利用研究
2016.12.19(月)
UNFCCC第22回締約国会合(COP22)におけるJAXAの活動③
宇宙国空研究開発機構(JAXA)は、11月14日、モロッコ・マラケシュで開催された第22回気候変動枠組条約締約国会議(UNFCCC-COP22)のサイドイベントとして、環境省及び国立環境研究所と共同で、ジャパンパビリオンにおいて「IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:国連気候変動に関する政府間パネル)インベントリガイドラインにおける人工衛星データ利用に向けた取り組み」を開催しました。
昨年開催されたCOP21において採択されたパリ協定では、各国が提出した温室効果ガス排出削減目標に向けて取り組むことや、排出量の報告を行うことが義務付けられました。この排出量の算出においては、IPCCにて作成されたGHG(Green House Gases:温室効果ガス)インベントリガイドラインを参照することになりますが、2019年に本ガイドラインの改訂が予定されています。本ガイドライン改訂に際し、環境省は国立環境研究所やJAXA等の関係機関と連携して、地球観測衛星データを用いたインベントリの検証に関する記載が追加されることを目指しております。本サイドイベントにおいては、当該目標を念頭に置き、衛星によるGHG観測データの有効性とその活用方法について報告及び議論等を行いました。
冒頭、JAXA木下課長よりJAXAの地球観測衛星の一覧が紹介され、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT:Greenhouse Gases Observing Satellite)のミッション内容や観測パターン、観測原理を紹介する動画が放映されました。その後、基調講演として環境省竹本室長より、GOSATの概要と主な成果の紹介があり、後継機の温室効果ガス観測技術衛星2号(GOSAT-2)においては、人為起源の温室効果ガス排出量の観測精度を高め、パリ協定の下で、各国の温室効果ガス排出インベントリの検証への活用を目指していくことが述べられました。
続くテーマ1では、IPCC/TFI(Task Force on National Greenhouse Gas Inventories:インベントリータスクフォース)田辺共同議長から、2006年のIPCCガイドラインにおいては衛星データのアクセスの困難さ等の課題が指摘されていたことが言及されました。一方、現在では解析技術やデータ提供法の向上、新しい衛星の打ち上げ(データ数増)などで状況が改善し、GHG観測・検証だけでなく土地利用把握についても、改訂版ガイダンスにおいて衛星データの利用が検討されていることが説明されました。GCOS(Global Climate Observing System:地球気候観測システム)のSimon氏は、GHG観測においては衛星データと地上観測データの統合や人為起源排出の明確化が必要だと指摘し、将来的に各国のインベントリの信頼性向上や未発見排出源の特定がなされるよう、国際的に検討していかなければならないと注意を促しました。更にテーマ2では、国立環境研究所の松永観測センター長から、近年続々と立ち上がっているGHG関連ミッションでデータギャップが低減しており、衛星データ利用技術も改良されていることが説明されるとともに、大気輸送モデルの精緻化やスパコン等のリソース確保、自然起源GHG観測などの必要性も唱えられました。質疑応答では、地上観測データとの検証・統合の必要性等について積極的に意見が交わされました。
テーマ3の宇宙機関登壇者によるプレゼンテーションにおいては、初めにJAXAの塩見主任研究開発員よりGOSATの概要及びGOSAT-2の機能・開発スケジュールの紹介等があり、米国航空宇宙局(NASA)のLesley氏からはOCO-2(Orbiting Carbon Observatory-2:炭素観測衛星2号)の最大の目的はGHGの収支計測であり、後継機であるOCO-3(国際宇宙ステーション(ISS)搭載予定)では、その他のISS搭載センサGEDI(Global Ecosystem Dynamics Investigation Lidar)やECOSTRESS(The ECOsystem Spaceborne Thermal Radiometer Experiment on Space Station)の生態系データと併せてGHGを総合的に観測するとの紹介がありました。フランス国立宇宙研究センター(CNES)のPascale氏からはIASIセンサ(Infrared Atmospheric Sounding Interferometer)、MicroCarb(CNES打ち上げ予定のGHG観測衛星)、MERLIN(CNESとドイツ航空宇宙センター(DLR)が共同で打ち上げ予定のGHG観測衛星)のミッション概要紹介の後にJAXAやNASA、英国宇宙庁(UKSA)との国際協力でこれらのミッションを進めていくとの発言がありました。その後の質疑応答では、多様なモデルやGHG以外の気候・植生データを組み合わせた信頼性の高いデータを提供していくことの重要性が確認されました。
■本イベントの登壇者
・竹本明生 環境省 地球環境局 総務課研 究調査室 室長
・田辺清人 IPCC/TFI共同議長
・Dr. Simon Eggleston 地球気候観測システム(GCOS)
・松永恒雄 国立環境研究所 衛星観測センター 観測センター長
・塩見慶 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 地球観測研究センター 主任研究開発員
・Dr. Lesley Ott 米国航空宇宙局(NASA) ゴダード宇宙飛行センター 全球モデリング・アシミレーション室
・Dr. Pascale ULTRE-GUERARD フランス国立宇宙研究センター(CNES) 地球観測プログラム 部長
■司会
・木下圭晃 JAXA 経営推進部 対外連携課 課長
発表資料
1. プログラム
2. Japan’s initiative to establish monitoring system on national GHG emissions with satellite
3. Current Status of IPCC Guidelines and Issues of GHG Inventory
4. Expectations for Satellite Observation Data to Contribute to GHG Inventory
5. How to Use Satellite GHG Concentration Data for Verification of GHG Emissions Inventories
6. GOSAT and GOSAT-2 missions for successive GHG monitoring
7. Two years of CO2 observations from NASA’s OCO-2 satellite
8. CNES MISSIONS ON GHG MEASUREMENTS MICROCARB(2020) MERLIN(2021) IASI-NG(2022)
メディア掲載
・11月17日付 読売新聞 夕刊10面 COP22 温室効果ガス 国別排出量測定 高精度衛星 日本アピール