気象・環境

2022.04.22(金)

Earth Day ~地球について考える~
「地球上の消えゆく湖と、現れるクレーター」

図1 : アラル海(①)とバタガイカ(②)の位置

4月22日は地球の環境について考える日として提案された「アースデイ(Earth Day)」です。
本稿ではこのアースデイにちなみ、地球環境の変化によって消えゆく湖(①)アラル海(カザフスタン,ウズベキスタン)と現れるクレーター(②)バタガイカ(ロシア)について、人工衛星から観測された画像を元に解説します。

①地球上の消えゆく湖 アラル海

図①-1
2003年10月 ADEOS-Ⅱ
図①-2
2006年9月~2007年10月 ALOS
図①-3
2021年9月 Sentinel-2

本項目は「地球が見える」で、2004年と2007年に公開された記事を参考に執筆しています。
2004年の記事はこちら
2007年の記事はこちら

図①-1~図①-3は2003年~2021年までのアラル海を示しています。アラル海は中央アジアのカザフスタンとウズベキスタンにまたがって位置し、かつては琵琶湖のおよそ100倍の面積をもつ世界で4番目に大きな湖として、乾燥地帯に豊富な水を有していました。しかし、1960年代以降、年々水位が低下し、面積も縮小し続けています。その原因は、周辺地域における綿花や穀物栽培のための大規模灌漑用水として取水されたため、と言われています。
図①-1の2003年の観測画像では、かつて湖底であった場所からアラル海の縮小とともに、塩分が蓄積した地表(白く見える部分)が出現していることが確認できます。図①-1と図①-2の2006年のアラル海を見比べると、南アラル海が東西に分かれて、さらに縮小しつつある一方、北アラル海は逆に拡大したことが分かります。
かつて北アラル海に面した港町であったアラリスクが図の右上隅に、南アラル海に面していた港町ムイナクが左下にあります。ムイナクから最も近い海岸線までの距離は図①-1では50kmでしたが、図①-2では77kmに延びました。一方、アラリスクから最も近い海岸線までの距離は図1では35kmでしたが、図①-2では25kmに縮まりました。
南アラル海の縮小は特に東側の部分で著しく、図①-2では海岸線が大きく後退した跡が年輪のような縞模様となって見えています。また、エメラルド・グリーンに見える海面は水深が浅いことを示しており、今後も急速な縮小が続くものと予想されていました。その予想通り、図①-3 2021年の観測画像では、北アラル海は2006年時点の面積を辛うじて維持することができていますが、南アラル海東側は、手の施しようがないほどに干上がってしまっています。
過去数十年の急速なアラル海の縮小は、周辺住民の生活には大きな影響がもたらしています。現在湖に残っている水は塩分濃度が非常に高く、魚介類を死滅させてしまうため、漁業を営むことが不可能になりました。また、この地域の乾燥気候を和らげていた水がなくなったことで気候も変化し、綿花や穀物の生育条件なども悪化しています。さらに、干上がった湖底から塩分や砂、農薬が巻き上げられ、住民の健康にも大きな被害を与えています。

②現れるクレーター バタガイカ・クレーター

図②-1
2008年9月 ALOS
図②-2
2021年9月 Sentinel-2

図②-1、図②-2は2008年と2021年のあるクレーターを表しています。
このクレーターは「バタガイカ・クレーター」と呼ばれ、シベリア東部のサハ共和国にあります。永久凍土が融解し、地盤が沈下したことが原因で現れました。
図②-1の2008年と図②-2の2021年の観測画像を比較すると、クレーターが拡大しているのが見て取れます。衛星画像から2008年時点では穴の面積は約0.6㎢、2021年には約0.9㎢と推測され面積は約1.5倍となっており、これは東京ドーム約6.4個分大きくなっていると言えます。また深さは最大90mになっており、現在も拡大を続けています。バタガイカ・クレーターは永久凍土の融解によって形成されたクレーターとしては最大級のものです。
永久凍土とは北極域の高緯度地域などで見られ、有機炭素堆積物を含み、永続的に凍結した土壌のことです。永久凍土は1960年代から主に2つの理由で融解が進んでいると考えられています。1つ目は開発による森林伐採により永久凍土を覆う木々がなくなり、太陽光が地表を温めたことによるもの。2つ目は地球温暖化にともなう気温上昇です。永久凍土の融解によって、土壌内に蓄積されていた二酸化炭素やメタンなど温室効果ガスが放出され、地球温暖化をさらに増幅させる悪循環が進むと考えられています。

図②-1, 図②-2を元に作成した
2008年から2021年のクレーターの変化

宇宙から人工衛星によって地球を観測すると、広範囲を一度に観測できるため、本稿で取り上げたアラル海やバタガイカ・クレーターのようなものの全容をとらえることができます。また、継続的に観測を続けることによって、経年の変化も確認することができます。
本稿では、人間の営みによって引き起こされた環境変化で、宇宙からもとらえられるほど大きな変動があった地域を取り上げました。アースデイというこの機会に今一度、わたしたちが暮らすたった一つの地球環境について考えてみませんか。

観測画像について

①の画像について
観測衛星: 図①-1 環境観測技術衛星「みどりⅡ」(ADEOS-II)
観測センサ: グローバルイメージャ(GLI)
観測日時: 2003年10月14日(世界標準時)
観測衛星: 図①-2 陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)
観測センサ: 高性能可視近赤外放射計2型(AVNIR-2)
観測日時: 2006年9月23日〜2007年10月30日(世界標準時)
地上分解能: 10m
観測衛星: 図①-3 Sentinel-2 (ESA)
観測日時: 2021年9月15日〜2021年9月30日
地上分解能: 10m
②の画像について
観測衛星: 図②-1 陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)
観測センサ: 高性能可視近赤外放射計2型(AVNIR-2)
観測日時: 2008年9月10日(世界標準時)
地上分解能: 10m
観測衛星: 図②-2 Sentinel-2 (ESA)
観測日時: 2021年9月1日〜2021年9月3日
地上分解能: 10m

参考

環境省:環境白書
P9 永久凍土の融解
バタガイカ解説

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