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災害毎の情報提供の概要

JAXAは、地球観測衛星での定期的なモニタリングに加えて、防災関係府省庁・機関や地方自治体からの要請により、被災地を優先的に観測する緊急観測運用を行っています。ここでは、過去の主な観測事例を元に、JAXAの災害毎の対応の概要と、衛星画像を解析することで得られる情報(被害地図等)を紹介します。
 これまで自然災害で被害を受けられた全ての皆様に、謹んでお見舞い申し上げます。

津波:東日本大震災(2011年)

 地震により発生する津波は、たった一度で非常に広範囲に甚大な被害をもたらします。災害発生直後に被害の全貌を把握するのは困難であり、ヘリコプターや航空機の観測ではすべての被災地をカバーしきれない場合があります。人工衛星は、広範囲を一度に観測することができるため、津波被害の全容把握に有効です。
 ここでは、2011年の東日本大震災で提供した、JAXAの陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)の観測結果をご紹介します。

東日本大震災での対応

 2011年3月11日14時46分頃、東北地方の太平洋沖で国内観測史上最大となるマグニチュード9.0の地震が発生しました。JAXA筑波宇宙センターは震度6弱の揺れに見舞われ、社内の被害状況確認に追われながらも、翌日午前中から連日にわたって「だいち」による緊急観測を行いました。震災直後は、多くの航空機やヘリコプターが津波被災地を観測しましたが、福島第一原子力発電所から半径30km以内に関しては航空機の飛行が禁止され、全貌を把握できない状況となっていました。そのような状況の中、3月14日に東北地方の沿岸全域が快晴となり、その日の「だいち」の緊急観測によって、津波による被害の全貌が初めて明らかになりました。

「だいち」の観測結果

 図1は、「だいち」に搭載された光学センサ、高性能可視近赤外放射計2型(AVNIR-2)が観測した3月14日の画像です。光学画像は、人間の目で見える「可視光線」から「近赤外線」を観測することができます。図1は「フォルスカラー画像」と言われ、近赤外の波長を赤色に、赤の波長を緑色に、緑の波長を青色に割り当てて画像にすることで、植生や津波被害を受けた場所を強調した画像です(図2)。図1の左図の沿岸域で紺色に変化した部分がありますが、ここが津波で浸水した地域と推定されます。赤い場所は、植物の存在を示します。また、相馬市沖合には、津波により海に流出したと思われる漂流物も確認できます。
ここでは光学センサによる津波被害域の推定方法をご紹介しましたが、次の2. 洪水:平成30年(2018年)7月豪雨でご紹介する、合成開口レーダ(SAR)でも推定することができます。

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図1:「だいち」が観測した震災前(右)と後(左)の東北地方の沿岸の様子

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図2:光学センサの画像の特徴

・事例についての詳細はこちら:
陸域観測技術衛星「だいち」(alos)による東日本大震災の緊急観測結果
「地球が見える 2021年 東日本大震災-JAXA地球観測の記録」

洪水:平成30年(2018年)7月豪雨

 日本では毎年のように台風や大雨の被害を受けており、さらに地球温暖化の進行に伴って、大雨や短時間に降る強い雨の頻度はさらに増加すると予測されています。年々甚大化する洪水被害の把握にも、JAXAの地球観測衛星の情報を役立てることができます。
 ここでは、平成30年(2018年)7月豪雨で提供した、JAXAの陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)の観測結果をご紹介します。

平成30年(2018年)7月豪雨での対応

 平成30年7月豪雨では、2018年6月28日以降、西日本を中心に全国的に広い範囲で記録的な大雨となり、河川の氾濫、浸水害、土砂災害等により、各地で甚大な被害が発生しました。
 7月5日以降、西日本から東日本の地域に大量の雨をもたらすことが予想されたことから、JAXAは、国土交通省、徳島県、高知県からの要請に基づき緊急観測を実施しました。5日の夜から計9回の緊急観測を実施し、浸水域把握や土砂崩壊発生箇所の判読結果を提供しました。これらの結果は、防災ヘリコプター調査による被害状況調査計画の、立案・実施等に活用されました。また、TEC-FORCE高度技術指導班(土砂災害専門家)による調査では、自治体などからの情報とともにルート作成に活用され、迅速かつ的確な調査計画の立案や調査に役立てられました。

「だいち2号」の観測結果

 災害時に防災関係機関に提供した情報の一部を、図3と図4に示します。左側が「だいち2号」による観測画像の解析により推定した浸水被害エリア、右側が災害前の光学画像(Sentinel-2)です。「だいち2号」の画像で赤くなっている箇所が、浸水が疑われる場所です(解析画像の見方は後ほど説明します)。しかしこの画像だけでは災害による被害のみを識別することは難しいため、他にも光学画像や報道情報など見ながら、浸水被害がより確かな箇所を専門家が判読し、防災関係機関に提供しています。その判読結果が、左右の画像に表示されている緑の枠の部分になります。

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図3:岡山県倉敷市高梁川および小田川流域の浸水推定域判読結果
(左図:「だいち2号」の画像、右図:被災前の光学画像)

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図4:岡山県倉敷市真備町川辺付近の浸水推定域判読結果
(左図:「だいち2号」の画像、右図:被災前の光学画像)

SAR衛星の観測画像の解析紹介

 「だいち2号」は、合成開口レーダ(SAR)というセンサを搭載しています。センサ名は、フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(PALSAR-2)といいます。SAR衛星は、自らマイクロ波を照射し、観測対象物から反射して跳ね返ってくる電波を受信することで観測を行います。図5のイメージ図のように、浸水して地表面が滑らかな場所では、電波が衛星側に返ってこないため、受信信号が小さく(画像が暗く)なります。この性質を利用して浸水した地域を推定することができます。

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図5:合成開口レーダ(SAR)画像の特徴

 先ほどの図3、図4の「だいち2号」の画像は、図6のイメージ図で示される「RGBカラー合成」という手法で作成されています。これは、災害が発生する前と後の画像を比較して、浸水した地域を強調させるために使う手法です。ここでは、災害前の画像を赤色に、災害後の画像を青色と緑色で表示します。災害後の青色と緑色の画像は、光の三原色から、重ねると水色にみえます。こうすることによって、災害前の受信信号が災害後と比べて大きいと赤色に、災害後の値の方が大きい場合は水色に、受信信号に変化がない場合は白色や黒色に近い図ができます。浸水した場所は、先述のように災害前画像で受信信号が大きくなるため、赤く表示されるという仕組みです。ただし、田に水を張る季節などでは、自然災害以外で赤く変化する場合もある点に注意が必要です。

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図6:RGBカラー合成による浸水地図の作成

 SAR画像は、光学画像と比較して直感的に理解するのが難しいのですが、昼夜・天候を問わず地上の様子を把握することができます。つまり、特に夜間、あるいは大雨が降っていてヘリコプター等での調査が難しい場合などでも、被害の把握ができるという点が強みです。図3、図4の画像は夜の12時頃に撮影された画像であり、同時間帯はヘリコプターによる撮影が難しく,人工衛星による観測が有利な点の一つです。
 なお、津波:東日本大震災でご紹介した画像は「だいち」の光学画像でしたが、津波による浸水域の把握も同様の方法で「だいち2号」などのSAR画像でも行うことができます。

・浸水被害の抽出手法について詳しく知りたい方はこちら:
「災害時の人工衛星活用ガイドブック 水害版・浸水編(国土交通省・JAXA)」

・事例についての詳細はこちら:
「平成30年7月豪雨におけるJAXAの対応について」

土砂崩落:令和元年(2019年)東日本台風

 土砂災害は、台風などによる豪雨や、火山活動、地震など、様々な要因で発生します。大量の土や岩が勢いよく崩れ落ち、一瞬にして多くの命や家財等を奪う恐れのある災害です。土砂災害が発生するのは山間部が多く、また予兆を把握するのも難しいため、土砂災害の発生の疑いのある地域を広範囲で観測することのできる人工衛星は有効です。
 ここでは、令和元年(2019年)東日本台風で提供した、JAXAの陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)の観測結果をご紹介します。

令和元年(2019年)東日本台風での対応

 令和元年東日本台風では、2019年10月12日に大型で強い勢力で伊豆半島に上陸した台風第19号の接近、通過に伴い、広い範囲で大雨、暴風、高波、高潮となりました。
 10月12日以降、台風19号が北陸から東北の地域に大量の雨をもたらすことが予想されたことから、JAXAは、国土交通省の要請により、12日夜より計6回の緊急観測を行いました。ここで提供された情報は、浸水被害や土砂崩壊の概要把握や、防災ヘリコプターによる調査ルートの検討に利用されました。

「だいち2号」の観測結果

 実際に防災関係機関に提供した情報の1部を、図7、図8に示します。左側が「だいち2号」の観測画像より得られたRGBカラー合成画像、右側が災害前の光学画像(Sentinel-2)です。赤枠に、「だいち2号」や光学衛星の画像などを元に判読した、土砂崩壊が発生したとみられる箇所を示します。

画像の解釈の仕方

 こちらの「だいち2号」の画像も、2.洪水:平成30年(2018年)7月豪雨と同様にRGBカラー合成画像で、災害前が赤色、災害後が青と緑色(重ねると水色)で表示されています。先ほど、浸水が疑われる箇所に関しては、SAR画像の値が小さくなるため、赤色になるとご紹介しました。一方、土砂災害の場合は、赤色と水色が隣り合って表示されることが多いです。なぜなら、土砂災害の場合は、ある部分は、地滑りなどにより地表面が滑らかになる一方で、崩れた部分が下方に堆積し、そこは地表面が荒くなる傾向にあるからです。
 土砂災害の場合は特に、SAR画像だけ見ていては誤判読をしてしまうことがあります。例えば、森林伐採などの人工的な土地の改変による変化と、自然災害による変化では、区別がつかないからです。そのため、災害前の最新の光学画像で災害前の様子を確認し、比較することで、より確からしい情報を提供することが重要です。

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図7:山梨県早川町雨畑周辺の土砂移動推定域判読結果
(左図:「だいち2号」の画像、右図:被災前の光学画像)

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図8:山梨県早川町奈良田周辺の土砂移動推定域判読結果
(左図:「だいち2号」の画像、右図:被災前の光学画像)

・土砂災害の抽出手法について詳しく知りたい方はこちら:
「災害時の人工衛星活用ガイドブック 土砂災害版(国土交通省・JAXA)」

・事例についての詳細はこちら:
2019年10月の東日本台風災害

地殻変動:平成28年(2016年)熊本地震

 地震による被害には、津波をはじめ、建物倒壊、火災の発生、土砂崩れ、液状化現象などがあります。地震の予知は難しいとされていますが、人工衛星で定期的にモニタリングすることで、地表面の変化の様子を把握することができ、例えば地震災害時には地殻変動の様子を知ることができます。
ここでは、平成28年(2016年)熊本地震での、JAXAの陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)の観測事例をご紹介します。

平成28年(2016年)熊本地震での対応

 平成28年(2016年)熊本地震では、2016年4月14日に、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード6.5の地震が発生し、熊本県益城町で震度7、玉名市、熊本市等で震度6弱を観測しました。さらに4月16日にはこの地震よりも規模の大きいマグニチュード7.3の地震が発生し、熊本県益城町及び西原村で震度7、南阿蘇村、菊池市などで震度6弱を観測しました。
 発災後、地震予知連絡会に設置された「地震SAR解析ワーキンググループ(地震WG)」からの要請により「だいち2号」の緊急観測を実施し、取得したデータを提供しました。「だいち2号」で観測された画像の差分干渉結果から地殻変動が認められ、国土地理院ウェブサイトへの公開および地震調査委員会(臨時会)(2016年4月17日)への報告に活用されました。

「だいち2号」の観測結果

 図9は、「だいち2号」の画像をもとに国土地理院が作成した干渉SAR画像です。2015年2月10日から2016年4月19日の地殻変動の様子を捉えています。
 干渉SAR解析(またはインターフェロメトリ、InSAR)は、地震の前後で取得された2回のSAR画像の観測データの差をとる解析方法です。それにより、地表の変位、つまり、地面がどれだけ動いたかを測定することができます。地震に伴う地殻変動を面的に可視化でき、断層の位置や動きの推定、今後の地震の危険性の予測などに役立ちます。
 干渉SAR画像の見かたの詳細については、こちらをご覧ください。

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図9:「だいち2号」画像をもとに国土地理院が作成した干渉SAR画像

 また、平成28年(2016年)熊本地震では、内閣府の要請により、人工衛星による防災の国際枠組みであるセンチネルアジアおよび国際災害チャータが発動されました。「だいち2号」だけでなく、センチネルアジアや国際災害チャータの人工衛星や、商用光学衛星などでの観測データによって得られた、南阿蘇村周辺の土砂崩落箇所や、益城町の建物倒壊を抽出した結果などを、防災関係機関に提供しました。

・事例についての詳細はこちら:
2016年4月の熊本地震災害
センチネルアジアの取り組み
国際災害チャータの取り組み

・センチネルアジアと国際災害チャータについてはこちら:
センチネルアジアの紹介
国際災害チャータの紹介

火山(西之島の活動)

 日本は有数の火山大国であり、気象庁によると日本には活火山が111存在しています(2021年4月現在)。火山現象のうち、噴石、火砕流、融雪型火山泥流、溶岩流、火山灰、火山ガスなどによって、大きな災害が引き起こされることがあります。
 国内では、防災や研究目的で、火山の活動状況をモニタリングするための地上の観測網が発達しています。そのため地震と比べると、定期的なモニタリングにより、災害の予兆を把握しやすいと言われています。しかし、遠方離島や海底火山など、地上観測が困難な火山や、噴火等によって地上観測機器に障害が生じた火山では、人工衛星での観測が重要な情報になります。また、広範囲に面的な地殻変動を知ることができる点でも人工衛星での観測は有用です。

「だいち2号」による監視

 図10に、「だいち2号」が捉えた、2014年から2019年までの、西之島の地形の変化の様子を示します。西之島は東京の南方約930kmにある火山島です。2013年11月の噴火時に出現した新島は直径約200m程度でしたが、その後旧島と一体となり、現在もその面積を拡大し、活発に活動を続けています。図10から、西之島の面積が徐々に拡大していく様子が分かります。SAR画像は、昼夜問わず、天候や噴煙にも左右されないため、定期的に変化の様子を捉えることができます。
 JAXAでは、断続的な西之島の火山活動に対して、火山噴火予知連絡会に設置された「衛星解析グループ(火山WG)」からの要請に基づき、「だいち2号」の観測を継続して実施しています。提供した画像は、気象庁による火口周辺警報や、海上保安庁による航行警報への判断材料の一部として活用されています。

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図10:2014年から2019年までの西之島の観測画像

・事例についての詳細はこちら:
「だいち2号」による小笠原諸島西之島の観測について

「しきさい」などによる監視

 SAR画像による地形の変化の把握に加え、他の衛星との情報を組み合わせることで、より多角的な把握ができるようになります。ここでは、「気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)」での観測についてご紹介します。
 海域火山は、その火山活動が活発となると、海中に「変色水」が出現します。海の色はとても暗く、大気のチリにかき消されるため、飛行機からの観測では難しい場合もあります。そこで、紫外線から赤外線までたくさんの波長を観測できる「しきさい」が役立ちます。様々な波長を組み合わせることで、チリの影響、太陽光の反射などを補正し、上空から見るだけでは識別できない、変色水の変化をより正確に推定することができます。図11では、2020年7月17日に「しきさい」が捉えた、噴火中の西之島由来と見られるの大規模な変色水の様子を示しています。

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図11:「しきさい」による西之島周辺の変色水(黄枠)

 また、赤外線を用いると、溶岩流の推移や、火口付近の高温部の変化も捉えることができます。図12では、「しきさい」の熱赤外線観測による、西之島の温度の推移を示しています。2018年7月の噴火および2019年12月からの噴火の時期に、温度上昇が捉えられています。定期的にモニタリングすることで、遠方の火山島における火山活動の異常や噴火の予兆などをいち早く捉えることができます。

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図12:「しきさい」による西之島の熱赤外線観測結果

 赤外線での監視については、JAXAは「しきさい」だけでなく、「だいち2号」に搭載されている「地球観測用小型赤外カメラ(CIRC)」の観測結果も活用しています。また、火山活動の変化を早期に把握するためのシステムとして、「火山活動・林野火災速報システム」を開発しています。「しきさい」やCIRC、気象庁の「ひまわり」の熱赤外画像や、可視画像を元に、活火山のモニタリングを行っています。

・詳細はこちら:
火山活動・林野火災速報システム
地球観測用小型赤外カメラ(Compact Infrared Camera:CIRC)

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