している場所はさらに暗く(黒く)なります(本ページ後半の解説をご参照下さい)。8月10日の画像では、座礁船から島の方向に油の流出が拡がっている様子が分かります。

8月10日と比較して、8月14日は油の流出範囲が狭くなったように観測されましたが、8月15日には再び油の範囲が拡大したような観測画像となりました。17日には油の範囲は再び狭くなり、以降も同様の傾向が続いています。

なお、座礁船からの油の流れは、エグレット島を経由しモーリシャス本島に向かうことが多く観測されています。複数の衛星データを基にした潮流情報では、モーリシャス本島の東沖は8月1日以降東から西向きとなっており、その潮流の影響を受けたものと考えています。

モーリシャスと座礁船の位置説明

図1. モーリシャスと座礁船の位置説明

モーリシャス付近の潮流

複数の衛星データから解析したOSCAR(Ocean Surface Current Analysis Real-time;Earth and Space Research)の5日平均潮流速度では、モーリシャス東沖(図6の中央)で8月7日~11日は西向き(モーリシャス本島に向かう方向)約0.2m/s、8月12日~16日は同じく西向き約0.3m/sでした。「だいち2号」の観測では座礁船からモーリシャス本島に油が流れる様子が確認できましたが、この潮流の流れも一致しています。なお、風や潮汐も油の流れに影響します。

衛星観測情報をもとにした潮流

衛星観測情報をもとにした潮流

図6. 衛星観測情報をもとにした潮流(2020年8月7-11日(左)及び8月12-16日(右)の5日平均値)

解説:海面の油のレーダ衛星での観測

表面張力の違いにより水(海水)と油は混ざり合わず、密度の小さい油は海水上に浮きます。また、海の表面の波は風(海上風)によって引き起こされるものが主であり、風が強いほどその波(風浪)が高くなります。油は水よりも粘性が大きいため、風による波が立ちにくくなります。よって、海面に油がある場所では、油のない周囲より(風による)波が小さくなります。このことを利用して、レーダ衛星での海面の油の観測が行われます。

「だいち2号」のようなレーダ衛星は、衛星から電波(マイクロ波)を照射し、対象物で散乱・反射して衛星方向へ戻ってきた電波(後方散乱)を計測しています。次の左の図のように海面が滑らかな状態(波が小さく穏やか、なぎ)のときは、照射した電波はさらに前方に向かって反射(散乱)する成分が多いため、画像中では暗く見えます。一方、右の図のように海面の状態が粗くなっている(波が高い、荒れている)と、その波(盛り上がった海面)で後方散乱が強くなり、画像中では明るく見えます。ちなみに船は電波を反射しやすい物質(主に金属)でできていますので、紹介した画像でも明るく見えています。

以上をまとめると、次の図のように油のあるところは周りに比べて波が立ちにくく、レーダ衛星で観測すると電波の反射が弱く見えることになります。

今回のモーリシャス沿岸での油流出事故には「だいち2号」などのレーダ衛星の他にも、光学衛星での観測も行われています。光学衛星では雲があるとその下の海面は見えませんが、レーダ衛星では昼夜、天候を問わない海面の観測が可能です。

ただし、湾内など波が立ちにくい場所は油がなくても波が立ちにくく、レーダの後方散乱が弱くなることがあります。また、油の有無にかかわらず風が弱いとき(油が無くても波が立たない)、風が強いとき(油があっても波が立つ)も油の有無の区別が難しくなります。このページで紹介した「だいち2号」の観測画像で油があるように見えたところも、実際の海面には油がなかったとの可能性があります。今後現地の状況が分かれば検証を行う予定です。

(参考)2018年に東シナ海で発生したSanti号事故の際も「だいち2号」で油の流出範囲を観測しています。

東シナ海におけるタンカー(SANCHI号)炎上事故に伴う油流出(ALOS-2/PALSAR-2の観測結果)
2018年1月25日

国際災害チャータへの画像提供について

今回、日本の国際緊急援助隊・専門家チームへの支援に加え、「国際災害チャータ」の要請に基づき、「だいち2号」の観測画像を提供しています。

「国際災害チャータ」は大規模な災害が発生した際に宇宙関係機関の衛星画像をユーザに提供する国際協力の枠組みで、1999年に発足しました。現在、JAXAを含む17宇宙関係機関が参加しており、大規模な自然災害時に参加機関の間でボランタリーな国際協力が行われています。JAXAはこれまでに「だいち」や「だいち2号」による数多くの緊急観測を実施し、この活動に貢献しています。

本災害で、国際災害チャータに提供した「だいち2号」の画像は、国連訓練調査研究所(UNITAR: United Nations Institute for Training and Research)をはじめとする複数の機関による解析により、油流出の推定地図情報が提供されています。

国際災害チャータ モーリシャス沿岸油流出に関するページ:
https://disasterscharter.org/web/guest/activations/-/article/oil-spill-in-mauritius-activation-666-

だいち2号について

今回の観測では、高分解モード(分解能3~10m)、広域観測モード(分解能100m)を用いました。また偏波モードはHH、HVで観測し、HH画像を分析しています。観測画像の説明にあるオフナディア角とは、衛星の鉛直直下方向と電波の照射方向のなす角であり、得られる画像に影響します。撮影地の天頂方向から衛星の方向のなす角である「入射角」とほぼ同じです。実際は地球が丸いため、入射角の方が少しだけ大きくなります。

観測画像について

画像:観測画像について

図2,3,4,5

観測衛星 陸域観測技術衛星2号「だいち2号」
観測センサ フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(PALSAR-2)
観測日時 2020年8月10日11:36(現地時間)(図2)
2020年8月14日00:37(現地時間)(図3)
2020年8月15日11:42(現地時間)(図4)
2020年8月17日00:03(現地時間)(図5)

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