気象・環境
2012.04.25(水)
南極海の氷
図1は、改良型高性能マイクロ波放射計AMSR-E*1が観測した2003年から2010年の南極海の氷の変動です。マイクロ波は雲を透過するので、天候に左右されずに海氷を観測できます。図1に表示されている色は海氷の密接度*2を表し、氷が密接しているほど赤く示しています。図から、南極海では南半球の秋にあたる3月頃に海氷面積が最小に、春にあたる9月頃に最大になることがわかります。
この10年ほどの海氷の変動を比べると、大きな違いは見られません。北極海の海氷の変動が大きく、地球温暖化の影響からか、減少傾向が続いているのとは対照的です。本ホームページ、2006年7月16日の「地球が見える」で、2006年の海氷変動を掲載していますが、年により海氷が外側に張り出す位置・形が変わっているものの、南極海の海氷面積は、その後も大きな変動は示していません。
南北両極域の海氷の挙動が大きく異なる原因はまだはっきりしていません。気候が温暖化すると、海に浮かぶ氷自体は融けやすくなりますが、一方で降水(雪)量が増加して海氷を厚くするといわれています。しかし温室効果ガスの増大により南極沖の海洋温度の上昇が続くと、南極でも雪ではなく雨の降る量が増え、雪や氷が急速に溶け出すようになるとも考えられています。
*1)JAXAが開発し、NASAの地球観測衛星Aquaに搭載した世界最高性能のマイクロ波放射計。地球から放射される1 mm〜1mの電波(マイクロ波)を観測します。2002年の打上げ以来、継続して全世界のデータを取得し、海面水温、降雨、土壌水分、北極海の海氷などの観測をしてきましたが、2011年10月4日、定常観測に必要なアンテナの回転速度(毎分40回転)を維持する限界に達したため、観測および回転を自動で停止しました。
*2)衛星の視野内に含まれる海氷の面積の割合(%)。
図2は、陸域観測技術衛星ALOS(だいち)*3に搭載されているフェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(PALSAR)が、2010年9月15日から10月30日までの間に観測した、分解能500メートルのブラウズ画像を集めたモザイク画像です。黒い領域は観測データがない領域です。本ホームページのIPYデータセットのホームページに掲載されています。
合成開口レーダは天候・昼夜の別に関係なく氷を含む地表の状態を観測できます。図1から南極海周辺の海氷は、季節の変化に伴い拡大・縮小していますが、そのとき氷が割れて沖合に流れてゆくことがあります。長期にわたりレーダ画像を比較することで、その様な氷の変化を把握できます。図3はその一例で、半島の付け根、パインアイランド氷河の海岸部で氷が流れ出す様子が確認できます。
*3)2011年5月12日(午前10時50分)、「だいち」の運用は終了しました。2006年1月24日に打ち上げられ、設計寿命3年、目標寿命5年を超えて運用され、地球観測に多くの成果をあげました。5年間で、全世界の650万シーンを観測し、災害緊急観測活動にも貢献しました。3月の東日本大震災でも400シーンの撮像を行い、10の府省と機関へ情報提供を行いました。今後も過去に取得した画像を用い、REDD+などに貢献する予定です。
流れ出す氷山
南極は急速に温暖化が進む地域の1つに数えられています。南極では冬季に定着氷と呼ばれる氷が海面にでき、氷山をつなぎ止めていました。冬季の海氷面積に大きな変動はないものの、この定着氷が温暖化により減少しています。その結果氷山を支えきれなくなり、南極半島の沿岸に浮かぶ多くの氷山が漂流するようになりました。
大きさによっては超高層ビルほどもある氷山が流れ出すと、一部は風や海流によって運ばれ、どこかの浅瀬で座礁します。海底の生物に衝突したり、海底に暮らす生物を死滅させるケースが増えることが危惧されます。
観測画像について
観測衛星: | 地球観測衛星Aqua (NASA) |
観測センサ: | 改良型高性能マイクロ波放射計 AMSR-E (JAXA) |
観測日時: | 2003年1月〜2010年12月 |
観測衛星: | 陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS) |
観測センサ: | フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(PALSAR) |
観測日時: |
2010年9月15日〜10月30日(図2) 2007年8月、2008年1月、2008年6月(図3) |