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2025.02.28(金)

世界最大の氷山「A23a」、ついにサウスジョージア島の陸棚に衝突か?!
~「しずく」「だいち2号」「だいち4号」から見るA23a氷山の軌跡~

南極氷床から漂流していた世界最大の氷山「A23a」(約3,300㎞2:2025年2月5日時点)が、南大西洋のサウスジョージア島に急接近しています。A23a氷山が島に座礁すれば、アザラシやペンギンなどの野生生物が通常の餌場から遮断される可能性が危惧されています。A23a氷山は、1986年に南極大陸の中で2番目の規模を誇るFilchner-Ronne(フィルヒナー・ロンネ)棚氷から分離後、ウェッデル海の海底に30年以上も座礁していましたが、2020年頃(※1)より海底から外れ、漂流を開始しました。
JAXAの「しずく」搭載のマイクロ波放射計(AMSR2)は、分解能は数km-十数kmと比較的低いため、小規模の氷山の動向をモニタリングするには適したセンサではありません。しかし、観測可能な範囲と頻度が高いことから、A23a氷山のように広範囲に広がる巨大な氷山に対しては、その位置や大まかな形状をおよそ半日間隔で把握することが可能です。一方、「だいち2号」や「だいち4号」搭載の合成開口レーダ(PALSAR-2、PALSAR-3)は、観測頻度が少ないものの、分解能が数m~数十mと高いため、氷山の面積や亀裂など細かな状態を観測することが可能です。マイクロ波を用いる「しずく」、「だいち2号」、「だいち4号」は雲の有無や昼夜を問わず全球を観測できるため、A23a氷山の動態を継続的に把握する上で最適なツールといえます。
図1(a)は、2022年1月から半月間隔でA23a氷山の動きをAMSR2データで追跡した結果を示しています。およそ2年間かけて南極大陸の陸棚斜面上に沿いながら北西方向にウェッデル海を横断し、その後、南極周極流に乗って北東方向に移動していることが確認できます。また、今年(2025年)1月から2日毎に氷山の動きを追跡した結果(図1(b))では、1月中旬に各メディアでサウスジョージア島への接近が報じられた後、しばらく西向きに移動していましたが、2月中旬から2月26日にかけて急速に島に接近し、陸棚へと侵入しています。A23a氷山が侵入した大陸棚の水深は浅いところで約200mとなっており、A23a氷山の平均厚さが280m強(※2)であることを考慮すると、大陸棚に衝突した可能性があります。A23a氷山は2月25日に大陸棚に到達しましたが、26日以降の3回のAMSR2による観測では、氷山が反時計回りに回転しつつも、北上する動きが急激に鈍化していることが確認されています (図1(c))。A23a氷山が今後、完全に座礁するのか、それとも再び移動を開始するのか、引き続きその動向を注意深くモニタリングしていく必要があります。

図1. AMSR2によるA23a氷山の追跡結果。(a)は2022年から半月毎、(b)は2025年1月から2日毎、(c)は2025年2月26日から衛星観測パスごとで追跡した結果を表す。各パネルの背景色は、(a)では2025年2月26日のマイクロ波放射計の36GHzの疑似カラー合成(R:V偏波、GB:H偏波)、(b)及び(c)ではETOPOの海底地形を表す。1986年にフィルヒナー棚氷から分離したA23a氷山は★の位置で2020年頃まで座礁していた。

また、AMSR2の観測では、1月31日に発生したA23a氷山の初の大規模崩落に伴う氷山の欠片も捉えることができています。しかし、崩落の詳細なプロセスや氷山の構造変化などを正確に把握するには、高分解能の衛星データを用いた観測が不可欠です。次に、「だいち2号」と「だいち4号」による観測から捉えた氷山の詳細な姿をご紹介します。
図2に「だいち2号」、「だいち4号」の観測範囲を示します。図3は「だいち2号」の広域観測モード(分解能100m、観測幅350㎞)によって観測された画像です。黄色く写っている箇所は氷体の亀裂を示します。ウェッデル海を漂流していた2022年12月10日時点では巨大氷山は、灰色で写っている海氷に囲まれていますが、2025年2月5日では、氷山が北上し、海氷域を脱したことがわかります。また、2025年2月5日の画像をみると氷山の一部が崩落していることがわかります。このような崩落によって、2022年12月10日時点で約4,000km2あった氷山は、2025年2月5日時点で約3,300km2に減少していました。図4は、「だいち4号」の高分解能モード(分解能3m、観測幅200km)によって観測された画像です。図3の「だいち2号」の観測と比較して、分解能が3mと高く、氷山上の亀裂等の状態がより詳細に観測でき、氷山の周縁から少しずつ崩落している様子がわかります。A23a氷山が今後、どのくらいの期間、海上に存在するかを予測するために、面積や亀裂状態をモニタリングしていく必要があります。

図2. 「だいち2号:赤枠」、「だいち4号:緑枠」の観測範囲。
図3. 2022年12月10日(左)、2025年2月5日に撮影された「だいち2号」の観測画像。赤色と緑色にHV偏波、青色にHH偏波の画像を割り当ててカラー合成した。
図4. 2025年2月18日に撮影された「だいち4号」の観測画像の拡大図。赤色と緑色にHV偏波、青色にHH偏波の画像を割り当ててカラー合成した。

今回、マイクロ波を用いる「しずく」、「だいち2号」、「だいち4号」のそれぞれの強みを生かすことによって、現地観測が非常に困難である南極域の雪氷体の変動を観測することができました。JAXAでは今後も「しずく」、「だいち2号」、「だいち4号」による当該地域への観測を継続していく予定です。

参考:
※1. BBC News,  World’s biggest iceberg heads north after escaping vortex. December 15, 2024.
https://www.bbc.com/news/articles/cg4zve79z5ro
※2. BBC News, A23a: Monster iceberg just shy of a trillion tonnes. December 14, 2023.
https://www.bbc.com/news/science-environment-67694164

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