利用事例

2020.11.30(月)

気候変動モニタリングのための必須気候変数(ECV) ― ECVインベントリー(Ver3)の公開 ―

1.気候変動モニタリングのためのECV

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書(AR)や、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)で採択されたパリ協定から明らかなように、地球温暖化をはじめとする気候変動への対応については、世界的な政策課題として各国が取り組んでいます。

JAXAは、地球観測衛星を開発、運用しており、気候変動の実態解明は、これらの衛星の大きな役割の一つです。気候変動の状況を把握するためには、多様な環境要因を「面的に」「全球規模で」「定期的に」観測し、モニタリングによって変化を抽出することが必要です。そのため、このような測定が実現可能な地球観測衛星が有効な手段となります。また、地球観測衛星と従来の地上観測や航空機観測などと組み合わせることで、気候変動モニタリングの精度向上が期待されています。

気候変動に伴う地球環境の変化を具体的かつ正確に把握・予測することを目的に、2004年に国際的(※1)に必須気候変数(Essential Climate Variable; ECV)が全球気候監視システム(GCOS)によって制定されました。2006年には、衛星観測によるECVも選定されています。ECVとは、地球の気候を特徴づける因子である物理学的・化学的・生物学的変数、あるいはそれらを組み合わせた変数のことで、現時点で54の変数を特定しています(図1参照)。ECVに係る観測により得られた気候データレコード(Climate Data Record; CDR)は、1)気候変動を理解し予測するため、2)気候変動の影響を緩和し、適応するための手段の指針とするため、そして3)気候変動のリスクを評価し、異常天候の潜在的な原因を明らかにするために必要な実証的証拠となります。

地球気候観測システム(GCOS)により特定されたECVの一覧

図1. 地球気候観測システム(GCOS)により特定されたECVの一覧

https://gcos.wmo.int/en/essential-climate-variables/

2.ECVインベントリー(Ver3)の公開

ECVインベントリー(ECV Inventory)は、衛星観測により作成された気候データレコード(CDR)の情報を収集・編集・更新しているデータベースです。約2年毎に更新作業が行われており、2020年8月に最新バージョン(Ver.3)が公開されました。
https://climatemonitoring.info/ecvinventory

ECVインベントリーVer.3には世界中にある30以上の機関から、1,137件のCDRが登録されており、その内訳は既存のCDRが776件、計画中のCDRが371件です(表1参照)。観測対象の内訳では大気が最も多く、次いで陸面、海洋となっています。

表1: ECVインベントリー Ver3に登録されたCDRの件数

観測対象 件数 登録済み 計画中
大気 801 535 266
陸面 203 141 62
海洋 133 90 43
合計 1,137 766 371

3.JAXAのECVインベントリーへの貢献

JAXAは、大気、海洋、陸面、雪氷といった地球の環境変動を長期にわたってグローバルに観測することを目的とした気候変動観測衛星(GCOM-C)「しきさい」や水循環観測衛星(GCOM-W)「しずく」等を運用しており、これらの観測データはECVへの貢献が期待されています。図2に示す通り、GCOM-Cによる観測が、大気・陸域・海洋の全ての分野で18個のECVに貢献するように、他の地球観測衛星の観測も含め、合計26個のECVの観測にJAXAの衛星は貢献します。

現在、JAXAは温室効果ガス、陸域土地被覆、そして海氷の3つのECVに係る8つのCDRのインベントリーを登録しており、今後、新たなプロダクトの公開とともに登録を追加する予定です(表2参照)。これらの観測データは、JAXAの地球観測衛星データの提供サイトであるG-Portal等から取得できます。

G-Portal: https://gportal.jaxa.jp/gpr/?lang=ja

表2: ECVインベントリー Ver3に収録されているJAXAの衛星データから作成されたECV

観測対象 ECV ECV 衛星プロダクト 衛星/観測器
大気 二酸化炭素
メタン
その他の温室効果ガス
対流圏二酸化炭素鉛直分布
対流圏メタン鉛直分布
GOSAT-1/TANSO-FTS,
GOSAT-2/TANSO-FTS/2
陸・海洋 土地被覆 土地被覆図 JERS-1/SAR, ALOS/PALSAR, ALOS-2/PALSAR-2
海氷 海氷密接度 Aqua/AMSR-E,
GCOM-W/AMSR2,
その他海外のマイクロ波放射計

なお、今後のECV インベントリー Ver4の改訂作業に向けてJAXAからは表3のECVプロダクトについて登録申請を予定しています。

表3: ECVインベントリーの次期アップデート以降で登録を予定しているECVプロダクト

観測対象 ECV ECV 衛星プロダクト 衛星/観測器
大気 エアロゾル エアロゾル光学的厚さ GOSAT-2/TANSO-CAI/2,
GCOM-C/SGLI
降水量 降水(液体・固体) Aqua/AMSR-E,
GCOM-W/AMSR2,
TRMM/PR,
GPM/DPR
水蒸気 鉛直積算水蒸気量 Aqua/AMSR-E,
GCOM-W/AMSR2
雲特性 雲量 GCOM-W/AMSR2
風速 海上風速 Aqua/AMSR-E,
GCOM-W/AMSR2
地表面温度 地表面温度分布 Aqua/AMSR-E,
GCOM-W/AMSR2
地表面温度 地表面温度分布 Aqua/MODIS,
Terra/MODIS,
GCOM-C/SGLI
積雪域・積雪深 Aqua/AMSR-E,
GCOM-W/AMSR2
積雪域 Aqua/MODIS,
Terra/MODIS,
NOAA/AVHRR,
GCOM-C/SGLI
土壌水分 地表面土壌水分 Aqua/AMSR-E,
GCOM-W/AMSR2
林野火災 火災域分布 Aqua/MODIS,
Terra/MODIS,
GCOM-C/SGLI
海洋 海面水温 海面水温 Aqua/AMSR-E,
GCOM-W/AMSR2
海面水温 海面水温 Aqua/MODIS,
Terra/MODIS,
GCOM-C/SGLI
海色 クロロフィルa濃度 Aqua/MODIS,
Terra/MODIS,
GCOM-C/SGLI

4.気候変動の解析への貢献事例

(1)海洋

ECVの1つである「海氷」は、温暖化の指標として注目度が高く、とくに衛星からの観測が重要とされている変数の一つです。例えば、2013年に公表されたIPCC第1作業部会第5次報告では、衛星搭載マイクロ波放射計による観測を解析し、1979-2012の期間中、北極圏の年平均海氷面積の減少は10年あたり3.5-4.1%の割合であった可能性が非常に高い(90%)と記述されています。また、21世紀中に北極海の海氷は面積が縮小かつ厚さが薄くなり続け、また北半球の春期の積雪が減少する可能性が非常に高い(90%)と報告されました。

2013年以降も、北極海の海氷面積の減少傾向は衛星からも観測されており、JAXAの解析では2020年9月には衛星での観測が本格的に始まった1979年以降で、史上二番目の最小値(史上最少は2012年9月)を記録しています。

(2)大気

温室効果ガス観測技術衛星「GOSAT」(いぶき)はECVの1つである「二酸化炭素濃度」を10年以上観測しており、増加傾向をとらえています(図5)。これにより、例えば、2019年と2009年を比較すると、この1年で2.4ppmの二酸化炭素濃度が増えているとわかりました。

GOSATによる2009年~2019年のCO2全大気平均濃度の変遷

図5. GOSATによる2009年~2019年のCO2全大気平均濃度の変遷

このように、長期の衛星観測データにより、ECVをはじめとした気候変動に伴う地球環境の変化を把握することができます。

JAXAは、質の高い衛星観測とデータ提供を継続的に実施することを通じて、気候変動の実態解明や、より良い環境や災害対応にかかる政策等への貢献を目指していきます。

※1:1992年にWMO等により設置された地球気候観測システム(Global Climate Observing System; GCOS)により特定された。

最新情報を受け取る

人工衛星が捉えた最新観測画像や、最新の研究開発成果など、
JAXA第一宇宙技術部門の最新情報はSNSでも発信しています。