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衛星データができるまで

衛星からのデータが普段目にしている“衛星画像”になるまでの流れを解説します。

衛星データの処理とプロダクト区分について

 宇宙データシステム諮問委員会(Consultive Committee for Space Data System, CCSDS)では衛星と地上システム間の伝送方式やデータ構造が定義されており、JAXAの地球観測衛星もCCSDSに則っています。CCSDSの情報はこちらです。

 地上のアンテナで受信されたデータ(生データ)は、解凍やパケット分離などの処理を経て、必要な画像情報や観測情報などを抽出してレベル0(Level 0もしくはL0と記載されることもある)と呼ばれるプロダクトになります。レベル0プロダクトは、ラジオメトリック(放射量)補正や幾何補正、SAR(合成開口レーダ)データの場合はアジマス圧縮やレンジ圧縮などの処理を経て、レベル1と呼ばれるプロダクトになります。

 その他にも地形にともなう画像のひずみを直すオルソ補正や、大気の影響を取り除く大気補正、斜面の影響を取り除く斜面補正、雑音除去やダイナミックレンジ圧縮処理など、レベル1以降に衛星データに適用される高次の処理は多岐に渡ります。

 図1には多様な処理を記載していますが、衛星やセンサによって処理は異なり、処理プロダクトの定義も異なります。例えば、陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)の高性能可視近赤外放射計2型(AVNIR-2)においては、表1のようにレベル1B2まで補正したデータを標準プロダクトとして定義されています。一方で、気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)の多波長光学放射計(SGLI)では、表1のように物理量まで抽出したデータをレベル3の標準プロダクトとして定義されています。このように、衛星・ミッション毎にそれぞれの標準プロダクトおよびその処理の内容は異なりますので、衛星プロダクトを利用する際には確認が必要です。

プロダクトの区分としては、標準プロダクトのほかに研究プロダクトがあります。概ね標準プロダクトが各衛星において、ミッション目的を達成するために必須であるのに対し、研究プロダクトは各ミッションにおいて、観測データの潜在能力を引き出し、新たな価値や利用の創出を目的としたプロダクトになります。こちらの定義も衛星・ミッションによって大きく異なりますので、利用の際にはご確認下さい。レベル2以降のプロダクトの例はこちらにもあります。

図1. 衛星プロダクトができるまで

表1. JAXA地球観測衛星データの処理レベル定義(ALOS,GCOM-C,ALOS-2) 詳細は各衛星・ミッションのユーザハンドブック等をご参照下さい。

ALOS/AVN IR-2 GCOM-C/SGLI ALOS-2/PALSAR-2
L1 レベル0から切り出されたデータ(L1A)。L1Aにラジオメトリック補正を行ったデータ(L1B1)。さらに幾何補正を行ったデータ(L1B2)。 レベル0から切り出されたデータ(L1A)。ラジオメトリック補正、幾何補正、リサンプリング等を行ったデータ(L1B)。 レジン圧縮、アジマス圧縮された複素数データ(L1.1)。さらに地図投影された振幅のみのデータ(L1.5)。
L2 L1BやL2を主要な入力とし、各種物理量を算出したプロダクト L1.1にオルソ補正を行ったデータ(L2.1)
L3 L2やL3を時間的・空間的に統計処理したプロダクト L1.5に画質補正を行ったデータ(L3.1)

各衛星の詳しい処理レベルの定義などはこちらです。

衛星画像の前処理例

 レベル1処理プロダクトの例として、図2はラジオメトリック補正を示したものです。陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)のパンクロマチック立体視センサ(PRISM)は、プッシュブルームスキャナと呼ばれる撮像方法をとっています。プッシュブルームスキャナでは、センサの並びと衛星(プラットフォーム)の動きによって、それぞれ画像のX方向、Y方向が決定されます。このため、センサの各検出器の間で受光感度が一定でないと、図2左のように縞のようなノイズが発生します。ラジオメトリック補正では、検出器間の感度のばらつきを一定にすることで、縞状のノイズを除去します。図2右のラジオメトリック補正後は、縞状のノイズが無くなり、きれいな画像になっているのが分かると思います。

図2. ラジオメトリック補正の例(ALOS/PRISM L1B1処理)

 レベル2処理プロダクトの例として、図3は幾何補正を示したものです。ALOS/AVNIR-2を例に説明します。画像に含まれる幾何学的歪の要因はセンサの機構や、衛星(プラットフォーム)の軌道や姿勢、地球の自転など様々あります。衛星画像の幾何補正とは、これらの幾何学的歪のある画像からその歪を除去することであり、最終的な出力座標、例えば地図座標系上に投影することです。この際、出力座標系上に正方格子を設定し、その格子点に対応する画素値を入力画像から求めます。しかし、幾何補正後の各画素に対応する入力画像の座標は必ずしも整数にはならないために、周辺の画素値から内挿(resampling)処理が必要となります。内挿法にはいくつか種類がありますが、それぞれの手法によってメリット・デメリットがありますので、後段のプロダクトの利用目的に応じて選択する必要があります。

図3. 幾何補正の例(ALOS/AVNIR-2 L1B2G処理)

 図4は陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)のフェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(PALSAR-2)を例に、SAR画像の前処理について示したものです。SAR画像の各ピクセルには地表面からの情報が混在しており、レンジ圧縮やアジマス圧縮といった処理を施すことで、画像を再生していきます。地図投影されたL1.5データは、ALOS/PRISMの光学画像ではL1B2に相当するデータになります。このように、衛星の処理レベルは異なるので、使用したい衛星データのハンドブックなどを確認することは大事です。

図4. SAR画像の再生処理例(ALOS-2/PALSAR-2, 左から生データ、レンジ圧縮処理、アジマス圧縮処理、地図投影処理)

カラー合成

 ALOS/AVNIR-2などの光学センサでは、図3で示したような、色の付いた画像を提供することができます。図5のようにALOS/AVNIR-2の観測波長のうち、赤・青・緑に対応するものを合成すると、普段目にするカラー画像を作ることができます。この画像はトゥルーカラー合成画像と呼ばれ、人の見る色に近い合成を行っています。カラー画像にすることで、衛星データの可視性や判読性を向上させることができます。

また、ALOS/AVNIR-2には赤・青・緑に対応する観測波長以外も存在します。参考にALOS/AVNIR-2の観測波長を表2に示しています。図6に示すように、バンド4にあたる近赤外線を使ったカラー合成はフォールスカラー合成と呼ばれます。近赤外を赤色で示すことで植生を強調させた画像になります。このように、波長によって強調される対象物の違いを利用して、視覚的に分かりやすい画像を作ることが可能です。

表2. ALOS/AVNIR-2の観測波長

観測波長帯(μm)
バンド1 0.42〜0.50
バンド2 0.52〜0.60
バンド3 0.61〜0.69
バンド4 0.76〜0.89 近赤外
図5.トゥルーカラー(True color)合成画像の例 (ALOS/AVNIR-2)
図6.フォールスカラー(False color)合成画像の例 (ALOS/AVNIR-2)

パンシャープン処理

 また、センサの特性を表す単位として分解能があります。センサの分解能が高いほど、地上の小さな物体を識別することが可能です。高分解能のモノクロ画像と、分解能の低いカラー画像を合成することで、疑似的に高分解能のカラー画像を作ることができます。この画像処理技術はパンシャープン処理と呼ばれています。

 図7はパンシャープン処理の一例を示しています。AVNIR-2の分解能は10mですが、分解能2.5mのPRISMと合わせることで、分解能2.5mのカラー画像を作ることができます。高分解能のカラー画像を作ることができれば、より判読性を向上させることができます。このような処理はラジオメトリック補正や幾何補正などが正確に行われていることが重要です。

図7. パンシャープン画像の例(ALOS/PRISM & ALOS/AVNIR-2)

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