最新画像

2024.09.24(火)

北極海の海氷域面積が2024年9月13日に年間最小値を記録
〜衛星観測史上5番目の小ささ〜

2024年9月24日
国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

宇宙航空研究開発機構(JAXA)と国立極地研究所(NIPR)は、北極域研究加速プロジェクト(ArCS II、注1)の一環で、水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)に搭載された高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)の観測データをもとに、南極・北極の海氷面積の時間的・空間的な変化を可視化し、北極域データアーカイブシステム(ADS、注2)のウェブサイトで公開しています。

2024年の海氷情報を分析した結果、北極海の海氷域面積(注3)が、9月13日に2024年の最小面積(407万平方キロメートル)を記録したことが明らかになりました。これは衛星観測史上5番目(2007年と同じ記録)の小ささになります。2024年は3月11日に最大面積(1441万平方キロメートル)を記録した後、6月上旬までは衛星観測史上1番小さかった2012年(318万平方キロメートル)よりも小さい面積で推移し、12年ぶりに記録更新も予想されましたが、8月上旬に海氷後退のペースが鈍化しました(図1)。2024年9月13日の海氷密接度の空間分布(図2)を見ると、2010年代の平均的な氷縁位置(茶色線)と比較して、東シベリア海沖とカナダ海盆域での海氷後退が顕著であることがわかります。

一方、ウランゲリ島東海域には海氷が残っており、2024年の海氷分布を特徴付けるものと言えます(ただし、この海氷が残っていなくても、2012年の最小値を下回ることはありません)。7月1日から最小値を記録した9月13日までの日々の海氷密接度分布の動画から、8月中に東シベリア海沿岸に向かって舌状に延びていた海氷域は徐々に融解してゆくものの、ラプテフ/東シベリア海から北極点の間に見られた海氷密接度の低い海域では、9月になると海氷密接度は高くなり結氷が始まっている様子が見られ、ウランゲリ島東海域では海氷が消えることはありませんでした。これは、風による海氷運動量の収束により海氷が厚くなったことで融解しにくい氷況だったことが主要因と考えられます。また、東シベリア海域の8月平均気温が低かったことも海氷融解を抑制する方向に作用したと考えられます。なお、ウランゲリ島付近に海氷が残った年は2000年以来24年ぶりですが、孤立して残った年は初めてです。

海氷域面積最小値の経年変化と長期変化傾向については、1979年から2024年までのデータによると、北極海の海氷域面積は、1年あたり約8.7万平方キロメートル(おおよそ北海道の面積に相当します)の減少傾向を示しています(図3)。北極海の夏の海氷域面積は経年変動が大きいものの、長期的な減少傾向は今後も続いてゆくと予想されます。海氷減少は、北極域の生態系や気候システムに影響を及ぼす可能性があるため、今後も注意深くモニタリングし、その要因を分析する必要があります。JAXAは、AMSR2の後継機である高性能マイクロ波放射計3(AMSR3)が搭載される温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)の打上げを2024年度に予定しています。これらのデータを活用して、さらに長期的なモニタリングを継続・発展させていきます。

注1:北極域研究加速プロジェクト(ArCS II: Arctic Challenge for Sustainability II)
国立極地研究所が代表機関を務める国の北極域研究プロジェクト。自然科学、工学、人文・社会科学分野の研究者が参加し、地球温暖化の正確な実態把握と仕組みの解明、将来予測に基づき、異なる研究分野や社会との連携、国際協力を通して、持続可能な社会の実現に貢献することを目指している。実施期間は2020年6月から2025年3月まで

注2:北極域データアーカイブシステム(ADS)
GRENE北極気候変動研究事業(2011年~2016年)や北極域研究推進プロジェクト(ArCS、2015年~2020年)およびArCS IIにおいて、南極・北極で取得された観測データやモデルシミュレーション等のプロダクトを保全・管理するためのデータアーカイブシステム

注3:海氷域面積の算出方法については、https://ads.nipr.ac.jp/vishop/#/datasetを参照

図1:北極海の海氷域面積の年間変動(黒線:1番目に小さかった2012年、赤線:2024年(1月1日から9月16日まで))
図2:2024年9月13日の海氷密接度分布
動画:2024年夏季の海氷密接度分布(2024年7月1日〜2024年9月13日)(クリックすると拡大します。GIFアニメーション62MB)
図3:北極海の海氷域面積最小値の経年変化(1979〜2024年、赤丸:2024年9月13日、青線:長期変化傾向(8.7万平方キロメートル/年))

最新情報を受け取る

人工衛星が捉えた最新観測画像や、最新の研究開発成果など、
JAXA第一宇宙技術部門の最新情報はSNSでも発信しています。