自動車海運の変化(日本-北米航路)(続報:2021年2月1日から3月31日分を追加)

記事更新日: 2021/05/24
お知らせ

2021/05/24:2021年2月1日~3月31日までの観測データを追加して得られた解析結果を更新しました。更新部分は下線部で表示しました。(次回は2021年秋頃に更新する予定です)

2021/03/22:図2の自動車輸出入額の推移グラフについて、2020年の確々報値を掲載しました(なお、2021年11月頃に2020年の確定値が公表される予定です。詳細は こちら)。2021/03/22版の記事はこちら

2021/03/10:2020年12月1日~2021年1月31日までの観測データを追加して得られた解析結果を更新しました。

2021/01/29:2020年8月1日~11月30日までの観測データを追加して得られた解析結果を更新しました。2021/01/29版の記事はこちら

2020/09/18:2020年6月19日~7月31日までの観測データを追加して得られた解析結果を更新しました。参考情報3にバルチック海運指数推移グラフを追加しました。2020/09/18版の記事はこちら

2020/08/05:2020年6月1日~6月18日までの観測データを追加して得られた解析結果を更新しました。2020/08/05版の記事はこちら

2020/06/25:記事を公開しました。初版の記事はこちら

概要

JAXAが実施中の衛星搭載AIS受信実験(SPAISE1、SPAISE2)で得られたデータによると、2020年4月から日本沿岸域(太平洋側)で滞留している船舶(主に自動車運搬船)が急増し、6,7月をピークに減少、10月にはほとんど見られなくなり、11月が極小となりました。 2021年1月に滞留船が増加したものの、2、3月は2020年の同期間と同程度の水準で推移しています。


洋上で滞留している船舶の動きの例(動画)
(日本の近海及び遠く離れた洋上で滞留している船舶、滞留期間:2020年3月20日-30日、5月6日-6月21日)(詳細は図7参照)


2020年2月から2021年3月において、月別に5日間以上及び12日間以上の滞留がみられた自動車運搬船の隻数
(複数月にまたがって滞留している船舶はそれぞれの月で隻数をカウントした。また同じ船舶が複数回滞留した場合(寄港等により滞留が一旦終了したもの)、それぞれの滞留回数を隻数としてカウントしている。)(詳細は図1参照)

観測結果

JAXAが実施中の衛星搭載AIS受信実験(SPAISE1、SPAISE2)で得られた船舶AIS信号データを元に、日本~北米航路の貨物船の航跡を解析したところ、 2020年では日本沿岸域(太平洋側)で滞留している船舶(主に自動車運搬船)が多く確認されました。日本~北米航路の貨物船の航跡(2020年2月~2021年3月)を解析しました。 前回までの報告では、2020年では2019年に比べて、2020年4月以降に日本沿岸域(太平洋側)で急増していた自動車運搬船が、9月から11月にかけて自動車生産の回復に伴い急速に減少した後、12月から2021年1月にかけて再び滞留船が増加したことを報告しました。 今回は、2021年2月から3月までのデータを追加した自動車運搬船数の滞留状況の変化について報告します。

船舶から位置等の情報が送信されているAIS信号は、船舶間や陸上に設置されたAIS受信局と船舶間で通信されますが、人工衛星で受信することで、沿岸から離れた洋上の船舶の動きを捉えることが可能です。

解析結果

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による経済の停滞により、貿易の落ち込みが指摘されています。そこで海運物流による外国との貿易状況の変化を見るために、JAXAの衛星AIS(SPAISE1、SPAISE2)データを用いて、北太平洋において、日本と北米との間の自動車運搬船航行の状況を確認しました。

図1は2020年2月~2021年3月に5日間以上滞留した自動車運搬船及びそのうち12日間以上滞留した自動車運搬船の隻数を月別に示したものです。以下、「滞留船」とは、自動車運搬船で滞留している船を指します。

前回、特にコロナウイルス感染が急激に拡がった2020年4月以降、5,6月にかけて急増していた滞留船隻数が、7月に入ると減少に転じ、10月にはほとんど滞留船が見られなくなる様子を報告しました。4月以降の滞留船の増加は、自動車の減産により海上輸送される自動車の数が減ったため、自動車運搬船が洋上で搭載までの時間調整をしていることによると推察しています。また、新型コロナウイルス感染症による人の移動制約(乗下船や国境を超える移動)を受け、乗船員や港湾荷役の確保が難しくなっているようであり、これらによる影響も想定されます。7月以降は、自動車生産が急速に回復し、自動車運搬船の滞留が減少し、10月には自動車運搬船の滞留はほとんどなくなったと推察しています。

2020年12月から2021年1月にかけて、5日間以上の滞留自動車船が再び増加しましたが、2, 3月は前年と同程度の水準に落ち着いています。 一方で、12日間以上の長期間滞留自動車船は、ほとんど増えていません。2020年4月から8月頃に比べ、今回の自動車船の滞留期間は短いことがわかります。


図1:2020年2月から2021年3月において、月別に5日間以上及び12日間以上の滞留がみられた自動車運搬船の隻数
(複数月にまたがって滞留している船舶はそれぞれの月で隻数をカウントした。また同じ船舶が複数回滞留した場合(寄港等により滞留が一旦終了したもの)、それぞれの滞留回数を隻数としてカウントしている。)

図2に、国内自動車輸出額1位である愛知県名古屋港、同輸出額2位かつ輸入額1位の愛知県三河港の自動車貿易額、さらに日本全国の自動車輸出入額を示します (両港の位置等の情報については ネットあいち)。 輸出額は2020年4月、5月、輸入額は6月の減少が目立っています。特に2020年5月の輸出額は2019年5月の半分以下となっていましたが、6月以降徐々に回復し、 9月以降は、名古屋港、三河港とも輸出額が前年度並み、あるいはそれ以上に増加していました。その後、2021年1月の輸出額は減少に転じたものの、3月には顕著な回復が見られました

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図2:a) 愛知県名古屋港(国内自動車輸出額1位)、b) 愛知県三河港(同輸出額2位及び輸入額1位)、c) 日本全国における自動車輸出入額の推移(2019年~2021年3月
名古屋税関提供資料(2019年は確定値、2020年は確々報値、2021年1月は確報値、2月は輸出が確報値、輸入が9桁速報値、3月は速報値)をもとにJAXAが作成。
確定、確報、速報等の定義はこちらを参照。

また代表的な海運市況の1つバルチック海運指数(図3)も2020年1月から5月は低調となっていましたが、6月、7月は前年(同月)と同程度まで回復が見られています。 その後10月まではあまり変わらず、11月からやや低下しました。ところが、12月から3月にかけて再び増加に転じました。


図3:バルチック海運指数推移(2019年1月~2021年3月
日本海事センター資料をもとにJAXAが作成。
バルチック海運指数(Baltic Dry Index、BDI):イギリスのバルチック海運取引所が算出するばら積み船運賃の総合指数。1985年1月4日を1000として算定。

新型コロナウイルス流行による自動車貿易への影響は、2020年11月までに流行前の状態に戻ったと考えられます。12月以降は欧米、日本で再び新型コロナウイルス感染が大きく拡大しましたが、バルチック海運指数が逆に増加に転じていることから、海運物流は動いていたようです。

2020年12月、2021年1月の北米航路における自動車運搬船滞留の増加は、新型コロナウイルスの再流行ではなく、半導体の不足・調達難による自動車の減産の影響によるものではないかと前回記事で報告しました。 ( 参考報道)。 この期間の船舶の滞留期間は比較的短いことも、新型コロナウイルスの影響ではないからと考えています。名古屋港および三河港の自動車貿易額が3月に回復した旨を述べましたが、コロナ禍で落ち込んだ需要のリバウンドが起きているようです。

2020年12月以降、自動車運搬船の航行についてコロナウイルス流行の影響はあまり見られなくなっていますが、引き続き分析を継続します。次回は2021年秋頃に記事を更新する予定です。

船舶ごとの航跡(1日1プロット)

5日間以上日本付近の洋上に滞留している船舶について、代表例を船舶毎に航跡を示します。図2は陸地に近い場所で、狭い範囲に留まっている船舶を示したものです。このような船舶は、2020年に限らず2019年でも見られました。新型コロナウイルス感染症の影響とは関係なく、入港待ちで5日間以上滞留することはあるようです。

一方で2020年は、図5のように陸地から少し離れた場所で広範囲を1ヶ月以上漂っている船舶や、図6のように日本に近寄らず、遠く離れた洋上で滞留している船舶が見られました。さらに図7のように、同じ船が2回、なおかつ1ヶ月以上滞留するような様子も見られました。このような長期間の滞留や、日本沿岸から遠く離れた滞留の動きは2019年の自動車運搬船ではほとんど見られておらず、2020年の特徴を示すものと考えています。また陸地から遠く離れた滞留船の様子を見ることができることが、衛星によるAIS信号受信の大きな特徴です。

名古屋港ではJAXAのレーダ衛星(「だいち2号」;ALOS-2)の観測データによる解析でも自動車やコンテナ数が減少する傾向がみられました(詳細はこちら)。


図4:洋上で滞留している船舶の動きの例(動画)
(日本近海の狭い範囲に滞留している船舶、滞留期間:2019年2月9日-15日)
図4の詳細を表示

図5:洋上で滞留している船舶の動きの例(動画)
(陸地から少し離れた場所で広範囲を漂っている船舶の例、滞留期間:2020年5月10日-6月20日)
図5の詳細を表示

図6:洋上で滞留している船舶の動きの例(動画)
(日本から遠く離れた洋上で滞留している船舶、滞留期間:2020年4月29日-5月14日)
図6の詳細を表示

図7:洋上で滞留している船舶の動きの例(動画)
(日本の近海及び遠く離れた洋上で滞留している船舶、滞留期間:2020年3月20日-30日、5月6日-6月21日)
図7の詳細を表示
謝辞

本解析は衛星観測情報を基としておりますが、自動車の貿易統計情報と比較、確認しながら進めています。 我が国の自動車輸出港、輸入港で代表的な名古屋港、三河港を管轄する名古屋税関様から都度最新の貿易統計情報をご提供頂いております。 また、海運市況を示すバルチック海運指数に関する資料は、日本海事センター企画研究部様に掲載をご快諾頂きました。 ご協力に感謝します。

JAXAの衛星搭載AIS実験(SPAISE)について

AIS(船舶自動識別装置)とは(海上保安庁ウェブサイト)

JAXAの衛星搭載AIS実験:SPAISEの紹介

AIS信号には船舶の位置、時刻、船首方位、対地速度などの動的情報、船舶個別の番号や船名、船の長さや種類などの静的情報が含まれます。

陸上に設置されたAIS受信局(陸上局)では、沿岸から約100 kmまでの範囲の船舶AIS信号しか受信できませんが、衛星に搭載されたAIS受信機では衛星から直径約5,000km範囲の船舶AIS信号を受信できるため、広い洋上の船舶情報を把握可能です。


解析手法について

本解析については、SPAISE1、SPAISE2を用いて、1隻毎に1日1プロットの船舶位置(航跡図)を作成した上で、滞留有無の判断及びその滞留期間(日数)を求めています。

AISによる船舶位置が前日とあまり変わらない場合を滞留開始日、大きく動き始めた日を滞留終了日とし、その間と滞留期間としています。滞留船の抽出に関しては、前回(9月公開版)の解析までは1隻毎に航跡を解析者が移動距離を確認して行っていましたが、今回からは、AISの情報からそれぞれの船舶の移動距離を計算し、その距離が短いものを滞留船と自動的に判断することにより、自動抽出を行っています。その解析方法の違いにより、以前の目視による滞留船抽出方法と比較して、多少の誤差を含んでいる可能性があります。AIS信号が受信できていない日でも、前後の船舶位置から明らかに寄港されないと判断できるものは、滞留期間に含めています。なお、動画(図4~図7)では、AIS信号が受信できなかった日は図にプロットしていません。


AIS受信における陸上局、衛星局の違い

港湾を含む沿岸域では、多くの船舶からAIS信号が発信されるため、衛星で受信した信号を分離して解析することが難しい課題があります。そのため、陸上局で受信した沿岸域の船舶AIS信号と、衛星局で受信した洋上の船舶AIS信号を組み合わせた解析が有効です。

JAXAでは陸上局でのAIS受信を行っていないため、衛星局で受信したAIS信号のみを解析に用いています。今回の解析は、港湾を含む沿岸付近の船舶航行は正確に調べられていないものとなります。そのため、沿岸から離れた洋上での滞留の様子を解析しました。

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