気象・環境
2012.01.11(水)
異常気象に見舞われたオーストラリア
図1は、改良型高性能マイクロ波放射計AMSR-E*1が観測したオーストラリアの土壌水分乾湿分布です。2002年、2005年、2006年、2010年の10月の土壌水分量*2を平年の値(2002年〜2010年の平均値)と比べたもので、黄色から赤で表示された地域は平年よりも乾燥していることを示しています。
2002年から2003年にかけて、オーストラリアは全域で深刻な干ばつに見舞われました。また2006年からの長期にわたる干ばつは史上最悪といわれています。図1で、2005年と2010年の画像では南東部が潤っている様子がわかりますが、2002年と2006年の画像ではかなり乾燥していることが見て取れます。
オーストラリアの国土の面積は約770万km2で、日本の国土の面積(約38万km2)の約20倍に当たります。そのうちの半分以上は農用地ですが、耕作地は約24万km2で、農用地の6%、国土の3%にすぎません。農用地の90%以上は肉牛や羊の放牧に利用されています。また、南西部の西オーストラリア州や南東部のニューサウスウェールズ州では農作物の作付が多く、北東部のクィーンズランド州は放牧地が多く広がっています。
*1)JAXAが開発し、NASAの地球観測衛星Aquaに搭載した世界最高性能のマイクロ波放射計。2002年の打上げ以来、継続して全世界のデータを取得し、海面水温、降雨、土壌水分、北極海の海氷などの観測に用いられています。2011年10月4日、定常観測に必要なアンテナの回転速度(毎分40回転)を維持する限界に達したため、観測および回転を自動で停止しました。
*2)単位体積の土壌中に含まれる水分の体積を百分率(%)で表したもの。土が水分を吸収していき、それ以上吸収できない状態(飽和状態)での土壌水分は約50%です。
図2は、平年と比較した10月の土壌乾湿分布を2002年から2010年まで連続して表示したものです。衛星画像では、干ばつに見舞われた2002年と、2006年から数年間の土壌水分量の低下がとらえられています。オーストラリアの最も重要な作物は小麦で、耕作地の約半分を占めています。その主要作付地は南西部と南東部に分布し、画像で著しく土壌水分量が低下した地域と一致しています。
図3 オーストラリアの植生指数(2002年、2005年、2006年、2010年の10月)
緑色であるほど植物の活力が高いことを示しています。
図3、4は、米国地球観測衛星TERRA(テラ)に搭載されたMODIS(モーディス)が観測したオーストラリアの植生指数*3です。2002年と2006年は植生活動の高さを示す緑色の地域が少なく、2005年と2010年では多いことが分かります。植生指数も土壌水分量や干ばつと関連して変化しています。
*3)植生指数は植生の健康状態などを示す値で、この値が大きいほど植生活動が高い状態を表します。
オーストラリアの干ばつは、10年に一度の頻度といわれていました。しかし、2000年以降はすでに3回の干ばつ(2002、2006、2007年)に襲われています。特に2006年の干ばつはこの100年で最悪の規模といわれています。一方で、広い国土に様々な気候が混在しているため、干ばつが頻発しているにもかかわらず一部の地域は洪水に見舞われるなどしています。
近年の異常気象で世界的な穀物需要が増加する中、オーストラリアの干ばつによる収穫量の減少は世界的な食料危機に拍車をかける状況になっています。2002年や2006年の収穫量は例年の半分程度だったそうです。オーストラリア政府は気候変動への対応と生産性の向上を重要な農業政策の課題として位置づけました。
観測画像について
観測衛星: | 地球観測衛星Aqua (NASA) |
観測センサ: | 改良型高性能マイクロ波放射計 AMSR-E (JAXA) |
観測日時: | 2002年10月〜2010年10月(図1、2) |
観測衛星: | 地球観測衛星Terra (NASA) |
観測センサ: | 中分解能スペクトロメータ MODIS (NASA) |
観測日時: | 2002年10月〜2010年10月(図3、4) |