災害

2022.01.28(金)

トンガ火山噴火起因の津波によるペルー沖油流出事故の「だいち2号」観測

2022年1月15日、南太平洋のトンガ王国の火山島であるフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山が大規模噴火したことに伴い、日本を含む火山から遠く離れた太平洋沿岸で、津波を観測しました。特に南米ペルーでは、首都リマ郊外のカヤオ(図1、図2)で、タンカーから製油所に荷下ろし中の原油が、高波により海に大量に流出し、海岸線に漂着しました。ペルーの環境省によれば、約6000バレルの原油がペルーの生物多様性に富んだ太平洋地域に流出したと推定され、魚や鳥などに大きな被害が発生し、漁業などが出来ない状態になっています。このため、現地では90日間の環境非常事態宣言が出る状況になっています。

図1 フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山()とペルー油流出事故場所(★)の位置を示した地図
トンガとペルーとの間は約10,000 kmあります。
図2 ペルーの油流出事故場所の周辺地図と「だいち2号」による観測範囲
油流出事故が発生した場所(×印)はペルーの首都リマから約30kmの場所にあります。

「だいち2号」による油流出緊急観測

流出事故はカヤオ市内にあるラ・パンピージャ製油所(La Pampilla refinery)付近で発生しました。「だいち2号」は、事故発生5日後の2022年1月21日5時36分(標準時)に、ペルー沖の緊急観測を実施しました。
合成開口レーダの観測画像では、レーダから照射した電波の反射が強い陸地(島)、船舶などは明るく(白く)見えます。一方で海面は反射が弱いため暗く(黒く)、油が海面に浮遊している場所はさらに暗く(黒く)なります(詳細については、2020年モーリシャス沖油流出事故観測記事の解説を参照してください)。
油の判別を確認するため、今回の画像と、過去の観測画像(2021年4月13日及び2021年5月9日)を比較したものを図3に示します。海上風が強いほど、波が高くなり、海面からの電波の反射が強くなるため、より明るく映ります。4月13日(図3A)は海面全体が波立っていたので、海面が明るくなっていますが、5月9日(図3B)は、海岸近くの海上風が凪いでいたので、暗く映っていると考えられます。今回の観測(図3C)では、海岸近くの暗い領域は、凪となっている可能性がありますが、さらに暗い筋状の領域が見えますので、この領域は油の可能性が高いと判断しました(黄色の枠で囲んでいます)。

図3 「だいち2号」合成開口レーダによる過去の観測画像との比較(全て高分解能モード(分解能10 m)、右観測、HH偏波)
A: (事故前) 2021年4月13日16:50(標準時)、オフナディア角28.5°、降交軌道
B: (事故前) 2021年5月9日5:29(標準時)、オフナディア角28.6°、昇交軌道
C: (事故後) 2022年1月21日5:36(標準時)、オフナディア角39.7°、昇交軌道
今回の観測では、海岸近くは凪となっている可能性がありますが、さらに暗くなっている筋状の領域が見られ、流出した油の可能性が高いと判断しました。(黄色の枠で囲んでいます)。

図4にペルー沿岸で「だいち2号」の合成開口レーダ(PALSAR-2)による観測画像を拡大した画像を示します。この図でも周りの海面の明るさに対して、急に暗く(黒く)なっている場所に油が拡がっている可能性が高いと判別しており、黄色の枠で囲っています。流出場所付近の海上には、多くの船舶があり、流出元となった原油タンカーも、まだ停泊しているのが見えています(図4B)。油は発生場所付近にも拡がっていますが(図4B)、北側の海岸付近に、より多くの油が到達しているのがわかります(図4C,D)。これは油の流出事故が発生してから約5日経っているので、その間に南風あるいは南からの潮流に乗って、北側に油が流れたことによると考えられます。

図4 「だいち2号」合成開口レーダによる観測画像(A)及びその矩形領域の拡大図(B,C,D)(2022年1月21日5:36(標準時)、オフナディア角39.7°、高分解能モード(分解能10 m)、昇交軌道、右観測、HH偏波)。
流出した油の可能性が高いと判断した領域を黄色の枠で囲んでいます。海上の明るい点は船舶で、そのうちの一つは流出元となっている原油タンカーです。

今回の「だいち2号」観測データは、JAXAの緊急観測後、「国際災害チャータ」の要請に基づいて提供を行いました。
「国際災害チャータ」は大規模な災害が発生した際に宇宙関係機関の衛星画像をユーザに提供する国際協力の枠組みで、1999年に発足しました。現在、JAXAを含む17宇宙関係機関が参加しており、大規模な自然災害時に参加機関の間でボランタリーな国際協力が行われています。JAXAはこれまでに「だいち」や「だいち2号」による数多くの緊急観測を実施し、この活動に貢献しています。
(「国際災害チャータ」については、こちらを参照してください)。

参考リンク

モーリシャス沿岸における油流出事故を受けた「だいち2号」の観測協力

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