利用研究

2022.06.30(木)

気象庁でのJAXA衛星降水データの利用方法の改良により降水予測精度が向上します

JAXAと気象庁は、全球降水観測計画(GPM)主衛星に搭載している二周波降水レーダ(DPR)三次元降水観測データの利用により、降水を中心とした気象予測の精度向上を図るため共同で技術開発を進めており、2016年3月に気象庁の天気予報や防災気象情報等の基礎資料を作成する数値予報システムにおいて、GPM/DPR観測データの定常的な利用が開始されました※1
この度、気象庁でのGPM/DPR観測データの数値予報システムでの利用方法が2022年6月30日より改良され、降水の予測精度が向上※2しますので、本稿でご紹介します。

 ※1 気象庁・JAXA共同プレスリリース(2016年3月24日)
   「全球降水観測計画(GPM)主衛星観測データの気象庁での利用について
 ※2 気象庁 配信資料に関する技術情報第590号(2022年6月21日)
   「観測データ利用手法の改良による全球・メソモデルの予測精度向上について

■全球降水観測計画主衛星搭載 二周波降水レーダ(GPM/DPR)の利用方法の改良について

GPM/DPRは、図1に示す通りKu帯降水レーダ(KuPR)とKa帯降水レーダ(KaPR)の2種類の降水レーダから構成されており、2つの異なる周波数(Ku帯とKa帯の二周波)の電波を利用して宇宙から世界の雨や雪を観測しています。KuPRとKaPRの二周波による降水レーダはGPM/DPRが世界初であり、Ku帯とKa帯による観測結果の違いを利用することで、霰や雹などの固体降水を検出するなど、降水の粒子に関する情報の取得が可能となっています(具体例はこちら)。

図1. GPM/DPR概要

JAXAおよびNASAは、後期運用移行後の2018年5月21日に、KaPRの運用(スキャンパターン)を図2のように変更しました(詳細はこちら)。このスキャンパターン変更前は、KaPRは高感度ビームで二周波観測ビームの合間を埋めるように観測していたため、二周波観測が活用できるのは125km観測幅の中心部のみでしたが、スキャンパターン変更後は255kmの観測幅全体で二周波の観測情報が適用できるようになりました。
今回の数値予報システムでの利用方法の改良により、これまでKaPRデータは125km観測幅のみの利用でしたが、KuPRデータと同様に、より広い255km観測幅での利用ができるようになります。このことにより、DPRのデータから推定される水蒸気に関する情報を、より的確に数値予報での初期値に反映させることができます。

図2. KaPRの運用(スキャンパターン)の変更。動画はこちら

■利用方法の改良による降水予測精度の向上について

気象庁配信資料に関する技術情報第590号※2に基づいて、利用方法改良の効果についてもご紹介します。
図3は、横軸が前3時間降水量、縦軸が評価指標を示しており、GPM/DPRの利用方法改良を含む数値予報システムの改良前(青)と改良後(赤)それぞれについて、横軸の前3時間降水量の値以上の降水に対する評価指標結果を縦軸に表しています。結果から、前3時間降水量が20mm以上の降水を中心に、改良前より改良後の方が評価指標が高くなっており、降水の予測精度が向上していることがわかります。

図3. 2020年7月1日~7月31日におけるメソモデル(MSM)の降水量予測についての対解析雨量の(a)予測精度評価指標(エクイタブルスレットスコア、青線:変更前、赤線:変更後)。横軸の閾値(前3時間降水量)以上の降水に対するスコアを示す。エラーバーは95%の信頼区間を表す。39時間までの全ての予報値を検証に用いた。検証は20km格子の領域で行い、検証格子の中の平均値を対象とした。

JAXAでは、衛星による観測データの精度向上に向けた研究開発に努めており、数値予報システムとの連携を通して予測精度の向上にも引き続き貢献していきます。

関連サイト

全球降水観測(GPM)計画ウェブサイト
JAXA 3D Rainfall Watch(GPM/DPRの三次元観測データ動画のウェブサイト)

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