利用事例

2013.01.28(月)

気候変動と森林〜森林資源の枯渇・違法伐採の事例から〜

 2012年11月26日〜12月8日まで会期を1日延長して、地球温暖化対策を話し合う気候変動枠組条約第18回締約国会議(UNFCCC/COP18)が、カタールの首都ドーハで開催されました。今年で京都議定書の第1約束期間2008〜2012年が終了するのを受け、京都議定書の第2約束期間の設定および新たな枠組み(2020年以降の実施)構築に向けた作業計画、また、「緑の気候基金*1」を通じた先進国から途上国への技術・資金支援の枠組みなどの議論が行われました。

気候変化の人為的要因の一つとしては、土地利用変化の課題があります。森林における途上国の森林伐採および劣化からの排出量の削減(REDD: Reducing the Emission from the Deforestation and the forest Degradation)に加えて、森林保全や持続可能な管理の強化により、貯蔵される炭素の量(炭素ストック)の増加も目指す活動(REDD+)についても重要性が増しています。ここでも衛星観測のニーズが高まっています。森林は、地球上の陸域の約30%(39億ヘクタール)を占めています。森林のタイプは気温、降水量、地形、土壌などの気候、地形条件といった自然環境要因によって決まり、樹木を中心に、灌木、林床植生、動物、昆虫、菌類などから構成される森林生態系を構成しています。気候変動がおこると、森林に大きな影響を及ぼします。またその一方森林は陸域の炭素循環の重要な部分を占めるともいわれ、森林と気候は相互に影響しながら変動しています。

1972年にNASAが初号機を打ち上げたランドサット衛星計画は、2012年で40周年を迎え、この間の継続観測データはアーカイブデータとして利用可能となっています。ランドサットは、全球を隈なく観測することから、雲の少ない画像のモザイク処理により広域の森林被覆状態や面積を定量的にモニタリングすることが可能になりました(図1)。1980年代から20年の間に、東西に延びるハイウェイの両側に森林伐採が増えて行く様子が見られます。

ランドサット衛星がとらえたアマゾン森林伐採(1980年代) ランドサット衛星がとらえたアマゾン森林伐採(2000年代)

図1 ランドサット衛星がとらえたアマゾン森林伐採(上図:1980年代、下図:2000年代)

 一方日本では、1992年打上げの地球資源衛星1号(JERS-1)に、光学センサ(OPS)とLバンド合成開口レーダ(SAR)を搭載しました。Lバンドは、レーダ送信波の波長が23.6㎝で、雲や雨はもちろん、森林を構成する立木の枝葉も透過して、樹幹と地表面で反射して衛星に戻って来るので、そのレーダ受信波の反射強度が幹のレーダ波散乱断面積に依ることから森林バイオマス量を推定することが可能となりました。

1990年以降、アマゾンなどでは森林バイオマス量とレーダ波の散乱係数の関係の研究が進み、100〜200トン/haまでの感度を有することがわかってきました。利用者から望まれる森林の基本情報としては、「森林(自然林)かそれ以外(非森林)かの判別ができること」があり、またこの判別は、地球観測に関する政府間会合(GEO: Group on Earth Observation)の 森林炭素変化監視(FCT: Forest Carbon Tracking)プロジェクトから要求された課題の一つでもあります。PALSARは100トン/haを境として森林・非森林を判別することを可能とし、この課題は解決できました。今後は、森林バイオマス量の高い森林(200トン/ha以上)の定量化が課題となっています。

 PALSAR画像のレーダ後方散乱強度と幾何精度は非常に良好であり、全球モザイク画像の作成を可能にしました。JAXAでは全球を10 m、25 m、50m分解能のモザイク画像を1995、2007、2008、2009、2010年に渡って作成しました。更に、これらのデータを用いて、森林・非森林情報を作成し、精度評価を行っていますが、2009年の10m分解能画像を示します(図2)。

森林・非森林分類図(2009年)

図2 森林・非森林分類図(2009年)(参照1)

 設計寿命を越えて長寿だったJERS-1は、1992年2月〜1998年10月の6年8か月間運用され、アーカイブデータが利用可能です。さらにALOSが2006年1月〜2011年4月の5年3か月間運用され、光学センサ(AVNIR-2、PRISM)、合成開口レーダ(PALSAR)のアーカイブデータが利用可能です。

ランドサット、JERS-1のSAR等の利用により、アマゾンの森林伐採による森林減少が知られています。ブラジル国立宇宙研究所(INPE)は2004年より衛星光学センサを利用してアマゾン森林伐採を検出し、環境保護を担当するブラジル環境・再生可能天然資源院(IBAMA)に提供し、違法伐採の取り締まりに利用され、約5ヶ月続く雨季には雨雲が光学センサの視野を遮り、ほとんど新規伐採が検出できないという問題を抱えていました。

JAXAとブラジルのIBAMAの協定に基づき、定常的にJAXAのデータサーバーにアップロードされるALOSのPALSARデータを取り込み、日本はブラジルのIBAMAと連邦警察本部(DPF)の要請に基づいてJICAの技術協力プロジェクトを遂行し、アマゾンの違法伐採検出が森林保全に有効であることが実証されました*2(図3)。

特に、ALOSのPALSAR画像の幾何精度、レーダ反射強度の精度が高く、伐採の有無検出と場所の特定の精度が高く伐採地の特定が容易でした。今後の伐採検出にはALOS-2の打ち上げを待たなければなりませんが、ALOS-2/PALSAR-2の新機能である広観測幅2偏波観測モードは、森林伐採の特定には特に有効で大いに期待できます。

ブラジル・アマゾンンの熱帯雨林伐採の検出結果

図3 ブラジル・アマゾンンの熱帯雨林伐採の検出結果(参照2)

(赤点が判読された新規伐採地)

 森林の炭素吸収量を推定する方法として、地域・国別統計データやリモートセンシングによる推定、大気輸送および生態学的モデルによる方法があります。近年、衛星データの入手が容易になり、衛星データ解析による森林分布、地上バイオマス量、樹種分類などの定量化の技術が進みつつあります。またこの技術を森林資源の持続可能なサービス維持と温暖化緩和に資する、森林炭素貯留量、吸収能力の現存量を目録化する試みが進む一方、ブラジルの森林違法伐採取締・抑止の効果もあり、衛星データ利用がルーチン的な行政の情報取得・意思決定ツールに組み込まれており、社会インフラとして活用されている衛星データ利用の成功事例と言えましょう。

将来、UNFCCCのもとで各国の報告として、温室効果ガスの吸収・排出のデータが求められています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)では、そのために国別IPCC温室効果ガス・インベントリーのガイドラインを作成・更新しています。今後はこのような国際交渉に寄与できる、衛星データの利用に関する詳細な検討と改善提案などの明確化が必要であり、またニーズに適合した実行可能な計画策定が求められています。

このような政策上の課題、科学的な課題などから生じる衛星観測の重要性はもとより、衛星データによる地球温暖化対策への寄与についても、今後ますます期待されています。


<脚注>

*1 COP16(メキシコ・カンクン)において2013年以降の新しい枠組みとして、2020年までに途上国に対し1000億ドルの支援を実施するということが決定された。この資金を管理するために「緑の気候基金(Green Climate Fund)」が設立された。

*2 2012年11月28日、ブラジル国立宇宙研究所(INPE)の発表によると、2011年8月〜2012年7月のアマゾン地方の森林消失面積の暫定値が前年比27%減の4,656km2(ほぼ京都府の面積)で、1988年の調査開始以来最小で、4年連続で最小記録を更新した。調査対象地域は、図3に示すブラジル北部9州の森林で、世界最大のアマゾン熱帯雨林全体の約6割にあたり、今回発表の消失面積は、過去最大の1994~95年の約16%に止まった。森林消失の主な原因は伐採であり、近年ブラジル政府は違法伐採の取締を強化し、衛星観測データなどの解析が進んでいる。

参照

(参照1) 島田政信,ALOS/PALSARによる全球森林マッピング,第38回リモートセンシングシンポジウム講演論文集,計測自動制御学会,pp.23-24,2012年11月2日,東京.
(参照2) 小野誠,ALOS/PALSARによるアマゾン違法伐採防止プロジェクト,第38回リモートセンシングシンポジウム講演論文集,計測自動制御学会,pp.25-26,2012年11月2日,東京.

観測画像について

観測衛星: ランドサット5号 (米国)
観測センサ: セマティック・マッパー (TM)
観測日時: 1986年8月30日、1987年6月23日、1986年7月15日、1987年7月27日、1984年7月27日(世界標準時)(図1上段左から)

2009年7月28日、2010年7月24日、2007年6月23日、2010年7月27日、2009年8月17日(世界標準時)(図1下段左から)

地上分解能: 30 m
地図投影法: UTM(ユニバーサル横メルカトール)

図1は、米国地質調査所の画像検索サイト USGS Global Visualization Viewerから無料でダウンロードしたデータを用いました。

観測衛星: 陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)
観測センサ: フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(PALSAR) (図2、3)
観測日時: 2009年モザイク処理(図2)

2009年9月〜2010年7月(図3)

地上分解能: 10 m
地図投影法: UTM(ユニバーサル横メルカトール)

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