災害

2021.09.28(火)

ドイツやベルギーで発生した豪雨による洪水 ~気候変動による大雨の増加~

2021年7月、欧州各地で断続的な大雨が発生し、ドイツやベルギーなどを中心に洪水が発生して甚大な被害が発生しました。被害を受けられた方々に対し、謹んでお見舞い申し上げます。

降水状況の把握に関する情報提供の観点から、全球降水観測計画(GPM)主衛星や衛星全球降水マップ(GSMaP)など、宇宙から雨の状況を観測しているデータを用いて解析を実施しました。本稿では、その解析結果について報告します。また、このような頻発する豪雨災害の背景として、2021年8月に公開された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6) 第1作業部会(WG1)報告書に示された、大雨の頻度と強度の増加に関する見解について紹介します。

欧州周辺での7月の大雨の様子

図1は、衛星観測から求めた世界の雨マップ(衛星全球降水マップ;GSMaP)による2021年7月12日~14日(以降すべて世界標準時)の平均降水量(図1左)と、過去21年分のGSMaPの統計から算出した2021年7月12日~14日の豪雨指標(図1右)の分布を示しています。
図1左に示したGSMaPによる衛星降水情報から、洪水による被害が報告されているドイツ西部などを中心とした地域で大雨が確認でき、3日間の積算で75 mmを超える大雨が続いていたことがわかります。同領域での過去21年のGSMaP統計から、7月のひと月に降る雨の総量は、おおよそ60~80 mmなので、例年のひと月(31日)分の雨と同じ程度の雨が3日で降ったことがわかります。
図1右には、過去21年の7月12日~14日の平均降水量のうち上位数%の降水強度以上に相当する降水があった領域を豪雨指数として示しています。濃いピンクの領域が、2021年の7月12日~14日が過去21年分の7月12日~14日の平均雨量と比較して、どの程度極端に雨が多い事例であったかを表しており、ドイツ西部やベルギーなどで持続的に雨が多かった傾向が捉えられています。

図1. 2021年7月12日~14日(世界標準時)の衛星全球降水マップ(GSMaP)による平均日降水量 [mm/day](左)と豪雨指数(90, 95, 99パーセンタイル値)(右)
濃いピンクは、過去21年の7月12日~14日の平均降水量のうち上位1%の降水強度(99パーセンタイル値)以上に相当する降水があった領域を示しています。

さらにJAXAでは、全球降水観測計画(GPM)の主衛星に搭載されている雨雲スキャンレーダという名でも知られる二周波降水レーダ(DPR)で、高精度に三次元で世界の雨を観測しています。図2には、雨雲スキャンレーダが、ヨーロッパ中部の降水帯を観測した際の三次元の降水の立体構造を示しています。降水頂の高さは、一般に対流性の雨雲が発達する熱帯で高いことが知られています。ヨーロッパ中部は緯度50度付近の中緯度帯で、北半球夏季(6~8月)の当該領域の平均的な降水頂の高さは、4km程度ですが、この事例では、ところどころで高さ10km以上まで対流性の雨雲が発達していた様子が観測されています。

図2. 雨雲スキャンレーダ(二周波降水レーダ)が観測した2021年7月14日 22時16分(世界標準時)の降水帯の立体構造

宇宙から三次元で雨を高精度にはかることのできる衛星は、この雨雲スキャンレーダ(DPR)1機のみであり、立体的な降水の観測により、各地の雨の特徴の理解が深まることで、雨を推定する気象予報モデルの改善に貢献できます。DPRの観測データは、2016年3月から気象庁の数値気象予報にも定常的に使われており、日々の天気予報にも役立てられています。

地球温暖化による大雨の増加

近年、このような豪雨災害が世界各地で頻発しています。本項ではその背景として、2021年8月に公開された、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書で示された、大雨の増加に関する見解ついても紹介します。

IPCC AR6/WG1報告書の政策決定者向け要約(SPM)における主な評価によると、これまで確認されている降水の変化について、以下が述べられています。

  • ・“陸域の平均降水量は 1950 年以降増加しており、1980 年代以降はその速度が上昇”
  • ・“陸域のほとんどで1950年代以降に大雨の頻度と強度が増加(人為起源の気候変動が主要な駆動要因)”

つまり、平均的な降水の総量が増えているだけでなく、極端な大雨の頻度や強度も増加しているのです。

今年8月に掲載した別の解説記事で紹介した通り、日本周辺を含む最近10年間の梅雨前線帯の降水についても、最近11年間(2009~2019年)の梅雨前線帯における降水活動が、その前の11年間(1998~2008年)よりも活発であることが、DPRやGSMaPの衛星降水観測データを用いた最新の研究結果からわかっています。このような雨の降り方の変化を精確に把握するためにも、降雨観測衛星による継続的なモニタリングが重要です。

JAXAは、Withコロナ社会での防災・避難対策の見直し等が求められる中、DPRやGSMaPといった衛星による観測情報や計算機シミュレーションも組み合わせた複合的な解析を通して、災害予測の精度向上による発災前の早期避難などの防災活動や、発災後の現状把握などに貢献していきます。

参考サイト

気象庁「ヨーロッパ中部の洪水について」(令和3年7月21日)
環境省「IPCC AR6/WG1報告書のSPMにおける主な評価」(令和3年8月9日)

関連サイト

JAXA 世界の雨分布ウェブサイト
JAXA 世界の雨分布統計ウェブサイト
JAXA GPMウェブサイト
Today’s Earth – Global(TE-Global)
「SATテクノロジー・ショーケース2021」特別シンポジウム【地球観測衛星と新型コロナウイルス感染症】

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