気象・環境

2023.03.30(木)

海洋資源管理に不可欠な気候変動影響の把握
~海の色の変化を監視する「しきさい」~

海洋生物資源の持続可能な利用のためには、海水温や日射や海流など、海洋環境における気候変動の影響を把握することが必要不可欠です。

海水温や海流の変化は植物プランクトンや動物プランクトンと呼ばれる微細な生物に影響し、食物連鎖を通じて漁業にも影響を与えます [1]

例えば、北西太平洋の親潮の南端の海域(図1)は、世界で最も生産性の高い海域の一つと考えられています。春(4~5月)には、前の冬が寒い年には遅く、暖かい年には早く植物プランクトンブルームが訪れます。植物プランクトンのブルームの時期とそれを捕食する動物プランクトンの成長時期との関係は、海洋資源としても利用されるその動物プランクトンを餌とする生物に影響を与える可能性があります [2][3]

図1. 気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)による
北海道沖の親潮の南端周辺海域の海の色のRGB画像

海の色を観測する衛星センサは、植物プランクトンの量、基礎生産力(二酸化炭素(CO2)吸収能力)の空間分布と時間変化、水温等の生育環境に関わる要因を推定するのに役立ちます。気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)は、海洋生物資源の持続可能な利用を目的として、生態系の科学的知見に基づく管理を適切に行うための重要な情報を提供しています。

図2では、「しきさい」から推定した海洋純基礎生産力(NPP)が地球規模でどのように変化しているかを見ることが出来ます [4] 。マップ上の比較機能を使うことで、異なる日付のNPPを比較してみることも出来ます。

図2 「しきさい」から推定した海洋純基礎生産力(NPP)

図3は北海道沖のクロロフィルa濃度を示した図です。この海域は親潮の南端に位置し、世界で最も生産性の高い海域の一つとなっています。
また、図4は親潮海域周辺の海洋純基礎生産力(NPP)の分布図と、赤枠内の海域におけるNPPの4年間の時系列推移を示しています。

図3. 「しきさい」による北海道沖のクロロフィルa濃度
図4. 親潮海域周辺のNPP(左図)と4年間の時系列推移(右図)
NPPは、Kameda and Ishizaka (2005)[4]のアルゴリズムでSGLIデータを使用して算出

このような海洋環境を定常的に観測し、その変化を捉えていくことが、「しきさい」の目的の一つである気候変動に伴う海洋環境変化の監視に非常に重要です。

本記事は、「Earth Observing Dashboard」の以下のストーリーを元に作成しています。
https://eodashboard.org/story?id=ocean-colour

参考文献
[1] IOCCG (2009).  Remote Sensing in Fisheries and Aquaculture. Forget, M.-H., Stuart, V. and Platt, T. (eds.), Reports of the International Ocean-Colour Coordinating Group, No. 8, IOCCG, Dartmouth, Canada., https://ioccg.org/wp-content/uploads/2015/10/ioccg-report-08.pdf
 [2] Chiba et al., 2009,  Geographical shift of zooplankton communities and decadal dynamics of the Kuroshio–Oyashio currents in the western North Pacific, https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2486.2009.01890.x
[3] Siswanto et al., 2016,  Meridional and seasonal footprints of the Pacific Decadal Oscillation on phytoplankton biomass in the northwestern Pacific Ocean,, J Oceanogr (2016) 72:465–477 https://doi.org/10.1007/s10872-016-0367-z
[4] NPP Product https://www.eodashboard.org/?poi=World-N11&indicator=N11

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