災害

2023.06.08(木)

全球降水観測計画(GPM)による2023年6月2日に発生した線状降水帯の観測

梅雨前線による大雨や線状降水帯等により、四国、近畿、中部、関東地方など、広い範囲で甚大な被害が発生しました(参考)。被害を受けられた方々に対し、謹んでお見舞い申し上げます。JAXAでは、全球降水観測計画(GPM)主衛星と全球合成降水マップ(GSMaP)で継続的に降水の状況を観測しています。JAXA地球観測研究センターでは、降水状況の把握に関する情報提供の観点から、GPMデータの解析を実施いたしました。

【概要】

西日本から東日本に停滞する梅雨前線に向かって、台風2号周辺からの暖かく湿った空気が流れ込み、梅雨前線の活動が活発となっている状況で6月2日に、高知県、和歌山県、奈良県、三重県、愛知県、静岡県で線状降水帯が発生しました(参考ホームページ)。図1に台風2号の経路図と衛星全球降水マップGSMaPによる積算降水量を示します。四国地方~関東地方をはじめ広い範囲で、強い雨が降っていることがわかります。

図1. 台風2号の経路図(左)と衛星全球降水マップGSMaPによる2023年6月1日0時(日本時間)から6月3日23時(日本時間)までの積算降水量(右)

【GPM主衛星による線状降水帯に関連する降水の三次元観測】

GPM主衛星は、6月2日13時半頃および23時頃(日本時間)に日本列島を通過し、線状降水帯に関連する降水を観測しました(図2,3)。GPM主衛星には、日本が開発した二周波降水レーダ(DPR)とNASAが開発したGPMマイクロ波放射計(GMI)が搭載されています。DPRは立体的な降水観測が可能で、地表付近だけでなく、高さ10kmまで広がる降水の鉛直構造を捉えています。
6月2日13時半頃の通過では、中部地方から東日本の降水を観測し、特に静岡県で場所によっては70mm/hrを上回る強い降水を観測しています。その後、静岡県西部には、16時10分に線状降水帯の発生情報「顕著な大雨に関する気象情報」が発表されました。
線状降水帯の発生情報「顕著な大雨に関する気象情報」は、6月2日12時01分に和歌山県北部、6月2日13時10分に奈良県南部において発表されていましたが、6月2日23時頃のGPM主衛星の通過では、近畿地方の降水を観測しています。線状降水帯に関連する降水のピークは過ぎていましたが、場所によっては80mm/hr以上の強い降水も観測されていました。

図2. 6月2日13時半頃(日本時間)にGPM二周波降水レーダが観測した地表付近の降水分布(左)と降水の三次元分布
(右;画像をクリックすると動画)。
図3. 6月2日23時頃(日本時間)にGPM二周波降水レーダが観測した地表付近の降水分布(左)と降水の三次元分布
(右;画像をクリックすると動画)。

DPRによる立体的な降水の観測により、各地の雨の特徴の理解が深まることで、雨を推定する気象予報モデルの改善に貢献できます。このようなGPM主衛星の観測データは、2016年3月から気象庁の現業数値予報にも定常的に使われ、2022年6月からは利用方法の改良により降水予測精度が向上されており、日々の天気予報にも役立っています。

【衛星全球降水マップGSMaPによる降水分布の時間変化】

衛星全球降水マップ(GSMaP)プロダクトはGPM主衛星データと水循環観測衛星しずくに搭載されたAMSR2をはじめとした複数のコンステレーション衛星群(GPM計画に参加する各国・機関の人工衛星群)データから全球の降水分布を算出しています。図4は2023年6月1日0時(日本時間)から6月3日23時(日本時間)までの地表での降水量の時間変化の動画です。また台風2号の中心位置も示しています。図4により、四国地方~関東地方をはじめ広い範囲で、強い雨が降っていることがわかります。

図4. 衛星全球降水マップGSMaPによる6月1日0時(日本時間)から6月3日21時(日本時間)までの降水量の時間変化。左図は最初の時刻からの積算雨量、右図は1時間ごとの降水量を示す。

【線状降水帯のメカニズム解明と予測技術の向上に向けて】

JAXAは、線状降水帯のメカニズム解明のための研究活動として、2022年5月に気象庁気象研究所(気象研)の「線状降水帯の機構解明及び予測技術向上に資する研究の推進に関する協定」へ参加し、2023年5月に気象研、東海大学と共同研究「全球降水観測計画(GPM)等の衛星データと地上観測測器による線状降水帯の機構解明に関する研究」を締結しました。
2023年6月7日に気象庁から報道発表された「線状降水帯予測精度向上に向けた技術開発・研究の取組について」の通り、2023年5月以降、東海大学熊本キャンパスでJAXAが保有する地上観測測器を用いた集中観測を実施しています。熊本での観測データや地球観測衛星プロダクトを、気象研や協定に参加する大学・研究機関と共有し、線状降水帯の内部構造や環境場に関する解析を行い、連携の下、線状降水帯のメカニズム解明研究の推進を通じて、予測精度の向上に貢献します。

参考:

JAXA線状降水帯集中観測モニタ:地球観測衛星プロダクト(GPM、しずく、しきさい等)とJAXAが実施している 地上観測測器の観測データの観測画像を公開しています

線状降水帯の機構解明に関する気象庁気象研究所との共同研究に基づく集中観測や衛星データ提供の開始について(JAXA, 2022年5月31日)

線状降水帯予測精度向上に向けた技術開発・研究をオールジャパンで実施します(気象庁, 2022年5月31日)

線状降水帯予測精度向上に向けた技術開発・研究の成果について(気象庁, 2022年12月27日)

線状降水帯予測精度向上に向けた技術開発・研究の取組について(気象庁, 2023年6月7日)

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