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2013.05.15(水)
ウミガメ産卵の環境〜日本の海岸の事例から〜
ウミガメと言えば、日本人にとってまず思い出すのは浦島太郎の話でしょうか。ウミガメは体が大きな生物ですが、人間に危害を加えることはまずありません。沖縄にはウミガメに助けられた人の話が多く残っているともいわれています。
ウミガメは産卵の時を除き海洋で生活しており、生息する地域は熱帯、亜熱帯が中心ですが、一部は温帯にも見られます。四方を海に囲まれた日本列島は、主に黒潮が流れる北太平洋側の南方の位置にある砂浜でウミガメの産卵がみられます。本州周辺で見かけられるウミガメは主にアカウミガメで、北太平洋地域では日本が唯一の繁殖地となっており、石川県、福島県以南の海岸で産卵します。またアカウミガメ以外ではアオウミガメが屋久島以南と小笠原諸島、タイマイは八重山群島で産卵します。その他、ヒメウミガメ、オサガメなどが日本近海で見ることができます(参照1)。
産卵時期は地域により多少の違いはありますが、日本の各地では、5月から8月頃にかけて多くの産卵が見られます。砂浜に穴を掘り、その中に100個前後の卵を産みます。産卵は1シーズン中に複数回行われます。砂の中に産卵された卵は45日から75日ほどでふ化し、ふ化した稚ガメは夜に地表に出て海に向かいます。日本でふ化したウミガメは、黒潮に乗って約1年かけてアメリカの西海岸へ辿り着くといわれています。そして、日本に向かう海流に乗って東シナ海に戻り、20年〜30年かけて成熟するとまた日本に戻って産卵すると考えられています。(参照2、3)
アカウミガメの産卵地としては、鹿児島県の屋久島、吹上浜、宮崎県、高知県、和歌山県、三重県志摩半島など多くの海岸が知られています。
図1は多くのウミガメが産卵することで有名な、鹿児島県熊毛郡屋久島町永田の前浜といなか浜をだいちが観測した画像です。
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図1 ALOS(だいち)が観測した屋久島のいなか浜と前浜
(Google Earthで見るいなか浜と前浜 (kmz形式、5.33MB低解像度版)
図2は、和歌山県みなべ町の千里浜をだいちが観測した画像です。これらの画像は、だいちに搭載された光学センサであるPRISM(2.5 m分解能の白黒画像)とAVNIR2(10m分解能のカラー画像)が観測した画像を処理して2.5 m分解能のカラー画像としたものです。
弓なりに伸びた白い砂浜と、これを囲むように緑の濃い山林が迫っている様子は、市街地や道路から離れて人間社会から一線を画しており、産卵に適した環境である様子が読み取れます。
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図2 ALOS(だいち)が観測した和歌山県みなべ町千里浜
(Google Earthで見る千里浜 (kmz形式、4.29MB低解像度版)
アカウミガメをはじめとする日本近海に生息するウミガメ類はワシントン条約で付属書Ⅰに掲載されている絶滅危惧種です(参照4)。ウミガメの減少は護岸工事などで産卵ができる砂浜が減少するとともに、消波ブロックや堤防などによる、ウミガメの上陸・産卵行動の阻害が主な原因とされています。世界的な野生生物種の絶滅や急速な減少を防ぐために、付属書Ⅰの掲載種は、学術研究や動物園などでの繁殖目的以外では国際的商取引が厳しく禁止されています(参照5)。
ウミガメの保護活動が多くの場所で行われています。保護活動には、ウミガメの産卵環境の保全、ふ化の支援、混獲個体の保護などがあります。
また、通常、日本で生まれたウミガメの子は、黒潮に乗って太平洋を回遊して成長するのですが、対馬海流に乗って日本海側に流されることもあり、今年の冬は日本海沿岸に漂着するウミガメの子が多かったといいます。NPO法人日本ウミガメ協議会によれば、海水温が例年より低いわけではなく、漂着する子ガメが増えた原因には不明な点が多いものの、1980年代から始まった地道な保護活動により個体数そのものが増えたのではないかと、活動が実を結んできたのかも知れないと期待しています(参照6)。
ウミガメの死体を解剖すると体内からビニール袋やプラスティック類が大量に見つかることがあるそうです。これは人間がゴミとして捨てたビニール袋を餌と間違えて食べてしまうためです。このように私たちの生活が便利になる一方で、海岸の利用方法やゴミの海洋投棄といった環境への負荷は、海に生息する生き物たちへも影響がおよび始めていることが懸念されています。地道なウミガメの保護活動は、種の絶滅のみならず海と陸とをつなぐ浜辺の開発と環境の両立を図ることにも貢献しているといえます。
参照サイト
(参照1) | NPO法人日本ウミガメ協会 |
(参照2) | NPO法人屋久島うみがめ館 |
(参照3) | 浅海域生態系調査(ウミガメ調査)報告書,環境省 |
(参照4) | ワシントン条約、外務省 |
(参照5) | ワシントン条約、貿易管理、経済産業省 |
(参照6) | 読売新聞、朝刊37面、平成25年3月20日 |
観測画像について
観測衛星: | 陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS) |
観測センサ: |
高性能可視近赤外放射計2 型(AVNIR-2) パンクロマチック立体視センサ(PRISM) |
観測日時: |
2007年5月11日11時08分頃(日本標準時)(AVNIR-2、PRISM同時観測)(図1) 2010年10月6日10時48分頃(日本標準時)(AVNIR-2、PRISM同時観測)(図2) |
(図1、2)
PRISMは地表を520〜770ナノメートル(10億分の1メートル)の可視域から近赤外域の1バンドで観測する光学センサです。得られる画像は白黒画像です。前方、直下、後方の観測を同時に行いますが、ここでは直下視の画像を使っています。
AVNIR-2の、バンド1 (420〜500ナノメートル)、バンド2 (520〜600ナノメートル)とバンド3(610〜690ナノメートル)を青、緑、赤色に割り当てカラー合成したAVNIR-2画像を「色相(Hue)」、「彩度(Saturation)」、「明度(Intensity)」に変換(HSI変換)し、明度をPRISM画像で置き換えて再合成することで見かけ上、地上分解能2.5mのカラー画像を作成することができます。図はこのように高分解能の白黒画像と低分解能のカラー画像を組み合わせて合成された高分解能のカラー画像、つまりパンシャープン画像です。