災害

2023.02.14(火)

2023年トルコ南東部で発生した地震の観測(3月2日更新)

概要

はじめに

2023年2月6日10時17分頃(日本時間、以下同じ)にトルコ南東部でマグニチュード7.8(アメリカ地質調査所(USGS)推定*1、以下同じ)の大きな地震が発生し、19時24分頃にもさらに北側を震源とするマグニチュード7.5の地震が発生しました。JAXAは、センチネルアジア国際災害チャータ等からの要請に基づき、「だいち2号」(ALOS-2)搭載の合成開口レーダ「PALSAR-2」による緊急観測を行い、データを関係機関に提供しました。表1および図1に今回の観測範囲を示します。

図1:「だいち2号」による2023年2月8~22日の観測範囲(図中番号は表1と対応)
観測日時(日本時間) パス番号 観測モード ビーム番号 軌道・観測方向
(1) 2月8日18時40分 78 Stripmap 10m F2-5 降交・右
(2) 2月12日6時35分 185 ScanSAR W2 昇交・右
(3) 2月12日18時26分 76 ScanSAR W2 降交・右
(4) 2月16日6時21分 183 ScanSAR W2 昇交・右
(5) 2月17日18時32分 77 ScanSAR W2 降交・右
(6) 2月21日6時28分 184 ScanSAR W2 昇交・右
(7) 2月22日18時39分 78 ScanSAR W2 降交・右
表1:「だいち2号」による緊急観測の一覧

JAXAにおける解析例

1)  2月8日の観測結果

図2は、2022年4月6日(地震前)と2023年2月8日(地震後)の観測データを用いた差分干渉画像です。この観測では、およそ東側から西方向に電波を照射して観測しており、画像の青→ピンク→黄色の変化は地表が衛星から遠ざかる方向(西向きまたは沈降)、青→黄→ピンク色の変化は地表が衛星に近づく方向(東向きまたは隆起)に動いたことを示します。この結果から、今回発生した二ヶ所の震源域(赤色星,USGSによる*1)付近で非常に大きな地殻変動と、余震による局所的な地殻変動を検出しました。ただし、電離層遅延等による波長の長いノイズが画像全体に含まれており、定量的な変動量の検出には更なる解析が必要です。

図2:2022年4月6日(地震前)と2023年2月8日(地震後)の観測データによる地殻変動図(クリックで拡大)

図3は、同じ観測データを用いて、「バンド分割法を用いた差分干渉SAR解析」(Difference of Split-band Interferograms, DSI)により処理した解析結果です。DSI法では、図2で示した差分干渉画像よりも大きな変動(数メートル規模)を検出することが可能です。マグニチュード7.5の北側の震源付近を東西に横切る断層を挟んで、北側で最大2m程度の衛星から遠ざかる変位、南側で最大2.5m程度の衛星に近づく変位が検出されました。

図3:2022年4月6日(地震前)と2023年2月8日(地震後)の観測データによるDSI法による地殻変動図(クリックで拡大)

図4は、2023年2月8日(地震後)と2022年4月6日、2021年4月7日(地震前)の観測データを用いて建物の変化を自動推定したものです。濃い赤色の領域は建物の状態が大きく変化したことを表し、この中に今回の地震による建物の被害が含まれます。ただし、地震前の観測(約1年前)から現在までに起きた地震とは関係のない土地利用の変化や、積雪による地表面の変化も含まれている可能性があることに注意が必要です。

図4:2023年2月8日(地震後)および地震前の観測データから推定した建物の変化。今回の地震による建物被害のほか、通常の土地利用変化や積雪による変化も含まれる可能性がある。

2) 2月12日の観測結果(2月15日追記)

図5,6は、2022年9月11日(地震前)と2023年2月12日(地震後)に2回の広域観測モードによる観測データを用いた差分干渉画像です。図5の観測は南から北へ飛行しながら、およそ西側から東方向に電波を照射して観測しています。一方で、図6の観測は北から南へ飛行しながら、およそ東側から西方向に電波を照射して観測しています。2つの震源付近(赤色星)では断層に沿って地殻変動が検出されています。特に、北側の震源周辺では、断層を境に北側と南側で4m程度の視線方向の変位が検出されました。なお、地殻変動とは異なる系統的な位相パターン(横方向や縦方向の均一な縞模様)が見られ、定量的な変動量の検出には更なる解析が必要です。

図5:2022年9月11日(地震前)と2023年2月12日(地震後)の昇交軌道の観測データによる地殻変動図(クリックで拡大)
図6:2022年9月11日(地震前)と2023年2月12日(地震後)の降交軌道の観測データによる地殻変動図(クリックで拡大)

3) 2月16日の観測結果(2月22日追記)

図7は、2019年9月19日(地震前)と2023年2月16日(地震後)の2回の広域観測モードによる観測データを用いた差分干渉画像です。この観測は南から北へ飛行しながら、およそ西側から東方向に電波を照射して観測しています。図5・6のちょうど中間を撮像した画像であり、2つの震源付近とその周辺が広くカバーされています。北側の震源周辺では、12日の観測結果と同様に、断層を境に北側と南側で4m程度の視線方向の変位が検出されました。なお、図7にも地殻変動とは異なる系統的な位相パターンが見られ、定量的な変動量の検出には更なる解析が必要です。

図7:2019年9月19日(地震前)と2023年2月16日(地震後)の観測データによる地殻変動図(クリックで拡大)

4) 2月17日の観測結果(3月2日追記)

図8は、2022年9 月16日(地震前)と2023年2月17日(地震後)の2回の広域観測モードによる観測データを用いた差分干渉画像です。この観測は北から南へ飛行しながら、およそ東側から西方向に電波を照射して観測しています。

図8:2022年9月16日(地震前)と2023年2月17日(地震後)の観測データによる地殻変動図(クリックで拡大)

5) 2月21日の観測結果(3月2日追記)

図9は、2022年9 月6日(地震前)と2023年2月21日(地震後)の2回の広域観測モードによる観測データを用いた差分干渉画像です。この観測は南から北へ飛行しながら、およそ西側から東方向に電波を照射して観測しています。図8・9では、これまでの解析と同様に断層周辺で4m程度の視線方向の変位が検出されました。また、昇交・降交軌道において変位の方向が逆であるため、水平方向の地殻変動が卓越していることが分かります。

図9:2022年9月6日(地震前)と2023年2月21日(地震後)の観測データによる地殻変動図(クリックで拡大)

6) 2月22日の観測結果(3月2日追記)

図10は、2022年9 月7日(地震前)と2023年2月22日(地震後)の2回の広域観測モードによる観測データを用いた差分干渉画像です。この観測は南から北へ飛行しながら、およそ西側から東方向に電波を照射して観測しています。これまでの観測と同様に、断層付近で顕著な地殻変動が見られます。地殻変動とは異なる系統的な位相パターンも見られ、定量的な変動量の検出には更なる解析が必要です。

図10:2022年9月7日(地震前)と2023年2月22日(地震後)の観測データによる地殻変動図(クリックで拡大)

*1 アメリカ地質調査所(USGS)ウェブサイト:
https://earthquake.usgs.gov/earthquakes/eventpage/us6000jllz/executive
https://earthquake.usgs.gov/earthquakes/eventpage/us6000jlqa/executive

関係機関における解析例

「だいち2号」によるこれの観測データは、関係機関へ迅速に提供され、それぞれで実施された解析結果は公開されています。今回のような大規模災害の発生時には、国内外を問わずこのような連携や協力は非常に重要となります。また、他の衛星データによる解析結果や異なる機関による解析結果を比べることで、結果の信頼性の向上にもつながります。以下は、現時点でJAXAが把握している公開サイトの例です。

JAXAでは引き続きこの地域の観測を継続する予定です。

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