利用研究

2026.03.09(月)

世界の陸上の水循環変動を高解像度に予測!
-Today’s Earth – Globalがリニューアル-

衛星データを活用し、世界中の陸域水循環に関する変数(土壌の水分量、蒸発散量、河川流量など)を推定する「Today’s Earth」システムが2026年3月にリニューアルしました。「Today’s Earth」は、長年にわたるJAXAと東京大学の共同研究にて開発・運用されてきた陸域の水循環シミュレーションシステムです。今回のリニューアルにより、世界全体の陸域の水循環情報について、約10km格子の解像度で、約5日先までの予測情報を、誰でもウェブページ上でモニタリングすることが可能となりました。本記事では、その概要について紹介します。

図1 リニューアルしたToday’s Earth – Globalのウェブサイト(河川流量の表示)

衛星データを活かし、世界の水循環変動を予測。
~新旧システム比較~

近年、気候変動に伴う水関連災害の激甚化・頻発化は、私たちの日常生活の中でも実感されるようになってきています。JAXAでは、全球降水観測(GPM)計画主衛星水循環変動観測衛星しずく(GCOM-W)などの地球観測ミッションを通して、宇宙から降水や水蒸気量、土壌水分量などといった水循環の主要な構成要素を詳細に観測し、データ提供を行っています。また、これらを含む複数の衛星観測データによって作成される全球衛星降水マップ(GSMaP)では、全球でリアルタイムな降水量モニタも可能となっています。
しかし、これらの情報は大きな水循環過程(地表からの蒸発散、雲・降水、地表での貯留・流出)の一部であり、衛星観測だけでその全体像を把握することはできません。水関連災害や水資源管理に資する情報を提供するには、水循環の一部だけではなく、複雑に絡み合う全体像を理解することが必要不可欠です。例えば、洪水を精度よく推定・予測するには、洪水をもたらす降水の状況だけでなく、それがどの程度蒸発散によって大気に戻るのか、また地表面の状態を踏まえてどこにどのように流れていくのか(流出・流下)などを同時に考えることが重要です。
Today’s Earth(TE)は、こうした背景から開発された陸域の水循環シミュレーションシステムであり、GSMaP等の衛星データを活用しながら、陸上での水・熱収支を物理に基づき計算することで、水循環の様々な構成要素を、時空間的に途切れることなくモニタリングすることが可能です。現在、大きく分けて全球版(TE-Global)と日本域版(TE-Japan)の2系統が運用されています。TE-Japanでは約1km格子で30時間以上先までの予測を実現(※1)しており、その民間・自治体等での利用も広がりつつある一方で、これまでのTE-Globalは、解像度が約25~50kmと粗く、データ配信はリアルタイムから3日程度の遅れがあるなど、あくまで研究的利用に留まっていました。
そこで今回、JAXAでは、東京大学で開発されている統合陸域シミュレータ(Integrated Land Simulator:ILS)を用いてToday’s Earthシステムを新たに構築し、全球約10km格子での陸域水循環シミュレーションを実現しました。また、入力に用いる大気の情報として、気象庁の全球数値予報モデルGPV(GSM-GPV)の予報値をGSMaPと合わせて活用することで、約5日先までの予測も可能となりました(表1)。シミュレーション結果は、今回公開したウェブページから閲覧可能であり、世界中の水に関する情報を、どなたでもリアルタイムに閲覧することができます(※1)。

旧TE-Global 新TE-Global
空間解像度
(緯度経度)
陸:0.5度(約50km)
河川:0.25度(約25km)
0.1度(約10km)
時間解像度 3時間 6時間
更新頻度 3時間 6時間
予測時間 無し(約3日遅れ) 約5日先まで(運用状況による)
表1 新旧システムの比較

参考までに、新旧TE-Globalそれぞれの解像度で表現される河川の比較イメージを図2に示しています。旧システムでは解像度の粗さゆえに埋もれてしまっていた小さな河川や支流も、新システムではより現実に近く表現できるようになっていることがわかります。河川については、これまでの約25km格子から約10km格子へのアップデートにより、モデルが理想的に解像できる河川の数は約230程度から約1230まで増え、5倍以上となりました。

図2 新旧システムによる河川の表現のイメージ図(Today’s Earthを構成するCaMa-Floodモデル(河川モデル)データを利用して作成)。1行目がインドシナ半島周辺、2行目がインド・スリランカ周辺の比較、左/右がそれぞれ旧/新システムの解像度。

新システムによる洪水推定の事例検証:2025年11月スリランカ洪水

TEで推定できる水循環の変動の内、最もわかりやすい極端な現象の一つが洪水です。スリランカでは、2025年11月28日にサイクロン(熱帯低気圧)「ディトワ」が東海岸をかすめた影響で、壊滅的な洪水と土砂崩れが発生し、非常事態宣言が出される事態となりました。この事例について、新TE-Globalでシミュレーションを行った結果を図3、4に示します。
図3は、スリランカ国内に設置された各所の河川水位計による観測水位(黒線)と、その地点において新TE-Globalが推定した河川水位の推定結果(青線)の比較を示しています。ほぼすべての地点において、11月28日付近で急激な水位の上昇が観測されていますが、新TE-Globalによる推定でもその様子が捉えられていることがよくわかります。また図4には、サイクロン接近付近の期間で新TE-Globalが推定した浸水深の時系列変化(左)と、その期間最大値(右)を示しています。衛星観測による浸水域の推定結果(図5)と比較すると、実際に広い領域が浸水した北東部~南西部にかけて、新TE-Globalによる推定でも非常に大きな値となっていることがわかります。
現状、このような新TE-Globalによる推定・予測結果はウェブページ上でのモニタリングのみが可能となっていますが、今後、過去期間にさかのぼって長期間での水循環データセット整備を進める予定であり、このような事例毎の検証に加え、長期間での統計的な検証を行った上でデータ公開を予定しています。

図3 スリランカ国内の各河川観測所(左上)で観測された河川水位(黒線)と、その前後期間含めた新TE-Globalによる河川水位の推定結果(水色線:オリジナルの推定結果、青線:バイアス補正後。観測所とモデルの基準点の違いにより、河川水位にはバイアスが伴うため、観測の平均値とオリジナルの平均値の差をオフセットとしてバイアス補正を行っている)。観測データは、Irrigation Department Sri Lankaより取得。
図4 2025年11月25日~12月5日にかけて新TE-Globalで推定した浸水深の時間変化(左)と、その期間最大値(右)。本図の解像度は緯度経度1/60度(約1㎞)であり、新TE-Globalの0.1度格子からさらに地形情報等を用いてダウンスケーリングしたもの(本記事公開時点ではウェブ上では未公開)。
図5 光学・SAR等の複数の衛星観測によって推定された浸水域。Sentinel Asia Portalより画像取得。
https://storymaps.arcgis.com/collections/8acb5761eefd4816bbb99f1e7146e6a2?item=1

世界の水災害・水資源管理への貢献に向けて

JAXAでは、2025年4月から2032年3月までの7年間を対象とした新たな研究開発と業務運営の方向性を示す計画である「JAXA第5期中長期計画」において、衛星地球観測の4つの重点テーマを掲げています。その内の一つは「水災害・水資源管理」であり、Today’s Earthをはじめとする衛星観測関連技術の開発を加速させることで、同分野で課題を抱える世界の国・地域への貢献を目指します(文科省宇宙開発利用部会(第97回)配布資料参照)。Today’s Earthでは、より一層衛星データの利活用を進め精度向上を図るとともに、究極的にはグローバルからローカルをつなぐ全球高解像度システムの実現を目指し、関係機関と協力をしながら研究開発を進めて参ります。


※1:2026年2月現在、気象業務法によりTE-Japan予測データは共同研究先にのみ提供中(一般公開ウェブページでは現在時刻までの情報が閲覧可能)。洪水の予報業務許可申請中。また、TE-Globalでは日本域の河川関連の予測値は提供していない(マスクして表示)。

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