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センチネルアジア

JAXAは、国内の自然災害にとどまらず、海外での自然災害時でも被災国の防災機関からの要請に基づき、人工衛星の緊急観測の実施,および衛星データやそれより推定された被害情報を無償で提供しています。JAXAは、国際的な防災枠組みとして、「センチネルアジア」と「国際災害チャータ」に加盟しています。ここでは、「センチネルアジア」の活動内容についてご紹介します。
「国際災害チャータ」の紹介についてはこちら

目的と加盟機関

センチネルアジアは、宇宙技術を活用してアジア太平洋地域の災害管理への貢献を目的とする、国際協力プロジェクトです。地球観測衛星画像などの災害関連情報をインターネット上で共有し、自然災害による被害を軽減することを目指しています。アジア太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)の取り組みとして
2006 年に発足し、JAXAを中心として活動を開始しました。
センチネルアジアでは、JAXAが執行事務局として全体の運営を行い、緊急観測支援要請窓口を務めるアジア防災センターとともに中心的な役割を担っています。現在の加盟機関は、111機関です(2021年4月現在)。センチネルアジアに参加している機関は以下のように大きく4カテゴリに分類され、それぞれの特長を生かして連携・協働することで、自然災害に対応しています。
1. 地球観測衛星画像を提供する宇宙機関(Data Provider Node: DPN)(図1)
2. 宇宙機関から提供された地球観測衛星画像を分析して、被害情報を提供する解析支援機関(Data Analysis Node : DAN)
3. 国際機関
4. 各国の防災機関

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図1:センチネルアジアの緊急観測支援衛星一覧(2021年4月現在)

センチネルアジアの特徴

センチネルアジアの特徴は、人工衛星のデータ提供を行うJAXAのような宇宙機関だけではなく、衛星データの解析により被害状況などの情報を提供する研究機関、提供されたデータや情報を防災活動に利用する防災機関が参加しているという点にあります。そのため、衛星データや解析により得られた情報の提供にとどまらず、防災関連の情報発信を支援する技術協力や、キャパシティビルディング(衛星データの解析技術や利用シナリオ構築などの能力開発)なども行っています。
また、定期的にメンバー同士のコミュニケーションの場を設けており、実際にデータを利用する防災機関から、宇宙機関や研究機関が提供した情報やその提供方法などに対するフィードバックを直接得られる点も特徴です。ユーザニーズを反映して改善を続けることで、一方的な情報提供ではなく、ユーザが必要とする情報や技術を適切なタイミングで提供することを目指しています。

国際災害チャータへのエスカレーション

センチネルアジアのメンバーは、センチネルアジア発動時、被害規模に応じて、国際災害チャータも発動することができます。このセンチネルアジア・エスカレーションの仕組みにより、日本のみならずアジア太平洋各国・地域のセンチネルアジアメンバー機関でも、国際災害チャータを通じて様々な海外衛星の緊急観測データを利用することができるようになります。

これまでの成果の例

2018年7月23日にラオス南部のXepian-Xe Nam Noy水力発電所ダムが決壊し、貯水池の水が流出し、下流の村を洪水が襲いました。被災された皆様に、謹んでお見舞い申し上げます。
本事案では、ラオス社会福祉・救済復興省社会福祉局(DSW)の要請を受け、アジア災害予防センター(ADPC) から7月24日にセンチネルアジアに緊急観測支援要請がなされました。
JAXAは、7月26日、27日に「だいち2号」により緊急観測を行いました。またインド宇宙研究機関(ISRO)も7月26日の「Resourcesat-2A」画像を提供しました。これらの緊急観測画像は、解析支援機関であるADPC、アジア工科大学院(AIT)、シンガポール地球観測研究所(Earth Observatory of Singapore)山口大学応用衛星リモートセンシング研究センター国際水管理研究所(IWMI)が解析し、浸水域地図などの情報が提供されました。これらの情報は、ASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)が、現地での避難場所設置先決定や、ASEANから提供される救難支援物資の展開先決定の意思決定に活用しました(図2)。

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図2:センチネルアジアDANから提供された浸水域地図をもとにAHAセンターが決定した避難場所設置先(左)と、救難支援物資の展開先(右)

本成果は、AHAセンターが2019年3月に発行した政策広報文書「ASEAN RISK MONITORING AND DISASTER MANAGEMENT REVIEW (ARMOR)」(図3)でも明示的にとりあげられています。ARMORでは、本成果もふまえ、センチネルアジアの重要性が強調され、全ASEA加盟国の防災機関がセンチネルアジアを活用すべきという勧告がなされています。

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図3:AHAセンターが発行したARMOR

その他のセンチネルアジア発動におけるJAXAの対応事例
2015年4月 ネパール地震
2015年6月 西ブータン 氷河湖決壊洪水
2015年7月 ミャンマー 豪雨
2018年2月 台湾地震
2018年7月 ラオス 洪水
2018年8月 ミャンマー 洪水
2018年9月 インドネシア 地震
2020年1月 フィリピン 火山噴火災害

今後の取り組み

センチネルアジアの発足当初は、災害直後の救急・救援等の「災害応急対応(Response)」に関する対応にフォーカスしていました。しかし2013年からは、さらに「予防・減災(Prevention/Mitigation)」、「事前準備(Preparedness)」、「復旧・復興((Rehabilitation/Reconstruction))」に関する活動にも取り組み、全ての災害管理サイクルにアプローチすることでより効果的な災害管理支援を行うことを目標にしています。
また、2015年3月に宮城県仙台市において開催された「第3回国連防災世界会議」を通じて、国際的な防災指針である「仙台防災枠組(Sendai Framework for Disaster Risk Reduction)」が制定されました。これを踏まえ、センチネルアジアの活動を仙台防災枠組とも関連付けする形で「長期戦略プラン」を策定し、より具体的な活動目標を定めています(図4)。

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図4:仙台防災枠組とセンチネルアジアの全災害管理サイクル対応の活動目標の関連付け

現在は、発災を想定したセンチネルアジアへの緊急観測要請の定期的な模擬訓練や、各国で発災(危険)時に関係機関連携によりセンチネルアジアに速やかに緊急観測要請をすることを制度的に定着させることを目指した「標準手順書」の策定に取り組んでいます。こうしたなか、センチネルアジアのコミュニティからの寄稿論文が国連防災機関(UNDRR)の発行する「Global Assessment Report(GAR)」に採択されるなど、センチネルアジアの国際的な認知度も高まってきました。
JAXAは、今後もセンチネルアジアの執行事務局として、コミュニティの協力をさらに深化・活性化させるとともに、加盟機関と共同で、センチネルアジアが被災国での災害管理のツールとして一層定着するよう、取り組んでまいります。

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