気象・環境

2022.08.31(水)

黒潮大蛇行が5年を越え継続

黒潮が紀伊半島から東海沖で大きく離岸することを特徴とする黒潮大蛇行(気象庁ウェブサイト「黒潮」参照)が、2017年8月に始まって、今年8月で5年以上続いています。確かな観測がある1965年以来では最長であった1975-1980年の黒潮大蛇行の期間を越えて史上最長期間になっています(表1)。

  開始 終了 期間
1 1975年8月 1980年3月 4年8か月
2 1981年11月 1984年5月 2年7か月
3 1986年12月 1988年7月 1年8か月
4 1989年12月 1990年12月 1年1か月
5 2004年7月 2005年8月 1年2か月
6 2017年8月 (継続中) (2022年8月で5年1か月目)

表1: 気象庁が判定した1965年以降の黒潮大蛇行のリスト。開始日、終了日、期間。

黒潮大蛇行の様子を、リニューアルされたJAXAひまわりモニタ・海中天気予報のサイトで見てみましょう(図1)。海中天気予報は、JAXAが海洋研究開発機構(JAMSTEC)と共同で、JAXAが提供する「しずく(GCOM-W)」や「しきさい(GCOM-C)」、静止気象衛星「ひまわり」による衛星海面水温プロダクトを高時空間解像度(約3km、1時間毎)の海洋モデルと合成させるデータ同化システムを用いて、日本付近の海洋状態の再現と予測を可能にしたプロダクトです(シリーズ「衛星データと数値モデルの融合」(第2回)衛星海面水温を用いた「海中天気予報」システムの運用を開始しました)。2018年に公開を開始したひまわりモニタ海中天気予報のサイトで、これまで「ひまわり」衛星の海面水温とクロロフィルaに加えて、海中天気予報の温度・塩分・海面高度を表示していましたが、今回、サイトが大幅にリニューアルされ、海中天気予報の海流も追加して表示出来るようになり、これまで以上に多彩な情報を見ることが可能になりました。

図1は2022年8月9日10時における水深50mの海洋モデル水温(色)と海流ベクトル(矢印)です。速い海流をあらわす赤から黄色のベクトルになっているのが黒潮の流れをしめしています。この流れに沿って海水温が高くなっており、黒潮が暖流であることをしめしています。現在の黒潮は紀伊半島の南に大きく南下し、その後に北上するという大きく曲がった流れをしています。このように流れが大きく蛇行していることから、黒潮大蛇行と呼ばれています。日本の自然環境を特徴づける黒潮の流れる位置が大きく変化することから生態系や天候に大きな影響があります。(黒潮大蛇行について詳しくはJAMSTECのウェブサイト「黒潮大蛇行が観測史上最長期間に」参照)

図1: 2022年8月9日10時における水深50mの海洋モデル水温(色)と海流ベクトル(矢印)。

図2は東海沿岸を拡大し、表示する量を「ひまわり」の観測によるクロロフィルaと流速アニメーションにしたものです。東海付近では赤い線で表現されている黒潮が沿岸近くを流れています。海洋モデルが高解像なため、拡大すると相模湾の南部に黒潮が入り込むような様子まで見ることができます。黒潮は生物生産性が低いため、黒潮が流れている所ではクロロフィルaが少なくなっていることがわかります。黒潮大蛇行時に東海沿岸に近づく黒潮大蛇行は高温と低栄養塩をもたらし、海藻が著しく減少する磯焼けを引き起こしアワビなどが不漁になっています。一方で、黒潮付近を回遊するカツオは豊漁が伝えられています。

JAXAとJAMSTECは今後も、高い時空間解像度の現況及び予測データを本研究は衛星による海洋情報をわかりやすい形で提供します。これらの情報が水産試験場や漁業者などの漁業分野で定常的に利用されることで、効率的な漁業操業へ貢献できると考えています。

文:JAMSTEC 美山透 主任研究員

図2: 2022年8月9日10時における「ひまわり」衛星観測によるクロロフィルa(日平均、色)と流速アニメーション(線)。ここでは静止画だが、実際のサイトでは流速はアニメーション表現になっている。

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