地球観測が目指す未来
地球観測衛星による社会への貢献に向けて
第一宇宙技術部門 地球観測統括 平林 毅
2015年に持続可能な開発目標(SDGs)、温暖化対策としてパリ協定、仙台防災枠組みの3つの重要なグローバルアジェンダが採択されてから5年以上が経ちました。2019年に広範囲に被害をもたらした台風19号、2020年に熊本県を中心に九州や中部地域などで発生した7月豪雨など、気象災害による被害も年々増大し、また広域・甚大化しています。このように自然現象の脅威が増す中で、人々の暮らしの安全を守り、豊かな未来につなげるためにも地球の現状を把握し、将来予測を行うことが重要です。
地球観測衛星は、これまでも熱帯林をはじめとする森林の減少やオゾン層の破壊、二酸化炭素濃度の増加など人間活動に起因する地球環境の変化をとらえ、また、災害対策や気象、農林水産業など様々な分野での利用が進められてきました。地球環境を保全し、自然と調和した社会を築くためには、地球環境の実態を把握し、またそこで起きている現象のメカニズムや相互作用を解明し地球システムの総合的な理解を深めること、そして地球環境の将来予測を向上させる必要があります。そのためには、地上での観測に加えて、地球全体を観測することが重要であり、人工衛星を用いた全球観測は最も有効な手段のひとつです。
日本の宇宙開発の基本方針を定めた宇宙基本計画が2020年6月30日に5年ぶりに改訂され、その中で地球観測衛星にかかわる政策目標として「災害対策・国土強靱化や地球規模課題の解決への貢献」が掲げられています。JAXAの地球観測研究センター(EORC)と衛星利用運用センター(SAOC)では、それぞれ、各種の地球観測衛星を運用し、観測データの解析・利用研究を国内外の関係機関とも連携して行っています。その上で、気候変動をはじめとする地球規模課題や災害対策・国土強靱化への貢献、更にはSDGsや農林水産業への貢献などを目指して、衛星データが社会に役立つよう活動を進めていきます。
2021年7月
EORCと地球観測
第一宇宙技術部門 地球観測研究センター参与 早坂 忠裕
2020年4月よりJAXA EORC 参与を拝命いたしました。新年度にあたり、ひと言ご挨拶を申し上げます。
現在、77億人を超える人々が暮らす地球は、地球温暖化問題、地球環境問題、大規模自然災害などが多発し、また、それらが複雑に絡み合って私たちの未来をより不透明なものにしています。近年も、世界中で洪水、熱波や干ばつといった異常気象が多発しています。昨年はフランス・パリで7月に史上最高気温となる42.6℃を記録するなどヨーロッパを熱波が襲い、オーストラリアにおいては長期間かつ広域の森林火災により、人間社会のみならず野生動物や植生にも大きな被害が出ました。我が国も例外ではなく、昨年発生した台風15号、19号の風雨により甚大な被害を被ったことは記憶に新しいところです。また、2011年3月の東日本大震災以降も熊本や北海道などで地震による大きな被害が出ています。これらの災害や地球環境変動の状況を的確に把握し、そのメカニズムの解明や対策を講ずるためには、地球観測衛星を中心とした広域にわたる観測が重要であることは言うまでもありません。
1960年4月に打ち上げられたTIROS1号のビジコンカメラで初めて地球の映像が電送写真で送られてきてから60年が過ぎようとしています。現在では、紫外、可視、赤外からマイクロ波にわたる多様な波長を用いて地球を観測することにより、雲、エアロゾル、降水の物理特性の解明、温室効果ガスの観測に基づく排出源の推定、土地利用・植生分布の変化と社会経済活動の関係解明、海面水温、海氷や雪氷の面積の変化と気候変動のメカニズム解明など、地球の表層で起きている複雑な現象を定量的に捉えることができるようになりました。また、合成開口レーダーを用いて高解像度で地形を把握し、降雨レーダー、雲レーダーにより降水や雲の実態を3次元でとらえることも可能になっています。
このような背景の下、JAXAEORCは国内外の研究者や研究機関と連携し、我が国の科学技術の強みを活かすことにより、新たな知のフロンティアの開拓、防災、さらには広い意味での安全保障、産業経済への貢献を通じて、より良い社会、より良い未来を創造するために、研究、技術開発を推進して参ります。皆様の御協力、御支援を賜りますよう、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
2020年4月
組織情報
JAXAでは、地球観測研究センター、衛星利用運用センター、地球観測センター、西日本衛星防災利用研究センターの4つ組織で地球観測研究・データ利用促進の業務を行っております。
■ 地球観測研究センターについて
地球観測研究センター(EORC: Earth Observation Research Center)は、地球観測衛星のデータ取得から処理・利用研究を担当するセンターで、1995年4月に設立されました。
EORCでは、主に次の業務を行っております。
(1)衛星データの解析および科学的研究
地球観測衛星から得られる観測データを解析し、地球科学として意味のある物理量を導出するためのアルゴリズムの開発や、衛星データの校正検証を行い、衛星データの品質維持に努めております。
また、気象、農林水産資源の管理、災害対策、国土保全、地球環境変動等の分野において、衛星データの利用研究を実施・推進しています。これらの事業を円滑に実施するため、利用研究プロジェクトを設置しています。
(2)観測センサの研究および地上データ処理システムの開発・運用
(3)関係機関との協力
更なる衛星データ利用の拡大を図るため、国内外の関係機関、国際組織との協力を通じて、データ相互利用・データ利用研究の推進を行っております。
■ 衛星利用運用センターについて
衛星利用運用センター(SAOC: Satellite Applications and Operations Center)は、地球観測衛星のデータ利用促進や地上システムの開発・運用・維持管理を担当するセンターで、2006年5月に設立されました。
SAOCでは、主に次の業務を行っております。
(1)人工衛星のデータの利用促進
行政や民間での、衛星データを用いた課題解決への取組の支援
防災システムの構築・運用、国内外の大規模災害時の緊急対応
アジア諸国との協力や国際調整
様々な分野で衛星利用を推進するための利用促進活動や相談窓口対応
(2)人工衛星の地上システムの開発・運用・維持管理
地球観測衛星の衛星管制・データ処理・保存・提供のための地上システムの開発・運用・維持管理
上記に関連する対外調整、新規技術・業界動向の調査・導入
■ 地球観測センターについて
地球観測センター(EOC: Earth Observation Center)では、画像処理・検査・解析を行っています。ここで処理されたデータは国内外の地方公共団体、研究機関、大学などに提供され、環境問題の解明や災害監視、資源調査といった分野で活用されています。また、観測データがより有効に利用されるよう、関連するデータを国際的に収集し、データセットとして提供するというプロジェクトも世界的な協力のもとで進められています。
■ 西日本衛星防災利用研究センターについて
西日本衛星防災利用研究センター(RSCD: Regional Satellite Applications Center for Disaster Management)では、山口県、山口大学と協力して、衛星データの自治体防災への活用、災害解析技術の開発、衛星データ解析が可能な人材の育成等を行っています。三者による実証的な取り組み成果は、九州・中国・四国大学地域防災連絡会議等を通じて他自治体に、さらにはセンチネルアジア、国際災害チャータ等を通じて海外に展開しています。
また、山口県、山口大学が主導する衛星データを利用した新事業創出、宇宙教育が可能なリーダの育成等宇宙教育活動の支援を行っています。
寄附金のお願い
JAXAでは、皆様のご厚情に基づく寄附金を貴重な財源とした研究開発も進めております。地球観測研究・データ利用のさらなる発展のためにご支援をお願いいたします。
「宇宙から見た地球の姿をみんなの暮らしへ」衛星データ利用研究等に寄附
https://www.jaxa.jp/about/donations/type/type09_j.html