気象・環境

2023.07.10(月)

SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」への貢献

SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」は、持続可能な森林経営、砂漠化への対処、土地劣化の阻止など、陸域における様々な生態系を保護・回復することを掲げる目標で、この目標には12個のターゲットが含まれています。その中で山地については「2030年までに持続可能な開発に不可欠な便益をもたらす山地生態系の能力を強化するため、生物多様性を含む山地生態系の保全を確実に行う」というターゲット15.4が設定されています。

このターゲットの進捗を測る指標の1つが「山地グリーンカバー指数(MGCI)」(指標15.4.2)と呼ばれる、山地がどれだけ植生に覆われているかを割合で示したものです。山地を標高や傾斜などの特徴によって分類し、この分類ごとに植生の被覆を把握します。担当機関は国連食糧農業機関(FAO)で、MGCIを計算するデータソースとして、欧州宇宙機関(ESA)が衛星データから作成した全球土地被覆図を挙げています。2020年にはFAO自ら各国のMGCIを計算し、当該国にその検証を依頼しています。

この依頼を受け、総務省の「ビッグデータ等の利活用推進に関する産官学協議のための連携会議」で日本のMGCIの計算と検証が行われました。FAOは計算に必要なデータと方法論を提示していますが、山地や植生は国によって状況が異なるので、各国が独自のデータを用いることを推奨しています。日本には、衛星の観測画像を用いてJAXAが作成した「高解像度土地利用土地被覆図」があるため、MGCIの計算にはこのデータが用いられました。

図1: 高解像度土地利用土地被覆図で、富士山を中心に表示したもの。画像中央の茶色い部分が富士山で、「裸地」に分類されている。緑色の部分は森林で、森林は更に落葉広葉樹、落葉針葉樹、常緑広葉樹、常緑針葉樹、竹林に分類される。
図2: 高解像度土地利用土地被覆図で見る飛騨山脈。画像中央で南北に伸びている筋状の茶色い部分は、標高が高く植生が無い裸地。左上の赤い部分は富山市、右下は松本市で、両市とも周辺に水田(水色の部分)が広がる。

計算の結果、FAOの計算結果と比較して、MGCIはトータルで1%以上低い値を示しました。また、JAXAの土地被覆図はESAのそれよりも解像度が高く、日本の細かな土地被覆の変化や植生などの実情に合わせて土地を分類していることから、MGCIの精度を向上させることが確認されました。これらのことから、FAOのMGCI計算結果は日本の山地の植生を過大評価していたことが分かりました。ターゲット15.4の目的は生物多様性を含む山地生態系の保護なので、自国の持つ精度の高いデータを用いてMGCIの精度を上げることで、より正確に状況を把握し、適切に保護をすることが可能になります。一方、JAXAの土地被覆図は地球全体を対象には作成されていないため、独自のデータを持っていない国にとってはESAの全球土地被覆図がとても役立ちます。

図3: FAOがMGCIの計算に使ったESAの土地被覆分類図で、富士山を中心に表示したもの。山頂付近は実際には裸地だが、この分類図では耕作地(Cropland)に分類されている。このような誤分類によって、FAOが計算したMGCIは日本の山地の植生を過大評価していた。

JAXAが計算した日本のMGCIの値は、その計算方法とともにJAPAN SDGs Action Platformで確認することができます。また、国連のSDG指標に関する機関間専門家グループ(IAEG-SDGS)が作成した「SDGs地理空間ロードマップ」のウェブサイトでは、MGCIを独自に計算した日本の取り組みが、日本の山地分類図や、JAXAの土地被覆図を基に作成された植生/非植生のマップとともに各国の取組の実例として紹介されています。

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