気象・環境

2023.12.25(月)

気候変動2023 第3回:森林火災と地球環境

1. はじめに

2023年の異常気象を解説する本シリーズ「気候変動2023」(特設サイト)の第3回では、「森林火災」について取り上げます。日本国内では、気温の上昇する夏場において比較的湿度が高いため、森林火災が注目される機会は少ないかもしれません。しかし、地球全体では毎年大規模な森林火災が各地で観測されています。特に2023年はカナダを始め、ギリシャやロシア、ハワイでも過去最大規模の被害が発生しています。森林火災は人々の生活や動植物の生態環境を脅かすだけでなく、大量の二酸化炭素やエアロゾルを排出することから、気候への影響を考える上でも無視できません。
こうした森林火災は、地球温暖化に伴う干ばつや熱波の増加により、その発生件数や規模が今後さらに増大することが危惧されています(IPCC, 2022; Sullivan, 2022)。今回は2023年に発生した森林火災のうち、特に大規模であったカナダの森林火災について取り上げ、その背景や地球環境への影響について紹介していきます。

2. 2023年の地球環境と森林火災について

2023年はこれまでの年と比較して、明らかに“暑い“年となり(世界の平均気温が7月に観測史上最高を記録)、海面水温や海氷面積への影響も非常に大きいことを「気候変動2023」の第1回記事第2回記事で紹介してきました。この異例の暑さは森林火災に対しても影響を及ぼしていると考えられます。一般に森林火災には、落雷や枯れ葉同士の摩擦熱といった自然起源の発火要因と、野焼きや焚火といった人為起源の発火要因がありますが、最初は小さな火種でも高温で地面が乾燥した状態だと大きな火災に発展しやすいことが知られています。図1はJAXAの運用する地球観測衛星「しきさい※1」が捉えた2023年5月の地表面温度の偏差(平年値からの差)を示したものです。特にカナダにおいて平年よりも10℃程度高い地表面温度が観測され、同時期に大規模な森林火災が発生しています(可視画像:5月20日に観測された火災による煙の様子)。

図1  「しきさい」によって観測された2023年5月の月平均地表面温度の偏差(上)と、カナダで発生した森林火災煙の可視画像(下)
大規模な森林火災が発生した時期の地表面温度が平年よりも10℃程度高温になっていたことが分かる。また、可視画像上のピンク色の点は、煙を透過可能な赤外線(1.6µm、2.2µm)を用いて火災(ホットスポット)を検出した箇所である。
図2   カナダ西部(図1の緑枠エリア)における月間火災件数と月平均気象変数の推移(2022年1月-2023年9月)
上から火災件数(赤線が観測値、黒点線は平年値)、地表面温度の偏差、日射量の偏差、降水量の偏差、干ばつ指数、積雪面積割合の偏差を示す。2023年は5月と9月に火災件数がピークを迎えており、いずれも過去5年間よりも多かったことが分かる。

さらに図2はカナダ西部(図1の緑枠内エリア)における火災発生件数と、日射量や降水量といった様々な気象変数偏差との関係性を時系列で示したものです※2。2023年の火災件数は5月と9月前後で非常に多くなっており、過去5年間の平均値から大きく乖離していたことが分かります。2023年5月に火災件数が増加した理由としては、地表面温度が平年より高かったことに加えて、これに伴って積雪面積割合が過去5年間の平均値より小さく(=融雪が早く)、地面が乾燥していたことなどが考えられます。地表面温度の上昇については、平年よりも雲量が少なく日射量が増加していたことも一因として挙げられます。また、2023年9月の火災については、前年から降水量が少ない状態が続いており、干ばつの状態だった(干ばつ指数が1.0前後)こと、そして地表面温度も高く、発火・延焼しやすい状態が続いたことが原因として考えられます。

3. カナダの森林火災の影響について

森林火災が発生すると元々あった植生は失われ、地表面の反射率特性が大きく変化します。今回はこの特徴を利用して、「しきさい」衛星の正規化植生指数(NDVI:Normalized Difference of Vegetation Index)を用いた焼失面積の推定を行いました。火災が最も激しかった2023年9月と前年の2022年9月のNDVIの差分を算出したところ、今回発生したカナダ西部(図1の緑枠内エリア)の森林火災によって失われた植生の面積は、およそ10万 km2と推定されました(図3)※3。また、カナダ諸機関合同森林火災センター※4が報告した2023年のカナダ全体の焼失面積は約14万 km2となっており、この値は日本の国土面積の約37%に相当します。
森林は普段は二酸化炭素を吸収することで空気中の炭素を固定していますが、火災によって枝や幹が燃えると固定していた炭素を放出してしまいます。森林火災によってどれだけの二酸化炭素が放出されるかを把握することは、将来の気候変動を正しく予測する上でもとても重要です。図4は全球火災エミッションデータベース(GFED:Global Fire Emissions Database※5)を用いてカナダ西部(図1の緑枠内エリア)における各年の積算二酸化炭素排出量(火災起源)を示したものです。このデータセットは米国衛星等の観測によって得られた焼失面積をベースにどれだけの二酸化炭素が排出されるかを推定したものとなっています。赤い実線で示した2023年の積算二酸化炭素排出量は、過去23年間と比較して最大となっていることが分かります(約19億トン)。ただし、実際には火災により燃えた森林が再生する際に多くの二酸化炭素を吸収するため、長期で見たときの二酸化炭素収支は別途考慮する必要があります。
森林火災によって放出される物質は二酸化炭素だけではありません。植物が燃えることによって発生する煙や、火災に伴う上昇気流で巻き上げられる土壌粒子といったエアロゾルも同時に放出されます。図1の可視画像を見ても分かるように、大規模な森林火災によって放出されたエアロゾルは、空から地面を見ることができない程濃く、かつ数千km規模で広範囲に広がることがあります。実際、今回カナダで発生した火災エアロゾルは、アメリカ東海岸(ニューヨーク)でも観測されており、現地では煙による健康被害や視程低下による航空機への影響などが懸念されていました※6。こうしたエアロゾルは一般的に太陽光を遮る効果を持つため、地表面を冷却する効果があると言われています。つまり、森林火災は温室効果ガスである二酸化炭素を放出する一方で、地球を冷却する効果を持つエアロゾルも同時に放出するため、気候への影響を考える上では極めて複雑な現象と言えます(火災エアロゾルに関する詳しい記事はこちら)。

図3   火災前後の正規化植生指数(NDVI)の差分から推定した焼失エリア
2023年9月のNDVIから2022年9月のNDVIを差し引くことで、2023年9月までに発生したカナダの森林火災による焼失面積を推定した。図の赤い領域が今回推定した焼失エリアで、約10万 km2が焼失していたことが分かった。
図4 カナダ西部(図1の緑枠内エリア)の森林火災による、1月を起点とした際の各年の積算二酸化炭素排出量
2023年の火災起源の二酸化炭素排出量を赤線で、2000年から2022年の二酸化炭素排出量を灰色の点線で示した。また2000年から2022年の二酸化炭素排出量の平均値を黒い実線で示している。2023年の積算排出量が過去23年間で最大となっていることが分かる。ただし、火災で燃えた植生が再生する際には多くの二酸化炭素を吸収するため、実際には長期で見たときの二酸化炭素収支を考慮する必要がある。全球火災エミッションデータベース(GFED)を使用。

4. まとめ

「気候変動2023」第3回では、今年の近年注目を集めている森林火災について取り上げました。特に過去最大級の規模となったカナダの森林火災について、JAXAの運用する「しきさい」衛星やGSMaP(GPM主衛星、しずく衛星、ひまわり衛星などの複合データ)といった地球観測データを用いることで、その背景や影響について解析を行いました。

  • 森林火災が多く発生した背景要因として、平年よりも10℃程度高い地表面温度や、融雪時期の早期化、そして前年から続く干ばつなどが考えられる
  • 「しきさい」衛星によって推定されたカナダ西部の火災の焼失面積は約10万 km2であり、これに伴い過去23年間で最大となる二酸化炭素が放出されたと考えられる
  • ただし、森林火災は二酸化炭素(温室効果ガス)だけでなく、地球を冷却する効果を持つこともあるエアロゾルも大量に放出するため、正味の気候への影響を見積もるためにはさらなる定量的な解析が必要

森林火災は二酸化炭素やエアロゾルの放出などを通して気候に影響を与えるとともに、その発生条件や規模もまた気候によって変化します。将来、森林火災がどの程度増加(もしくは減少)するのか、そして気候への影響はどのようなものなのか、それらを精度良く予測するためには地球規模の気候予測モデルを開発・改良していく必要があります。JAXAは、文部科学省事業「気候変動予測先端研究プログラム(SENTAN)※7」との連携を推進しており、今回紹介したような森林火災のプロセスを始めとして、地球観測衛星データを活用した気候予測モデル開発へ引き続き貢献していきます(図5)。

図5 衛星データを用いたSENTANとJAXAの連携の一例
火災の発生から植生焼失面積や物質放出、気候影響までのプロセスを実観測データに基づいてモデル化していくことを目的としている。地球システムモデル(気候や陸域・海洋生態系、物質循環等の物理過程をモデル化したもの)に火災プロセスを取り入れることで、地球温暖化や環境変動の予測精度の向上が期待される。
また、SENTANでは他にも日本国内における過去5万件の林野火災事例を元にしたハザード予測に関する研究等が行われている(日本国内の林野火災の生起状況)。

※1 「しきさい」(GCOM-C: Global Change Observation Mission – Climate)は、2017年12月23日にJAXAによって打ち上げられた気候変動観測衛星である。近紫外から熱赤外域(0.38µm~12µm)において多波長観測を行う放射計(SGLI:Second-generation GLobal Imager)を搭載する。

※2 火災件数、日射量、地表面温度、積雪面積割合については「しきさい」衛星のプロダクトを用いた(JASMES、G-Portalより取得)。降水量、干ばつ指数についてはGPM主衛星、「しずく」衛星、気象衛星「ひまわり」などの複数衛星の降水データ等を利用したGSMaP(衛星全球降水マップ)を用いた。

※3 NDVIの差分を用いる方法は、厳密には火災以外が要因で失われた植生も含む。

※4 Canadian Interagency Forest Fire Centre (https://ciffc.net/)

※5 GFEDは米国Terra・Aqua衛星等の焼失面積プロダクトに基づいて算出された火災起源の炭素放出量データベース(https://www.globalfiredata.org/

※6 ウェザーニュース2023.6.8記事「カナダの山火事の煙がニューヨークに しばらく流入しやすい状況が続く」(https://weathernews.jp/s/topics/202306/080225/

※7 気候変動予測先端研究プログラム(SENTAN)は、令和4年度より文部科学省が推進する気候変動適応策・脱炭素社会の実現に向けた緩和策に活用される科学的根拠を創出・提供することを目指した研究プログラム(https://www.jamstec.go.jp/sentan/index.html)。JAXAは「文部科学省受託事業気候変動予測先端研究プログラムの実施に係る連携・協力の推進に関する協定」を2023年3月22日付で締結した(https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/news/2023/04/21/7063/index.html)。

文:JAXA/EORC 棚田和玖

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