災害

2010.08.18(水)

シベリア・アラスカ、北方森林にて森林火災が延焼中〜森を守る光学観測衛星

2010年7月26日に小型飛行機から撮影したアラスカの森林火災の写真
図1 2010年7月26日に小型飛行機から撮影したアラスカの森林火災の写真

図1は、2010年7月26日にシベリアと同じ北極圏にあるアラスカにて小型飛行機から撮影した森林火災の様子です。木々や林床のミズゴケが勢いよく燃え、一筋の炎(Fire Line)となっているのが分かります。このように北方の森林火災では、楕円形に火災が広がります。黒く焦げた丸い焼跡のまわりをぐるりと森林火災の炎の輪が囲む様子がよく見られます。

この火災は北方森林の火災の中では特段大きなものではありませんが、7月12日に落雷によって着火してから、1カ月で64平方キロメートル(ほぼ山手線内の面積)を焼き、現在も活発に燃え広がっています。このように考えられないほど大きな火災が頻発しているのは、北極圏が大陸に位置して乾燥しているためです。元来乾燥した地域でも、年によって乾燥の程度が異なります。今年はシベリアにて非常に乾燥した日が続きました。

それでは、シベリアの森林火災を見てみましょう。シベリアは森林面積も広大で、約760万平方キロメートル(日本20個分)の面積の森林があるそうです。それゆえ焼失面積も大きく、多い年(2003年)には17万平方キロメートルが森林火災で焼失したと見られています。

2010年8月4日に観測したモスクワ周辺の森林火災の分布
図2 2010年8月4日に観測したモスクワ周辺の森林火災の分布

今年はモスクワ周辺と極東シベリアで大規模な森林火災が発生しています。図2をご覧ください。これは、ヨーロッパから中央シベリアまでの約4,000 kmの範囲における森林火災の発生状況を地図上に赤く塗ったものです。多くの森林火災がモスクワ周辺で起こっており、キエフ周辺にまで到っています。報道等からも、森林火災によって発生した煙などが及ぼす健康被害が心配されます。

2010年8月5日に観測したロシアに広がる森林火災の煙
図3 2010年8月5日に観測したロシアに広がる森林火災の煙(クリックすると拡大)

図3をご覧ください。これは、衛星を用いて検出した森林火災の位置を、「いぶき」がとらえた煙の様子の上に重ね合わせたものです。赤く塗りつぶされた部分が、JAXA独自の方法により、米国のMODISのデータから検出した森林火災の位置です。この図では、森林が緑、水域が青、雲が白、煙が黄色〜茶色に見えます。モスクワの南東から北方向へ向かって茶色く森林火災の煙が伸びているのが分かります。この画像は天然色ではありませんが、近紫外線等を用いて自然に近い色合いで、かつ煙と雲がはっきりと識別できる画像となっています。

モスクワ付近の拡大図(原図は図 3)森林火災の様子
図4 モスクワ付近の森林火災の様子

もう少し森林火災の様子を見てみましょう(図4)。モスクワからニジニノブゴロド南部にかけて、大きな森林火災が観測されました。良く見るといくつかの火災では焼跡の端で、森林火災が活発で、そこから煙がもうもうと広がっているのが分かります。このように濃い煙があると、飛行機の離着陸が困難になり、社会生活が難しくなります。

また、人為起源の火災が頻繁となれば、森林が長い年月をかけて蓄積した、根、落ち葉、腐葉土などの大地に蓄えられた有機物の炭素(バイオマス)が燃え、大気中に温暖化効果ガスとして放出してしまう事が心配されています。そこで、確実な消防活動を支援するためだけでなく、地球温暖化を抑制するためにも、森林火災の場所を正確に知る事はとても重要な事です。

JAXAが開発中のGCOM-C1衛星
図5 JAXAが開発中のGCOM-C1衛星

JAXAは、地球の気候変動を観測するためにGCOM-C1衛星を開発しています(図5)。この衛星では250 mの解像度で森林火災を検出します。消防隊は最後には歩いて火災現場に向かうため、正確な火災の位置を知ることは非常に重要です。これまではMODISによる1 kmの解像度がやっとだったため、250 mの解像度の火災情報は消防隊にとって貴重な情報です。また、GCOM-C1衛星は「いぶき」と同じく近紫外線の観測が可能です。そのため、煙と雲をはっきりと分ける事ができ、煙の下に潜む火災を検出できる様になります。

GCOM-C1から得られる森林火災情報は米国アラスカ州の消防機関と協力して開発し、その成果は世界中の森林火災の情報を公開され、センチネルアジアプロジェクトなどの防災情報システムで配信されます。さらに、JAXAが北海道大学やインドネシアと協力して推進するJICA-JSTプロジェクトを通じ、インドネシアの消防隊に携帯電話で森林火災の位置情報が通知される予定です。


観測画像について

観測衛星: 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)
観測センサ: 雲・エアロソルセンサ(TANSO-CAI)
観測日時: 2010年8月5日(世界標準時)(図3、4)
地上分解能: 500 m

TANSO-CAIは、温室効果ガス測定の誤差要因となる雲やエアロソルの観測を行い、温室効果ガスの観測精度を向上します。

TANSO-CAIは、4つのバンドで地上を観測します。図3、4は、いずれも可視域のバンド2(664〜684ナノメートル)、近赤外域のバンド3(860〜880 ナノメートル)、可視域のバンド1(370〜390ナノメートル)を赤、緑、青に割り当てカラー合成しました。この組合せでは、肉眼で見たのと似た色合いとなり、次のように見えています。

濃緑: 森林
明るい緑: 草原、耕作地
茶色: 裸地
青: 水域
白:
観測衛星: 地球観測衛星Terra (NASA)、Aqua (NASA)
観測センサ: 中分解能撮像分光放射計 MODIS (NASA)
観測日時: 2010年8月4日(図2)、5日(図3、4)
地上分解能: 1 km
地図投影法: ステレオ図法(中心座標 北緯40度、東経60度)

MODIS画像は森林火災の検知に用いました。各地図・画像の中で、検出した森林火災部分を赤く塗っています。

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