気象・環境
2017.09.15(金)
北極海の9月の海氷面積:観測史上初めて5年を超えて最小記録を更新せず
北極海の海氷域が2017年9月9日に年間最小面積(447.2万平方キロメートル)を記録しました。年間最小面積としては観測史上6番目の小ささです。今年史上最小記録を更新しなかったことにより、観測史上初めて5年を超えて最小記録を更新しない状態となったことが明らかになりました。
国立極地研究所(所長:白石和行)は北極域研究推進プロジェクト(ArCS、注1)の一環として、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA、理事長:奥村直樹)の水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)の観測データをもとに、南極・北極の海氷面積の時間的・空間的な変化を可視化し、北極域データアーカイブシステム(ADS、注2)のウェブサイトで公開しています。
北極海の海氷域は毎年9月中旬前後にその年の最小面積を記録しますが、「しずく」(GCOM-W)の観測データによると、今年は9月9日に年間最小面積(447.2万平方キロメートル)を記録しました(図1)。これは観測史上6番目の小ささです。
図1 JAXAの水循環変動観測衛星「しずく」の観測データによる2017年9月9日の北極海氷の画像。
海氷面積の推移としては、2016年10月中旬以降は毎月、月別の最小面積を更新し続けていました。2017年に入り、通常一年でもっとも海氷面積が最も大きくなる2~3月には観測史上最小を更新していました(図2)。
図2 2000年から2017年の北極海における海氷域面積の変動。2016年を青色、2017年を赤色のグラフで示す。「しずく」に搭載されたAMSR2の数値データはADSのウェブサイトでダウンロードが可能。
衛星観測が本格的に始まった1979年以降の39年間の記録と比較すると、海氷面積は依然小さい状態が続いていると言えますが、注目すべき点は、これまで年間最小面積は2005年、2007年、2012年などと5年以内に当時における史上最小を記録し続けていたにもかかわらず、2017年に史上最小とならなかったことで、観測史上初めて5年を超えて最小記録を更新しない状態となったということです(図3)。
図3 過去39年間の北極海の海氷面積の時間変化とそのフィッティングトレンド。青丸は各年の年間最小面積記録日を示す(2017年は赤丸)。
赤線は2012年までの観測データを使った場合のフィッティングトレンドを元に、2017年までの海氷面積の推移を予測したものを示す。
橙線は2017年までの観測データを使った場合のフィッティングトレンドを示す。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の温室効果ガス排出シナリオに基づく世界各国の気候モデルによる将来予測では、地球温暖化に伴い夏の北極海の海氷面積が2050年にも消失すると報告されていますが、現在ある衛星観測データのみでは過去40年程度の変化しか追うことができません。北極の気候システムに強く影響を与える海洋変動は数十年周期で変動しているため、これまでの海氷面積の減少にどの程度の影響を与えてきたのか、そして今後どのように変動していくのかについては未解明な部分があります。衛星観測データの継続的な蓄積と、大気・海洋の総合的な研究により、今後さらにその変動メカニズムを解明していくことが望まれます。
注1 北極域研究推進プロジェクト(ArCS: Arctic Challenge for Sustainability):
国立極地研究所、海洋研究開発機構及び北海道大学の3機関が中心となり実施している文部科学省の補助事業。実施期間は2015年9月から2020年3月まで。
https://www.nipr.ac.jp/arcs/
注2 北極域データアーカイブシステム(ADS):
GRENE北極気候変動研究事業(2011年~2016年)やArCSにおいて、南極・北極で取得された観測データやモデルシミュレーション等のプロダクトを保全・管理するためのデータアーカイブシステム。https://ads.nipr.ac.jp/
観測画像について
図1
観測衛星 | 第一期水循環変動観測衛星しずく (JAXA) |
---|---|
観測センサ | 高性能マイクロ波放射計 AMSR2 (JAXA) |
観測日時 | 2017年9月9日 |
(海氷部分)AMSR2の6つの周波数帯のうち、36.5 GHz帯の水平・垂直両偏波と18.7GHz帯の水平・垂直両偏波のデータを元に、アルゴリズム開発共同研究者(PI)であるNASAゴダード宇宙飛行センターの Josefino C. Comiso博士のアルゴリズムを用いて算出された海氷密接度を表しています。データの空間分解能は25 kmです。