気象・環境

2023.08.31(木)

気候変動2023 第1回:海面水温の上昇とエルニーニョ現象

2023年7月は観測史上最も暑い1か月であったとWMO(世界気象機関)とEUの気象情報機関などが7月末に発表しました(※)。この発表に合わせ、国連のグテーレス事務総長は「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が訪れた」と述べて強い危機感を示しています。JAXAは地球観測衛星による観測を通じて、地球全体の環境変動情報を収集しており、今夏の異常気象は特筆するべき状況にあると分析しています。そこで今回のシリーズ記事「気候変動2023」(特設サイト)では、「海面水温」、「海氷」、「陸」を取り上げて、2023年の異常気象について紹介します。今回はその第1回の「海面水温の上昇とエルニーニョ現象」です。
※ July 2023 confirmed as hottest month on record: https://public.wmo.int/en/media/news/july-2023-confirmed-hottest-month-record

全球海面水温の記録的な上昇

2023年9月11日 速報として、8月の全球海面水温を追加しました。
2023年10月17日 速報として、9月の全球海面水温を追加しました。

2023年11月15日 10月の全球海面水温を追加しました。
2023年12月26日 11月の全球海面水温を追加しました。
2024年1月11日 12月の全球海面水温を追加しました。
2024年4月26日 2024年1-3月の全球海面水温を追加しました。

海洋は、大気や陸に比べひとたび温まると冷めにくい性質を持っており、地球温暖化によって増加した熱の貯蔵庫として機能していることが知られています(※1)。JAXAの高性能マイクロ波放射計(AMSR)シリーズは、海洋の表面温度(海面水温)を2002年から継続して監視しており、国内外で海洋温暖化の診断ツールとして利用されています。
実際に、AMSRシリーズで観測された地球全体の海面水温平均値(季節変化)について、約20年の高温化の推移を見てみましょう(図1)。北半球と南半球のデータを一緒に平均化しているため、水温の最大・最小ピークが年に2回ずつ観測される季節変化が毎年繰り返されています。2002年から2011年の前半の約10年と、2012年から2022年の後半の約10年では明らかにどの季節についても地球全体の海面水温が上昇しています。しかしながら今年2023年については、3月頃から、この季節サイクルを逸脱した記録的な高温状態が続いており、2002年からAMSRシリーズでの観測が始まって以来、各月で過去最高の海面水温となっています(図の赤線)。

(2023年9月11日追記)
8月の海面水温速報値※を図1グラフに追加しました。海水温の高温状態は8月も継続となりました。

(2023年10月17日追記)
9月の海面水温速報値※を図1グラフに追加しました。9月も海水温の高温状態が継続していました。
※8月、9月は速報値であり、確定次第更新します。

(2023年11月15日追記)
10月の海面水温を図1グラフに追加しました。8、9月から低下したものの、過去の年と比べて高い状態が続いています。
※8月、9月は速報値であり、確定次第更新します。

(2023年12月26日追記)
11月の海面水温を図1グラフに追加しました。10月に引き続き、過去の年と比べて高い状態が続いています。
※8月、9月は速報値であり、確定次第更新します。

(2024年1月11日追記)
12月の海面水温を図1グラフに追加しました。11月に引き続き、過去の年と比べて高い状態が続いています。
※8月、9月は速報値であり、確定次第更新します。

(2024年4月26日追記)
2024年1-3月の海面水温を図1グラフに追加しました。また、地図投影に起因する面積の歪みを考慮した平均処理方法へ変更しました。
海面水温の全球平均値は2024年2月にAMSRシリーズ観測史上最高値を記録しました。

図1:全球(南緯60‐北緯60度)の月平均海面水温の季節変化の推移
観測衛星:Aqua/AMSR-E(2002年6月-2011年9月)、「しずく」GCOM-W/AMSR2(2012年7月-) 
(2011年10月-2012年6月は観測無し)

日本近海、特に東北・北海道沖の高い海面水温

では、私達が暮らす日本周辺の海域に目を向けてみましょう。図2は、先月2023年7月の海面水温の平年差のマップです。海面水温は全体的に平年より高い傾向にありますが、中でも東北・北海道沖の太平洋では5℃以上も高い状態です。通常は常磐沖から東へ向かう黒潮続流が、この時期は三陸沖まで北上して高水温をもたらしています。最近の気象庁発表において、この高い海面水温が今夏の北日本に記録的な高温をもたらした要因の一つである可能性が指摘されています(※2 )。
図3は、日本近海(北緯20-50度、東経120-160度)における月平均海面水温の平年差を、季節サイクルを除いた長期的な変化の推移がわかるように示したものです。日本近海の平年差は-1℃から+1℃の間で変動していますが、近年では2022年8月と2023年7月が特に温暖な状態にあったことが分かります。
日本周辺海域の海面水温は、全球的な温暖化に加えて、複雑な海流系の変動の影響を受けて変化しており、それが日本の気象や気候、水産業などに大きな影響を与えています。このような海洋変動の監視と予測の需要に応えるため、JAXAでは海洋研究開発機構と共同で日本周辺の「海中天気予報」を運用し、約2週間先までの水温や流速の予測結果を提供しています。この中で、AMSRシリーズの海面水温データは予測精度の向上に活用されています。

図2:日本近海(北緯20-50度、東経120-160度)における 2023年7月のAMSR2月平均海面水温の平年差分布
(平年値はAMSR-E、AMSR2観測で取得された月平均値より計算)
図3:日本近海(北緯20-50度、東経120-160度)における月平均海面水温の平年差の時系列
(平年値はAMSR-E、AMSR2観測で取得された月平均値より計算)

スーパーエルニーニョ現象は起こるのか?

日本の天候は、近海だけでなく遠く離れた海域で起こった変化からも影響を受けます。中でもよく知られているのは、エルニーニョ・ラニーニャ現象との関連です。エルニーニョ現象とは、赤道太平洋東部の海面水温が平年より高くなり、その状況が1年以上継続する現象を指します。一方、ラニーニャ現象は同海域で海面水温が平年より低い状態が継続する現象です。両者は数年周期で発生し、全球的に大気の対流システムの位置や強さに作用することで、赤道太平洋域だけでなく日本を含む世界各地で異常気象を引き起こすきっかけとなり得ることが知られています。例えば、1997年から1998年にかけての冬に発生した観測史上最大のエルニーニョ(スーパーエルニーニョ)現象は、日本に農作物の減産をもたらした1998年の冷夏や、東南アジアでの大規模な林野火災の原因となったと考えられています。このような異常気象の予兆を捉えるため、JAXAではAMSRシリーズの海面水温を利用したWebツール「El Nino Watch(エルニーニョウオッチ)」を提供しています。
このWebツールを使って、2023年の状況を見ていきましょう。図4 (1)は、2023年8月22-26日の熱帯域の海面水温の平年差を示し、赤道太平洋東部の□で囲まれた海域は気象庁が定義するエルニーニョ監視海域を表します。監視海域における海面水温は平年よりも2-3℃程度高い状態にあり、エルニーニョ現象が発生中であることが示唆されます。同ツールでは、監視海域の平年差の時系列を使って、より直観的にエルニーニョ・ラニーニャ現象の推移を確認することができます(図4 (2))。図中では、過去に海面水温の高温・低温偏差が継続し、エルニーニョ・ラニーニャ現象と定義された期間がピンク色・水色で表示されており、2015年には1997/1998年に匹敵するエルニーニョ現象が観測されました(※3)。2023年は3月頃からエルニーニョ現象が継続しており、海面水温の高温偏差の増大は2015年のピーク時に迫る勢いで進行しています。今後、スーパーエルニーニョ現象に発達するのかどうか、皆さんも、ぜひEL Nino Watchで確認してみてください。

図4:(1)2023年8月22-26日の5日平均海面水温の平年差(□で囲まれた海域はエルニーニョ監視海域を表示)、
(2)エルニーニョ監視海域での5日平均海面水温の平年差の時系列。
(平年値は気象庁が公開している月平均海面水温(1991-2020年)をもとに計算)

1997/1998年のスーパーエルニーニョ現象が日本に冷夏をもたらしたのとは対照的に、冒頭で紹介したように、今年2023年は酷暑に見舞われています。今夏の酷暑の原因としてエルニーニョ現象以外の様々な要因の寄与が指摘されており、詳細なメカニズムの解明には至っていません。解明に必要なのはまさに現在進行中の異常気象の監視ですが、ここで紹介したように、過去の観測データの蓄積なしに異常気象を検出することはできません。JAXAはこれからもAMSRシリーズをはじめとした衛星地球観測の継続に努め、データを広く提供し、気候変動研究の発展に貢献していきます。

参考:高性能マイクロ波放射計 AMSRシリーズ

この記事で紹介した高性能マイクロ波放射計(Advanced Microwave Scanning Radiometer:AMSR)は、JAXAが開発した地表面や大気などの自然界から放射される微弱なマイクロ波を測定するセンサで、雲の影響で観測しにくい熱帯域などにおいても、毎日、欠損少なくデータを観測・提供することができることが大きな利点です。特に、NASAの衛星Aquaに搭載されたAMSR-E、現在JAXAが運用中の衛星GCOM-W「しずく」に搭載されているAMSR2(2012年ー)による観測は、20年以上の観測データを蓄積し、日本国内だけでなく海外でも幅広く、数値気象予報や気候変動研究に利用されています。2024年度に後継機AMSR3(GOSAT-GW衛星に搭載)の打上げを予定しており、気候変動メカニズム解明に必要とされている継続した全球観測を担う世界有数のシリーズです。また、気象庁への準リアルタイムデータ提供を通して、日々の数値気象予報や台風解析の精度向上にも貢献しています。

謝辞
本記事の作成にあたり、北海道大学 江淵直人教授にご協力いただきました。

引用:
※1  von Schuckmann et al. 2020, Heat stored in the Earth system: where does the energy go?: https://doi.org/10.5194/essd-12-2013-2020
※2 令和5年梅雨期の大雨事例と7月後半以降の顕著な高温の特徴と要因について 気象庁2023年8月28日:https://www.jma.go.jp/jma/press/2308/28a/kentoukai20230828.html
※3 観測史上最大に迫るエルニーニョ現象2015年11月30日: https://earth.jaxa.jp/ja/earthview/2015/11/30/1288/index.html

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