利用事例

2019.03.25(月)

衛星全球降水マップ(GSMaP)の海外における農業分野での利活用

JAXAでは、全球降水観測計画(GPM)において、GPM主衛星や水循環変動観測衛星「しずく」など複数の人工衛星データを用いて、「衛星全球降水マップ(GSMaP)」という世界の降水分布データを作成して提供しています。GSMaPを表示するウェブサイトである「世界の雨分布速報」を用いると1時間ごとの世界の雨を閲覧することができます。

GSMaPは、これまで気象・防災分野での利用事例が多くありますが、近年は、農業分野においても、作物の生育判断に重要な基本情報としてGSMaPによる降水データの利用が拡がっています。

GSMaPの降水観測データは、「降っている雨の量と場所」だけでなく「雨が降っていない場所」の特定もできるため、農作物の生育状況や収量など農業に大きな影響を与える干ばつをとらえるためにも有効な情報となります。農家が受ける干ばつ被害は、近年、気候変動・地球温暖化によって深刻化が指摘されています。

農産物の干ばつ被害のリスク軽減にはさまざまな対策方法がありますが、GSMaPデータが実際に民間企業で利用され、社会実装されている例をご紹介します。干ばつなどの気象や気候の変化によるリスクにさらされるアジアの開発途上国の農家が安定的な事業を行うため、日本の民間企業によって「天候インデックス保険」が開発されました。この天候インデックス保険を開発するにあたって、現地では地上観測が不足しているため、実際の降水量把握のためにGSMaPのデータが活用されています。タイの主要輸出農作物の1つに、ライチなどと同じムクロジ科のロンガン(竜眼)という熱帯フルーツがあります。このロンガンも干ばつリスクにさらされており、チェンマイを対象としたロンガン農家向けの天候インデックス保険が2019年2月より販売が開始されるとの情報が公開されました。

上記のような民間企業での利用だけでなく、JAXA自身でも農業分野でのGSMaPの利活用を進めています。

2011年のG20農業大臣会合で採択された全球農業監視イニシアチブ(GEOGLAM)におけるアジア水稲監視プロジェクトの一環として、JAXAでは東南アジア各国の農業省への農業気象情報の提供のため、JASMIN(JAxa’s Satellite based MonItoring Network system)というウェブシステムを開発し、インターネットで公開しています。このシステムでは、GSMaPだけでなく、様々な衛星・センサから作成された、土壌水分量、日射量、地表面温度、植生指標に加え、干ばつ指数(東京大学生産技術研究所より提供)も提供しており、衛星観測による農業に重要な気象情報が一元的に閲覧できるようになっています。さらに、このシステムを有効に活用するため、各国の農業省の農業統計担当官、ASEAN+3食料安全保障システム(AFSIS)の専門官とJAXAが協力し、現地の情報と本システムから提供され得る農業気象情報を利用して、水稲の作況情報を毎月作成しています。作成した水稲作況情報は、GEOGLAM を通じて、 FAO などが運用する農業市場情報システム(AMIS)に提供され、AMIS から 毎月発行されるMarket Monitorにおいて、Crop Monitor の中の水稲作況把握に活用されています。なお、本取組みは日本政府の持続的開発目標(SDG)アクションプラン2019においても「東南アジアにおける米の作柄把握」として記載されています。

JASMINのインターフェース

図1 JASMINのインターフェース

JASMINの応用事例として、冒頭の説明にあった天候インデックス保険に関連し、その対象となっているタイチェンマイの干ばつの2015年の例を紹介します。

2015年夏はアジアモンスーンが平年より弱かった影響で、タイ北西部で降水量が平年より少ない状態となり、干ばつのリスクが上がっている様子がJASMINによってとらえられました(図2)。このときのチェンマイ(北西部)の降水量の時間変化からも、6-9月の降水量が平年より少ないことがわかります(図3)。

図2 2015年7月後半のタイにおけるGSMaP降水量(左)と干ばつ指数(右)の値(上)と平年値からの偏差(下)の分布。干ばつ指数は値が大きいほど干ばつリスクが高いことを示している。*JASMINより

タイ チェンマイにおけるGSMaP降水量の時系列グラフ(赤が2015年、青が2014年、灰色が平年値)

図3 タイ チェンマイにおけるGSMaP降水量の時系列グラフ

(赤が2015年、青が2014年、灰色が平年値)*JASMINより

海外では、降水量を把握するための観測網が不十分な地域も少なくなく、衛星によるデータをベースに開発されたGSMaPが役に立っています。

観測画像について

画像:観測画像について

関連リンク

最新情報を受け取る

人工衛星が捉えた最新観測画像や、最新の研究開発成果など、
JAXA第一宇宙技術部門の最新情報はSNSでも発信しています。