気象・環境

2014.02.27(木)

越境する大気汚染物質の衛星観測

 2013年1月から2月初めにかけて、大陸からの大気汚染物質(注1)のPM2.5が飛来し、西日本を中心に各地で環境基準値(日平均値35μg/m3)を超える高濃度が観測されました。中国北京市内の霞んだ大気やマスクを着けて歩く市民の映像とともに日本のメディアで報じられ、呼吸器系、循環器系への高い健康リスクもあることから関心が高まりました。

ユーラシア大陸の東に位置する日本は、偏西風の風下にあることから、大陸の砂漠から発生した黄砂や化石燃料・バイオマス燃料の燃焼などの発生源からエアロゾル粒子(浮遊粒子状物質・微小粒子状物質)(注2)が風に乗って飛来しています。これらの観測や予報情報(注3)も公開され、野外活動や洗濯物の天日干しなどを控えるよう公衆衛生上の注意喚起に役立っています。

環境省では、2013年1月から2月初めの西日本を中心とした日本各地で環境基準値を超えたPM2.5の高濃度の観測データとシミュレーション結果を基に、この現象を解析して2月21日に記者発表(参照1)を行いました。また、環境省「微小粒子状物質(PM2.5)に関する専門家会合」報告書(参照2)にも以下のような見解が反映されました。

  1. 西日本等で環境基準値を超える濃度が観測されたが、全国的には2013年1月の濃度を過去2年と比べたところ、大きく上回るものでなかった。

  2. 濃度上昇は、大陸からの越境大気汚染の影響と考えられる。

  3. 東海、関東北部 都市域スケールの高濃度観測 大都市圏では越境汚染と都市汚染が複合した可能性がある。

 その後も中国では、2013年9月末から何度かPM2.5の濃度が深刻な汚染レベルに達しています。図1は大気汚染の状態を表す対流圏の二酸化窒素(NO2)気柱量分布をNASAの衛星搭載センサOMIが捉えた9月の平均値です(参照3)。北京市周辺の高濃度が見られます。

OMI衛星センサによる二酸化窒素の対流圏気柱量全球分布画像

図1 OMI衛星センサによる二酸化窒素の対流圏気柱量全球分布画像(単位:1015分子/cm2

 また、図2にMODISのエアロゾルの光学的厚さ(9月16日〜9月30日、10月1日〜15日の半月平均値)を示します。エアロゾルには、黄砂や化石燃料・バイオマス燃料の燃焼などにより発生する様々な浮遊粒子状物質・微小粒子状物質が混在しています。大気中のエアロゾル濃度を減らす要因としては、エアロゾルが大気中の水蒸気を集め水滴から雨となって地表面に落下、あるいは、重い粒子ほど重力により落下するため、大気中から除去されやすく飛距離も短くなるなどがあります。PM2.5の大気中を浮遊する寿命は、地上付近では数時間〜数日程度、上空では数日〜数か月程度と長く、半球スケールまで広がる可能性があることも特徴的です。

MODISにより観測されたエアロゾルの光学的厚さ全球分布画像(2013年9月16日〜30日)

MODISにより観測されたエアロゾルの光学的厚さ全球分布画像(2013年10月1日〜15日)

図2 MODISにより観測されたエアロゾルの光学的厚さ全球分布画像

上図:2013年9月16日〜30日

下図:2013年10月1日〜15日

 このため、PM2.5の低減策は、局地から都市周辺、大陸スケール、半球スケールに至る世界的な取り組みが必要となります。このことからも多国間の協力による地上観測ネットワーク運用、観測データの相互利用が重要となります。

また、衛星からのエアロゾル観測は、雲の無い画素の観測データを集めてある期間の平均値を求めるため全球を1機の衛星で観測すると統計的に意味のあるデータを取得するには数年かかります。観測頻度を上げ迅速に対応するためには国際協力による衛星間相互運用・データ利用の可能性を高めることが重要です。地上観測ネットワーク、衛星観測、シミュレーションの統合的利用には、JAXAが2009年から観測運用中の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)衛星、2016年度打上げ計画中の気候変動観測衛星(GCOM-C)、欧州宇宙機関(ESA)と共同開発中の雲エアロゾル放射ミッション(EarthCARE)、2017年度打上げを計画中の環境省、国立環境研究所と協力して計画中の温室効果ガス観測技術衛星2号(GOSAT-2)等の観測開始が日本からの国際貢献として期待されているところです。

 (注1)日本では1960年代の高度成長期に、四日市喘息などの公害を経験し改善してきた経緯がありますが、大気汚染物質には、大気中の光化学オキシダント(窒素酸化物・揮発性有機化合物が太陽光により光化学反応を引き起し生じる大部分はオゾンが占める気体の酸化物質)、黄砂(エアロゾルの一種でありながら別項目に分類)、エアロゾル粒子(浮遊粒子状物質・微小粒子状物質)があります。

 (注2)エアロゾル粒子は、大気中に浮かんでいる液体や固体の粒子です。組成は硫酸塩、硝酸塩、有機物、黒色炭素(すす)、鉱物(黄砂を含む)、海塩が代表的な物質とされています。直径は0.3μm前後と3μm前後の粒子が多く存在しています。PM2.5とは、大気中の浮遊粒子状物質(SPM:
Suspended Particulate
Matter)のうち直径が2.5μm以下の微小粒子の総称です。吸入した場合、直径2.5μm〜10μmの粒子の多くが鼻腔や喉粘膜で捕捉されるのに対し、直径2.5μm以下のPM2.5は、肺の深部まで到達する量が多く、健康に大きな影響を与えることが報告されています。日本でのPM2.5の本格的観測は2010年度に開始されました。それ以前のSPM測定値によれば、東京や川崎では1960年代後半に200〜400μg/m3でしたが、2011年度の都内区部におけるSPM年平均濃度は22μg/m3であり、これまでの半世紀の間に1/10程度に汚染レベルが改善されています。

 (注3)環境省は、PM2.5に関する情報のホームページ「環境省・微小粒子状物質(PM2.5)に関する情報」を開設しています。(大気汚染情報環境省大気汚染物質広域監視システム「そらまめ君」)


観測画像について

(図1)

観測衛星: 地球観測衛星オーラ EOS-Aura (NASA)
観測センサ: オゾンモニタリング機器(OMI: Ozone Monitoring Instrument)
観測日時: 2013年9月

(図2)

観測衛星: 地球観測衛星AquaおよびTerra (NASA)
観測センサ: 中分解能スペクトロメータ MODIS (NASA)
観測日時: 上図:2013年9月16日〜30日、下図:2013年10月1日〜15日

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