利用研究

2021.12.22(水)

衛星による世界の降水データの性能が向上します

JAXAでは、20年以上の長期にわたり、NASAと協力して、熱帯降雨観測衛星(Tropical Rainfall Measuring Mission; TRMM)と全球降水観測計画(Global Precipitation Measurement Mission; GPM)を通して世界の降水を観測しています。また、TRMMやGPM、さらに水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)などの複数の衛星観測データを利用し、気象に限らず、防災や様々な分野で応用可能な世界の降水マップ(衛星全球降水マップ;GSMaP)を提供しています。
より使いやすく精度の高い降水データを提供するため、JAXAでは大学・研究機関との協力で降水推定アルゴリズム改良のための研究を継続して行ってきました。2021年12月より、以下のデータのバージョンアップを実施しましたので、お知らせいたします。

■ 衛星全球降水マップ GSMaPデータ

衛星全球降水マップ(GSMaP)は、衛星による1時間毎の世界の降水分布データです。農業分野や気候監視で役立つ20年以上の長期間の蓄積された降水情報や、台風やサイクロンの現況監視に役立つリアルタイム降水データが利用可能です。
これまでのGSMaPは、GPM主衛星(観測領域が北緯南緯65度)を軸として開発していることから、北緯南緯60度より極域の降水情報は提供していませんでした。今月公開した新しいGSMaPでは、GPM主衛星が観測できない高緯度域の衛星搭載マイクロ波放射計による観測を、より有効に活用することで、GSMaPの観測領域を極域まで拡張しました。このことにより、ユーラシア大陸高緯度やアラスカの降水が新たに推定できるようになりました。図1に示した既存のGSMaPと新しいGSMaPによる2014年7月の月平均降水量の比較でも、降水が推定可能な領域が拡張されていることがわかります。2021年12月に更新した降水推定アルゴリズムでは、様々な改良が取り込まれており、従来のバージョンと比べて改善され、精度も向上することを確認しています。(詳細な説明資料はこちらをご覧下さい)。ただし、海氷域とグリーンランドは、未だに研究開発要素が高く、今回のバージョンでは欠損となっています。また、マイクロ波放射計が通過していない時間帯の降水推定も、今後の課題となっていますので、JAXAではさらなるGSMaP性能向上にむけた研究開発を継続する計画です。

図1. これまでのGSMaP(左)と、極域まで拡張した新しいGSMaP(右)による2014年7月の月平均降水量[mm/day]分布の比較。

■ GPM主衛星搭載 二周波降水レーダデータ

GSMaPを開発する上でも重要となっている衛星センサが、全球降水観測計画(GPM)の主衛星に搭載されている二周波降水レーダ(DPR)です。宇宙から三次元で降水を高精度にはかることのできる衛星は、このGPM主衛星1機のみであり、立体的な降水の観測により、各地の降水の特徴の理解が深まることで、降水を推定する気象予報モデルの改善に貢献できます。DPRの観測データは、2016年3月から気象庁の数値気象予報にも定常的に使われており、日々の天気予報にも役立てられています。
GPM主衛星は2014年2月に種子島宇宙センタから打ち上げられ、設計寿命3年2か月の定常運用を終え、すでに7年を超えて後期運用を継続しています。DPRは”二周波”降水レーダの名の通り2つの周波数を使って降水を観測しており、図2に示す通り、Ku帯降水レーダとKa帯降水レーダの2つの降水レーダから構成されています。Ku帯降水レーダとKa帯降水レーダの観測結果の違いを利用することで、霰や雹などの固体降水を検出するなど、降水の粒子に関する情報の取得が可能となりました。

図2. GPM主衛星に搭載された二周波降水レーダ

JAXAおよびNASAは、後期運用移行後の2018年5月21日に、Ka帯降水レーダのスキャンパターンを図3のように変更しました。このスキャンパターン変更前は、Ku帯とKa帯の2周波の降水レーダ観測が活用できるのは125km観測幅の中心部のみでしたが、スキャンパターン変更後は245kmの観測幅全体で二周波の観測情報が適用できるようになりました。新しいGPM/DPRプロダクトでは、このスキャンパターン変更に対応したアルゴリズムを適用することにより、245km観測幅で二周波情報を得ることができるため、さらなる研究成果創出の加速が期待できます。(詳細な説明資料はこちらをご覧下さい)。

図3. 2018年5月21日実施したKaPRスキャンパターン変更の概念図。左図は変更前、右図は変更後のスキャンパターンを示す。

また、DPR潜熱(SLH)プロダクトについても、熱帯・中緯度アルゴリズムの改良に加えて、これまで欠損としていた高原・斜面域の推定手法を開発し、新バージョンから導入しています。

これらの一般提供されたGPMプロダクトは、JAXA-G-Portalから取得可能です。また、GSMaPについてはG-Portal(HDF/TXT)とは異なるフォーマット(バイナリ/CSV/NetCDF)のデータがEORC世界の雨分布速報から取得可能です。どうぞご利用ください。

関連サイト

JAXA世界の雨分布ウェブサイト(GSMaPのデータ)
JAXA 3D Rainfall Watch(GPM/DPRのデータ)

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