気象・環境

2012.08.22(水)

北極海氷の面積 観測史上最も速い速度で縮小中 9月にも史上最小の恐れ

AMSR-Eが捉えた北極域の2012年9月20日の海氷密接度分布
図1 AMSR2が捉えた北極域の2012年8月20日の海氷密接度※1分布
北半球の海氷面積の季節変動(2012年9月20日現在)
図2 北半球の海氷面積※2の季節変動(2012年8月20日現在)

 今年もまた、北極海の海氷域が融解時期を迎えています。今年の海氷面積は、北極域の3月の気温が平年に比べて低温となったため、一時的に1990年代並みの面積にまで拡大していました。その後、5月に気温が高めに推移して以降面積減少がすすみ、夏期に入ると、観測史上最小を記録した2007年と同じペースでの縮小を続けてきていました。そして、普段であれば減少のペースが鈍り始める8月になっても縮小速度が衰えず、8月20日現在も、観測史上最速のペースで縮小が続いています(8月20日現在459万km2で、観測史上3位に相当。2007年比で2週間早いペースで縮小を継続中)。

例年、北極海氷の面積は、9月中旬頃まで縮小を続けます。したがって、このままのペースで縮小が続けば、9月には2007年の最小面積記録を更新する可能性も十分考えられ、注視が必要です。

最近9年間(2003-2012年)の4月20日に観測された北極海の海氷分布
図3 最近9年間(2003-2012年)の4月20日に観測された北極海の海氷分布

なぜ今年は、海氷融解がこんなに進んだのでしょう。一つには、夏を迎える前の春の段階で、北極海のほぼ半分以上の海域が薄い一年氷(前年の夏以降に生成した氷)で広く覆われていたことが分かっています。図3は、毎年の春頃にマイクロ波放射計が観測した輝度温度のカラー合成画像です。画像上、濃い水色の部分が古くて厚い氷(多年氷)を、明るい水色部分が一年氷を表しています。2007年9月に史上最小を記録して迎えた翌春(2008年4月20日)の画像では、北極点を含む広い海域が薄い一年氷で覆われていました(「ますます薄くなってきた北極海の海氷」参照)。その後、2009年、2010年と、徐々に多年氷域の面積が回復傾向にありましたが、2011年は再び減少に転じ、その年の9月には史上2位の小ささにまで海氷面積は縮小しました。その夏融け残った海氷も、今冬−春の期間に一部が大西洋に流失していたことが衛星画像から確認されています。したがって、今春の海氷はかなり薄い状態になっていたとみられています。

北極海氷面積の一日あたりの変化量 (半月毎の平均値)
図4 北極海氷面積の一日あたりの変化量 (半月毎の平均値)
AMSR2輝度温度合成の動画
図5 AMSR2輝度温度合成の動画

以上のように、春に薄い氷で覆われていたと見られる北極海の海氷は、気温の上昇とともに観測史上最速のペースで融解が進み、上述したように8月に入ってからも記録的なペースで縮小し続けています。図4は、北極海氷面積の一日あたりの変化量を半月毎に平均したもので、プラス側が海氷の拡大時期を、マイナス側が海氷の縮小時期を示しています。図を見ると、2012年の面積変動量(赤太線)は、7月後半までは過去10年間の変動をなぞりながら減少速度を増してきましたが、例年速度が鈍りはじめる(図で線が上昇に転じる)8月に入ってからも速度を増し、8月前半は一日あたり10万km2の海氷域が消失を続けていた様子がわかります。これは、衛星による観測が始まって以降では、この時期として最大の減少速度であり、今年の海氷融解が8月に加速的に進んでいた様子を物語っています。

今年5月18日に打ち上げられた第一期水循環変動観測衛星「しずく」搭載のAMSR2で、7月3日から8月18日にかけての北極海氷の様子を捉えた映像が図5です。これをみると、7月後半に画像上部のアラスカ・シベリア沖の海氷域に隙間が多くでき始め、その付近の海氷が8月に入り急速に融解・消失していく様子が捉えられています。8月に生じた加速的な海氷縮小の背景には、この海域の面積縮小が大きな役割を果たしていたと見られます。

9月の融解最小時期に向けて北極海氷の融解は、まだしばらく続きます。JAXAでは、今後も「しずく」による北極海氷の監視を続けていき、また「地球が見える」で最新の状況をご報告する予定です。

なお、北極海の海氷密接度の分布画像および海氷面積値情報は、JAXAが米国アラスカ州立大学北極圏研究センター(IARC)に設置しているIARC-JAXA情報システム(IJIS)を利用した北極海海氷モニターwebページ上で日々更新を行い、公開しております。

※1 海氷密接度:衛星の瞬時視野内に含まれる海氷域の面積割合(%)

右図のような、衛星搭載のマイクロ波放射計がある時刻に観測した瞬時視野(仮に10km×10kmとする)に占める面積の割合が海氷50%、海面50%である場合、その海域の海氷密接度を50%と定義する。図3で求めている北極平均海氷密接度とは、図1の海氷密接度について北極海全域で平均をとったもの。

※2 海氷面積:本稿で用いる海氷面積は、海氷が浮遊する海域の広さとして定義しており、海氷密接度15%以上の海域面積の総和をとったもの(km2)。

※3 IARC-JAXA研究:1999年(平成11年)10月、(独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)の前身である宇宙開発事業団(NASDA)が、国際北極圏研究センター(IARC)に人工衛星データ利用推進のためのコンピュータシステム「IARC-NASDA情報システム(INIS)」を設置し、IARCを拠点とする北極圏研究プロジェクトが始まりました。2005年(平成17年)3月、JAXAは、INISに代わる新たなシステム「IARC-JAXA情報システム(IJIS)」を構築し、IARC-JAXA北極圏研究を推進しています。


観測画像について

(図1)

観測衛星: 第一期水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W1)
観測センサ: 高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)
観測日時: 2012年8月20日

いずれもAMSR2の6つの周波数帯のうち、36.5 GHz帯の水平・垂直両偏波と18.7GHz帯の水平・垂直両偏波のデータを元に、アルゴリズム開発共同研究者(PI)であるNASAゴダード宇宙飛行センターの Josefino C.Comiso博士のアルゴリズムを用いて算出された海氷密接度を表しています。データの空間分解能は25 kmです。

(図3)

2002‐2011年 観測衛星: 地球観測衛星Aqua (NASA)
観測センサ: 改良型高性能マイクロ波放射計AMSR-E (JAXA)
2012年 観測衛星: 極軌道軍事気象衛星DMSP F15 (USAF)
観測センサ 走査型マイクロ波イメージャ SSM/I (USAF)
観測日時: 2003-2012年4月20日

いずれもAMSR-E及びSSM/Iの36.5GHz帯および18.7GHz帯の垂直偏波の輝度温度データをカラー合成した画像で、データの空間分解能は25kmです。

(図5)

観測衛星: 第一期水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W1)
観測センサ: 高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)
観測日時: 2012年7月3日-8月18日

AMSR2の36GHz-V、18GHz-V、89GHzPR(水平偏波と垂直偏波の差を和で除したもの)

海氷域は白〜水色に、海域は濃い群青色に色付けしたもので、その上空をもやのように漂うのは雲が移動する様子を捉えたもの。

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