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2010.01.27(水)

トンネルの先の雪景色

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図1 群馬・新潟県境付近

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」文豪・川端康成が残した、あまりにも有名な小説のくだりです。国境の長いトンネルの舞台になった上越国境(群馬県と新潟県の県境)付近は、冬のこの時期、晴天が続く太平洋側と豪雪地帯の日本海側を分ける「気候環境の境界」として、現代の衛星画像にもその特徴的な姿を現します。トンネルの周辺で積雪の様子はどの程度違いがあるのか、衛星画像で見てみましょう。

国境の長いトンネル

図1は、「だいち」がとらえた群馬・新潟県境付近の衛星画像で、撮影されたのは2009年2月22日です。本州の太平洋側と日本海側を隔てるこの付近は、三国山脈とよばれる標高2000メートル前後の山々が連なる山岳地帯です。また、首都圏と新潟県を結ぶ主要な交通路が集中し、上越新幹線や関越自動車道、JR上越線、国道17号線といった幹線が山脈を越える交通の難所でもあります。

各交通路とも山脈を越えるところではトンネルになっています。次に示す図2は上越国境の各トンネル付近を拡大したものです。

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図2 「国境のトンネル」付近の拡大図

(Google Earthで見る国境のトンネル付近(kmz形式、1.83MB、低解像度版))

上越新幹線の大清水トンネル(全長約22.2 km)、関越自動車道の関越トンネル(全長約11km)、JR上越線の新清水トンネル(全長約13.5km)は、全長10kmを超える長大なトンネルです。小説「雪国」に登場する国境の長いトンネルとされているのは、清水トンネル(全長約9.7km)ですが、新清水トンネルとともにJR上越線のトンネルとして現在でも現役で使用されています。清水トンネルは、開通した1931年当時では日本最長の、文字通り長いトンネルでした。これらのトンネルは、険しい岩壁で知られる谷川岳の地下付近に位置しています。

国道17号線は、谷川岳から南西に約10km離れた三国峠付近を越える経路をとっています。古くより三国街道として人々が行き交った歴史あるルートで、沿道には数多くの温泉地が知られています。国道17号線も三国峠付近はトンネルになっています。

小説「雪国」が世に出されて80余年が経った現在、往時の国境とは名をしのばせるばかりとなったものの、現代でも長いトンネルは重要な役割を担い続けています。そして、トンネルを境に、驚くほど変化に富んだ日本の自然環境を私たちは知ることができます。

衛星画像に見る「気候環境」の境界

トンネルを境とした積雪の様子はどうでしょうか。図1からは、積雪がある地域とない地域が、明瞭に分かれていることがわかります。距離的には20km程度しか離れていない湯沢と沼田の市街では、積雪の様子がまったく違っています。積雪の様子が大きく変化しているところに、上で紹介したトンネルが位置していることもわかります。

図2の拡大図を詳しく見てみると、清水トンネルの北側の土樽駅や湯沢付近では、一面が積雪に覆われていることがわかります。南側の水上付近では、積雪に覆われた場所が部分的に確認できます。このように、トンネルの南側ではまったく積雪がないかというと、そういうわけではないようです。しかし、トンネルの北側との大きな違いは、南側では森林などの植生を示す緑色と積雪を示す白色が混在していることです。このことからは積雪そのものの量に違いがあることが推定できます。水上のさらに南側の沼田付近まで来ると、積雪はほとんど見られません。

このように、広域を一度に撮影できることができる衛星画像は、積雪の有無がどのように分布しているか、面的な広がりを把握するのにも好都合なのです。

では、なぜこのような積雪範囲の違いが現れるのでしょうか。

日本列島の冬季の気候の特徴として、大陸の高気圧から吹き出す北よりの季節風と、日本海の湿った空気によって、日本海側には大量の雪がもたらされます。それとは対照的に、山脈を越えた風下側に位置する太平洋側では晴天率が高く、降水量もあまり多くありません。日本列島を背骨のようにはしる山脈(脊梁山脈)の存在が、このような特徴的な違いを生み出すのです。上越国境付近は、このような日本列島の気候的特徴が、典型的にあらわれる場所でもあります。

最後に、日本列島全体をとらえた衛星画像で、その様子を見てみましょう。

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図3 日本列島広域観測画像

図3は、アメリカの地球観測衛星「Terra(テラ)」による日本列島付近の画像で、図1が観測された前日の2009年2月21日に観測されたものです。Terra衛星は東西方向に約2300kmの観測幅を持っており、日本列島全体を一度にとらえることができます。
JAXA地球観測センター(埼玉県鳩山町)では、Terra衛星データの受信・処理もおこなっており、図3はJAXAが受信したデータをもとに画像化したものです。日本付近のTerra衛星画像はほぼ毎日得られ、JAXAでは、このような日本付近のTerra衛星観測画像を、公開しています。

図3からは、日本海にすじ状にひろがる雲が、本州の日本海側にかかっている様子がよくわかります。東日本・北日本を中心とした、いわゆる「冬型」の気象条件にあったことが考えられます。この画像からは白い部分が雲か積雪かの判別が難しいのですが、形状から本州の日本海側に広がる明るい白色は、大部分が雲を表していると推定できます。
図3で特徴的なのは、本州の日本海側と太平洋側で白い部分の分布が対照的なことです。とくに東日本でその特徴はよく現れています。日本海を渡る気流が生み出した雪雲は、東京を含む関東平野には到達していません。

図3の雲の形状や分布からは、この日、東日本・北日本を中心に、本州の日本海側で降雪があったことが推定できます。晴天下で観測された翌日2月22日の「だいち」観測画像では、地表面の様子が写し出されました。

国境のトンネル付近で、さらにいっそう雪化粧した上越の山々の姿は、多様な日本の気候環境を物語っています。


観測画像について

(図1〜図2)

観測衛星: 陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)
観測センサ: 高性能可視近赤外放射計2 型(AVNIR-2)
観測日時: 2009年2月22日10時38分頃(日本標準時)
地上分解能: 10 m
地図投影法: UTM(ユニバーサル横メルカトール)

 AVNIR-2は、4つのバンドで地上を観測します。図1、2はAVNIR-2の、バンド3 (610〜690ナノメートル)、バンド2(520〜600ナノメートル) とバンド1(420〜500ナノメートル)を赤、緑、青色に割り当てカラー合成した画像を「色相(Hue)」、「彩度(Saturation)」、「明度(Intensity)」に変換(HSI変換)し、明度をバンド4(760〜890ナノメートル)画像で置き換えて再合成したものです。通常のカラー画像では反射光の強さのため真っ白に写る雪や氷を見やすくすることができます。この画像では、肉眼で見たのと同じ様な色合いとなり、次のように見えています。

暗緑色: 森林
明緑色: 草地
薄茶色: 農地
濃茶色: 市街地
白: 雲、雪
黒: 水域、データのないところ

(図3)

観測衛星: 地球観測衛星Terra (NASA)
観測センサ: MODIS (NASA)
観測日時: 2009年2月21日10時59分ころ(日本標準時間)
地上分解能: 500 m

MODISは、36 のチャンネルで地球を観測します。図3は、MODISの可視域のチャンネル1(620 〜 670 nm)、チャンネル4 (545〜 565 nm)、チャンネル3 (459 〜479 nm)を赤、緑、青色に割り当てカラー合成しています。このため、肉眼で見たのと同様に次のように見えています。

緑または茶色: 森林
白: 雲または雪
茶色っぽい灰色: 市街地、草地または畑
灰色がかった青: 水域

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