JAXAでは国内の研究機関と協力して、衛星による観測データを活用した解析手法の開発やシミュレーションシステムの構築に取り組んでいます。衛星から得られた観測データのみならず、数値モデルとあわせて利用(融合)することで、連続的なデータを作成し、さらに衛星では得られない物理量についても提供することができるようになります。シミュレーションに実測データを取り込んでいく「データ同化」と呼ばれる手法を用いることで、衛星では観測できない情報や未来を推定することができるようになります。
大気・エアロゾルモデル
JAXAでは、実測された衛星データをエアロゾル輸送モデルのコンピュータシミュレーションにデータ同化するための研究開発を外部機関と協力して行っています。黄砂やPM2.5などのエアロゾルが、いつ、どこに、どのぐらいの濃度で飛来するかが分かるようになり、日常の環境情報の一つとして使われるようになることを目指しています。
2019年4月5日の世界時2時のエアロゾル光学的厚さ。左上と右上はそれぞれひまわり観測値とモデル同化結果の光学的厚さ。左下と右下はそれぞれモデルのエアロゾル光学的厚さのうちのダストと硫酸エアロゾルの寄与分(モデル結果は気象研提供)。
海洋モデル
衛星による海洋観測は全球を均質に観測できる利点がありますが、衛星からは海の表面の様子までしか観測できません。海の中や、雲に隠れた海域のデータは得ることができません。
JAXAでは、海洋分野の研究機関と連携し、3kmの空間解像度の海洋モデルに「しずく」や「ひまわり」によって観測された海面水温データを同化する研究を行っています。これによって得られた精度が高く欠損の無い海洋情報・予測データをデータ提供サイトから配信しています。
2019年5月5日9時(日本時間)のひまわり海面水温観測(左)、衛星を同化したモデル海面水温予測(中央)、モデルによる水深100mの水温予測(右)。衛星観測と海洋モデルを連携することで、衛星では観測できない領域や海中の情報を推定し、将来を予測することができます。(画像作成:JAXA/JAMSTEC)
陸域モデル
JAXAでは東京大学と共同で災害監視・水文研究のための地表・河川シミュレーションのシステムを開発運用しています。Today’s Earth(TE)では、時々刻々と変化する気象状況に応じて、地表面や河川の状態を数値計算から導き出し、その結果をデータや画像としてオンラインでデータ提供しています。
データは全球で緯度経度0.5度、日本域では緯度経度1/60度の高解像度で計算されており、計50を超える物理量を計算し、結果をオンラインで公開しています。
気候モデル
地球温暖化に代表される気候変動の予測に利用される数値気候モデルにおいては、特に雲・降水過程の扱いに不確定要素が多く存在します。そのため、地球観測衛星による数値気象・気候モデルの検証や改良が重要です。そのため、衛星データを用いた数値気象・気候モデルの評価に役立つ衛星データシミュレータJoint-Simulatorを開発しています。
JAXAでは、スーパーコンピュータを利用したデータ同化の技術開発も実施しています。NEXRA(NICAM-LETKF JAXA Research Analysis)では衛星全球降水マップ(GSMaP)のデータを同化しており、将来的な気象予測精度の向上に貢献していきます。
JAXAスパコン(JSS2)で行った非静力学正20面体格子大気モデルNICAMを用いた気象シミュレーション結果。2017年7月13日16UTCの地表降水量と積算水蒸気量を図示。