気象・環境

2023.03.30(木)

近年の世界的な気温上昇に伴う急速な海氷域の減少

マイクロ波放射計による海氷面積と海氷密接度の監視

近年、地球の気温上昇に伴い海氷面積が急速に減少しています。海氷面積は気候変動における重要な指標であるため、各国の宇宙機関は宇宙からの観測を継続的に行っています。宇宙からのマイクロ波リモートセンシングは、海氷の変化を均質かつ継続的に、また広域的に知ることができる唯一の手段です。JAXAでは、高性能マイクロ波放射計(AMSR)シリーズをはじめとする様々なマイクロ波放射計による観測データを提供しています。これらのデータは、1978年から現在に至るまで、極域における海氷密接度(被覆率)および海氷面積の変化を日々捉えることを目的としています。

図1はJAXAの水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)による全球の海氷密接度プロダクトを表示したインタラクティブな地球の様子です。

図1 水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)による全球の海氷密接度プロダクト
左図:北半球、右図:南半球

気候変動とアイスアルベドフィードバック

近年の気候変動により、地球温暖化が急速に進行しています。北極域は、この温暖化による変化が大きく表れている地域です。
一般に、北極域には雪と氷(雪氷圏)が広く分布しています。雪や氷は気温の変化に敏感で、温暖化の兆候をいち早く示すことが知られています。雪や氷は白いためアルベド(太陽放射を地表面が反射する割合)が高く、日射を効率的に反射することで地球を冷やす働きを果たしています。気温の上昇によって海氷が溶けてなくなると、黒っぽい海面が露出し、アルベドが低下します。アルベドが低下すると、日射の吸収が促進されます。そのため、露出した海面が暖められることで、気温がさらに上昇します。また、海面が露出することで水蒸気の供給が増えると、放射強制力への寄与が大きくなると考えられます。このような温暖化による気温上昇と雪氷の融解のサイクルを、アイスアルベドフィードバックと呼びます。特に北極域ではアイスアルベドフィードバックによって、放射収支が変化し、より大きな気温変化を示す北極温暖化増幅と呼ばれる現象が引き起こされています。そのため、雪氷圏の急激な変化により、北極域の気温は他の地域と比べて大きく上昇しています。
温暖化による変化は、海氷や積雪の減少に起因するアイスアルベドフィードバックにより、さらに加速されることが予想されます。近い将来、変化に歯止めが効かなくなる臨界点に達する可能性があります。また、北極域と中緯度域の大気交換が活発になり、中高緯度域での厳冬や豪雨などの異常気象が増加する可能性もあります。そのため、海氷を継続的に観測することは非常に重要です。

北極海航路

経済的な観点で見ると、海氷面積の減少により、これまで氷で閉ざされていた北極海での商業利用性が高まってきています。このような外洋域の拡大により、「北極海航路」と呼ばれる北極海を航行する航路が利用できるようになりつつあります。北極海には、ロシア沿岸を通る北東航路とカナダ沿岸を通る北西航路の2つの航路があります。特に北東航路は、ヨーロッパとアジアを結ぶ従来のスエズ運河経由の航路に比べ、航行距離が約3割短いため、商業運航に利用されはじめています。

北極海をはじめとした氷海を航行する船舶には、耐氷性能と砕氷性能が求められます。そのため船舶の仕様や海氷の状況に応じて、適切な航路を選択する必要があります。船舶の安全かつ経済的な航行のためには、海氷の厚さと海氷密接度に関する情報が必要です。一方、航行船舶の増加は、環境の変化に対する新たなリスクをもたらす可能性もあります。船舶が増加すると、極域の脆弱な環境への負荷だけでなく、結果として他の地域の環境変化を増大させる可能性や、船舶交通の増加に伴う事故のリスクがあるため、北極海航路の利用拡大による環境への影響や、それに付随するリスクを監視する必要があります。

海氷の面積や厚さの変化の監視・分析には、様々な衛星や観測機器が使われています。衛星観測技術の進歩により、科学者は船舶や航空機による観測では得られない広域かつ詳細な海氷の特性を監視・測定することができるようになりました。衛星観測によって集められた継続的なデータは、時間とともに変化する海氷の状態を記録することで、北極域の沿岸地域における気象予測や、セイウチの生息数の変化などの生態系の変化、船舶の航路選択など幅広く役立てられています。

本記事は、「Earth Observing Dashboard」の以下のストーリーを元に作成しています。
https://eodashboard.org/story?id=sea-ice-extent


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