災害
2021.03.10(水)
震災から10年を迎えて ~宇宙から見た復興状況~
前回掲載の「東日本大震災-JAXA地球観測の記録」では震災当時、JAXAの災害対応現場ではどのような活動を行っていたか、またその後の防災活動に関する取組みの概要などをまとめました。今回は、震災から10年を迎える機会に、地球観測衛星データの解析結果から見る復興・復旧の様子をご紹介します。
はじめに
JAXA地球観測研究センター(EORC)では、特に「だいち」(ALOS)シリーズ衛星データによる利用研究成果の一つとして、「高解像度土地被覆図データセット」を整備・公開しています。今回、日本全国を対象とした最新の土地被覆分類図として「日本域高解像度土地利用土地被覆図【2018~2020年】(バージョン21.03)」をリリースしました。本リリースによって、日本国内の土地被覆分類図としては3時期のデータセットとなります。本稿では、これら3時期の土地被覆分類図の比較から、震災および復興・復旧活動を含む土地被覆の変化の様子を考察します。宇宙から観測したデータを使用して算出した3時期の土地被覆分類図の比較ですので、当然、震災および復興・復旧活動と関係しない変化も含まれる点はご注意下さい。
表1:「日本域高解像度土地利用土地被覆図」データセット公開履歴と概要
対象期間 |
2006~2011 震災前 |
2014~2016 震災後約5年 |
2018~2020 震災後約10年 |
---|---|---|---|
主に使用する衛星データ | ALOS/AVNIR-2 | Landsat-8/OLI | Sentinel-2 |
空間解像度 | 10m | 30m | 10m |
分類手法 | SACLASS | SACLASS | SACLASS+CNN |
分類カテゴリー数 | 10 | 10 | 12 |
全体精度(%) 約2,700点の検証情報による | 78.0 | 81.6 | 84.8 |
データセットVer. (リリース年月) | 16.09 | 18.03 | 21.03 |
表1は「日本域高解像度土地利用土地被覆図」データセットの公開履歴と概要をまとめたものです。2011年を基準に考えると、2011年3月以前の「だいち」(ALOS)/AVNIR-2を主に使用した「震災前」、2014-2016年観測の米国Landsat-8データによる「震災後約5年」、今回新たに公開した欧州Sentinel-2による2018-2020年観測データを用いた「震災後約10年」の3時期が利用可能となりました。分類手法や精度検証については、「高解像度土地被覆図データセット」をご参照下さい。
土地被覆の経年変化から見る復興・復旧の様子
図1は本稿でご紹介する解析対象地域の位置を「高解像度土地被覆図(Ver.21.03)」にプロットしたものです。いずれも本震災および地震にともなう大津波に甚大な被害を受けた地域です。以降では各地域における土地被覆の変化について考察します。
図2は福島県双葉郡富岡町・楢葉町付近における3時期の土地被覆分類図を示したものです。各図は左から、表1に示した「震災前」、「震災後約5年」、「震災後約10年」の同じエリアを並べたもので、色は凡例の土地被覆を表しています(以下、同様)。図2から、「震災前」は平野部の多くが水田(水色)と市街地(赤)で覆われていたところ、「震災後約5年」では草地(黄色)や畑(ピンク)に変わるとともに北側(富岡町)の市街地が多少縮小しているように見えます。これは発災後、避難指示が出されたため、水田が草地に変わったものと考えられます。その後、「震災後約10年」では南側の楢葉町では一部の水田が再開され、富岡町では大規模な太陽光発電所(紫)が建設されている様子などが分かります。
図3は福島県浪江町・双葉町付近について、3時期の土地被覆分類図を示したものです。図2と同様に、「震災前」は平野部の多くが水田(水色)であったところが、「震災後約5年」では草地(黄色)に変化するとともに北側にあたる浪江町の市街地の範囲が多少縮小しているように見えます。また、沿岸部に畑(ピンク)がありますが、津波による被害があった場所と思われます。「震災後約10年」では、浪江町の市街地が震災前と同様に広がるとともに、大規模な太陽光発電所(紫)が建設された様子が分かります。
図4は福島県南相馬市付近について、3時期の土地被覆分類図を示したものです。こちらも図2と同様に、「震災前」は平野部の多くが水田(水色)であったところが、「震災後約5年」では畑(ピンク)や草地(黄色)に変化していることが分かります。また沿岸部では裸地(茶)が拡がっている様子が見えます。「震災後約10年」では、図の中央にある南相馬市市街地(赤)の北側では多くの水田が再開されている様子が確認できます。海岸線近くでは何ヶ所か大規模な太陽光発電所(紫)が建設されています。
図5は宮城県気仙沼市小泉付近について、3時期の土地被覆分類図を示したものです。三陸のリアス式海岸に面する地区ですが、「震災前」は河川沿いの小さい平野部にあった水田(水色)が、「震災後約5年」では津波の影響と考えられる裸地(茶)へと変わっています。「震災後約10年」では、市街地(赤)を示していますが、これは護岸や堤防が建設されたためです。また、一部の水田の再開、内陸部で市街地の拡大や太陽光発電所(紫)などの様子が分かります。
図6は岩手県陸前高田市付近について、3時期の土地被覆分類図を示したものです。図5と同様に、三陸のリアス式海岸に面する地区で、「震災前」は平野部で市街地(赤)が拡がっていたところ、「震災後約5年」ではやはり津波の影響と考えられる裸地(茶)へと変わっています。「震災後約10年」では、海岸沿いで市街地(赤)を示しているのは新たに護岸が設置され、裸地(茶)は整地されている様子を表しています。また内陸部に新たな市街地が拡がっていることが分かります。
図7は岩手県宮古市田老地区付近について、3時期の土地被覆分類図を示したものです。こちらも小さな港町ですが、「震災前」は平野部で市街地(赤)であったところ、「震災後約5年」ではやはり津波の影響と考えられる裸地(茶)へ広く変わっています。「震災後約10年」では、海岸沿いでは市街地(赤)が整備されるとともに、高台にも新たな市街地が整備されている様子が分かります。こちらは、国交省発行の「土地白書」平成28年版によると「防災集団移転促進事業」の対象となっている場所です。
図8は福島県いわき市久之浜町付近における3時期の土地被覆分類図を示したものです。いわき市北部に位置する港町ですが、「震災後約5年」で沿岸域では草地(黄)や裸地(茶)に見えますが、「震災後約10年」では復興の様子が分かります。また、高台には新たな市街地(赤)が拡がっています。
図9は福島県相馬市付近について、3時期の土地被覆分類図を示したものです。沿岸部、特に松川浦は「震災前」には森林(緑)であったところが、「震災後約5年」では裸地(茶)に変化していることが分かります。「震災後約10年」には、松川浦では整地が進められ、北側の沿岸部は市街地(赤)が新たに整備されている様子がうかがえます。また、南側には太陽光発電所(紫)が建設されています。
図10は宮城県仙台市付近について、3時期の土地被覆分類図を示したものです。図の真ん中に見えるのは仙台空港です。「震災後約5年」ではやはり津波の影響と考えられる裸地(茶)が海岸線沿いに拡がっている様子が分かります。「震災後約10年」では、大規模な太陽光発電所(紫)が設置されるとともに、内陸部に新しい市街地(赤)が拡がっていることが分かります。
図11は宮城県松島町付近について、3時期の土地被覆分類図を示したものです。松島一帯は遠浅の多島海という松島湾の地勢が津波の威力を減衰し、甚大な被害が発生した周辺地域と比較して軽微な被害に留まったと考えられています。「震災後約10年」では、内陸部に新たな市街地(赤)が拡がるとともに、太陽光発電所(紫)も設置されていることが分かります。
図12は宮城県石巻市・女川町付近について、3時期の土地被覆分類図を示したものです。「震災後約5年」では女川町の平野部は裸地(茶)となっていますが、「震災後約10年」では市街地が復興している様子が分かります。また内陸部でも新たな市街地が拡がるとともに、ゴルフ場であった草地(黄)に太陽光発電所(紫)が設置されていることが分かります。
まとめ
本稿では、EORCでこれまで公開している「日本域高解像度土地被覆図データセット」の比較から、「震災前」、「震災後約5年」、「震災後約10年」の3時期間における変化について考察しました。一例として、東北地方の11地域を対象に詳細な変化をご紹介しましたが、震災による影響とその後の復興・復旧状況が確認できました。2021年度には先進光学衛星(ALOS-3)、2022年度には先進レーダ衛星(ALOS-4)の打上げも予定されており、引き続き広域に渡る復興状況の確認を継続する予定です。これらの成果が今後の防災活動の一助になることを期待します。
※衛星データは政府機関や防災機関による被害予測や被害状況把握に利用されますが、解析や解釈には高度な専門知識が必要となります。災害時には必ず政府機関やお住まいの市町村から発令される情報を参照し、行動するようにしてください。
観測画像について
図2~12
観測衛星 |
左:陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS) 中:Landsat-8 右:Sentinel-2 |
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観測センサ |
左:高性能可視近赤外放射計2型(AVNIR-2) 中:Operational Land Imager(OLI) 右:MultiSpectral Instrument(MSI) |