災害
2018.08.08(水)
Today’s Earthが再現した平成30年7月豪雨による水害
「平成30年7月豪雨」により、九州、中国、四国、近畿地方はじめ、広い範囲で甚大な被害が発生しました。被害を受けられた方々に対し、謹んでお見舞い申し上げます。
JAXAではこの豪雨による被害を受け、全球降水観測計画(GPM)主衛星と全球合成降水マップ(GSMaP)による豪雨の解析や、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」による浸水域等の解析を進めてまいりました。今回、これらに加えて、東京大学でと共同で開発を進める陸面シミュレーションモデル「Today’s Earth(TE)」の高解像度版を利用し、甚大な被害が出た河川の氾濫や浸水の再現実験を行いました。
豪雨の概況
平成30年7月5日頃から西日本付近に停滞していた梅雨前線と、台風7号から変わった温帯低気圧の影響により、日本付近に温かく非常に湿った空気が供給され続け、西日本を中心に全国的に広い範囲で記録的な豪雨となりました(図1)。国交省の報告によれば、この豪雨によって全国22河川の堤防で決壊が起こり、甚大な浸水・氾濫被害がもたらされました。
図1 GSMaPによる7月6日午前0時~7月8日午前0時(日本時間)の豪雨の様子
TEが再現した浸水・氾濫の様子
降水量はその地域における氾濫の危険性と密接に関係しているため、降水の観測は避難計画の立案等にも必要不可欠なものです。しかし、それだけでは実際に地上のどこでどの程度の浸水や氾濫被害が起こるのかを詳細に把握・予測することはできません。Today’s Earth(TE)では、降水量などの衛星から観測された物理量を含む気象データに基づき陸面の水や熱の移動をコンピュータ上で計算(シミュレーション)することで、浸水や氾濫の様子を再現することができます。今回は被害の大きかった西日本の状況把握のため、空間解像度1㎞のシステム(開発中)を用いて試験的に再現実験を行いました。
特に氾濫被害の大きかった岡山県倉敷市・高梁川における再現結果を図2に示します。まず豪雨によって北から南へ流れる主流(高梁川)の河川流量が急激に増加し、その後支流(小田川)からの流入に耐え切れなくなったため合流地点を中心に氾濫が広がっていく様子が再現されています。
図2 7月6日午前0時~7月8日午前0時(日本時間)における高梁川周辺の河川流況。それぞれ左が河川流量、右が氾濫面積を示しており、赤枠で囲った部分が特に浸水被害の大きかった地域。北から瀬戸内海へ流れ込んでいるのが高梁川、そこへ西側から合流しているのが小田川である。
図3は、肱川同様に甚大な被害が出た愛媛県大洲市・肱川の再現結果です。気象庁から洪水警報が出された7月6日0時頃から河川流量の多い状態が続いており、同日午後には南東から北西へ向かう流路の途中、蛇行部分を中心に氾濫を示す橙~赤色の格子が広がっていく様子がわかります。
図3 7月6日午前0時~7月8日午前0時(日本時間)における肱川周辺の河川流況。それぞれ左が河川流量、右が氾濫面積であり、赤枠で囲った部分が特に浸水被害の大きかった地域。南東から北西にかけて蛇行しながら流れているのが肱川である。
いずれの結果においても、TEによって氾濫の被害が大きいと判断された領域(橙~赤色の格子)は、国土地理院が映像情報等から推定した7月7日の浸水域(高梁川・肱川)とほぼ一致しており、その解像度についても災害の範囲・規模を適切に表現できるレベルにあるといえます。(なお、今回の水害のより詳細な情報については共同研究先の東京大学生産技術研究所等からの報告書「平成30年7月豪雨に関する資料分析 第1報」をご確認ください。)
このように、1km解像度のシミュレーションは、衛星では観測できない物理量も含めて、日常生活の意思決定に直結するような情報提供を可能にします。今回は災害後の事後解析ですが、本システムを定常的に運用することも計画しています。JAXA/EORCでは、シミュレーションの元となる衛星データの精度向上に取り組むとともに、東京大学と協力して高空間解像度の陸面モデルの開発・実用化を目指すことで、より有益な情報を迅速かつ正確に提供してまいります。
観測画像について
図1
観測衛星 | 全球降水観測計画主衛星(GPM core observatory) |
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観測センサ | 二周波降水レーダ(DPR) |
観測日時 | 2018年7月6日0:00~7月8日0:00(日本時間) |