カリブ海の「セントビンセント及びグレナディーン諸島」のセントビンセント島にあるスフリエール山が、2021年4月9日に、約40年ぶりに噴火しました。この噴火について、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)および気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)による観測結果を示します。
「だいち2号」(ALOS-2)による火口周辺の観測結果
図1にスフリエール山の位置および「だいち2号」搭載のLバンド合成開口レーダ「PALSAR-2」による観測範囲を示します。
図2は噴火前(2021年4月7日)および噴火後(2021年4月21日)のスフリエール山の火口周辺の「だいち2号」画像です。これらの画像は高分解能10mモード(2偏波)で観測されたデータを、HH偏波を紫、HV偏波を緑色に割り当ててカラー合成した疑似カラー画像です。また、画像の上方向を観測時の衛星の方向(およそ西南西)としています。合成開口レーダの原理から、この向きの画像は地形を立体的に読み取るのに適しています。噴火前にはカルデラ内に新旧2つの溶岩ドームが存在していましたが、今回の爆発的な噴火によりいずれも破壊され、その一部が大量の噴煙となって上空に広がったと考えられます。
図3は2021年1月から今回の噴火までの「だいち2号」画像のアニメーションです。1月から4月にかけて、新しい溶岩ドームが徐々に拡大し、噴火によって破壊されました。
図4は図2と同じ噴火前・後のデータから得られたコヒーレンス画像と呼ばれる画像です。コヒーレンスは画像の類似性を表し、火山灰が堆積すると値が低下する(暗くなる)ことが知られています。この画像から、島の南部を除くほとんどの地域が火山灰に覆われていることが分かります。
「しきさい」(GCOM-C)による噴煙の観測結果
火山の噴煙は近隣への火山灰の堆積だけでなく、飛行機の運航への影響や、小粒子の火山灰や二酸化硫黄等の火山のガスが成層圏の高度まで輸送された場合にはエアロゾルとしてしばらく大気中に留まって日射を遮る効果があることが知られています。
図5は「しきさい」搭載のSGLIによって観測されたRGB画像です。セントビンセント島(赤線枠)の上空からやや東側に当日に噴出したとみられる火山の噴煙が暗褐色で見えています(図中のA)。ほぼ真上(衛星天頂角約8度)から観測しているため、白く見える周囲の雲との境界がはっきり識別できます。東側の薄い褐色に見えるものはSGLI観測時より少し前に噴出して風で流された噴煙と思われます(図中のB)。SGLIは軌道方向に複数の角度で観測する機能があり(図6)、その角度による見え方の違いから、上空に広がった噴煙の高度を推定することができます。今回の噴煙(A)について、前方視(+53度)、直下視(+8度)、後方視(-53度)の3つの観測角度における画像上での見かけの位置の変化は、前方視と直下視の間では約19km、直下視と後方視の間では約23kmであったことから、この噴煙の上端の高度は約16kmと推測されました(SGLIには熱赤外や酸素分子による光の吸収帯(763nm)の観測チャンネルがあり、噴煙の温度や763nmチャンネルの低下率からも噴煙の高度を推測することができますが、いずれでの方法でも同程度の高度が推測されています)。この高度は熱帯域の対流圏の上端高度とほぼ対応しており、火山噴火に伴って上空に運ばれた一部の噴煙が成層圏の高度まで達していたことが推測されます。もし大規模な噴煙の放出が長く続いた場合には、成層圏に形成されるエアロゾルの層が日射を遮る効果によって気温に影響する程になる可能性もあり得るため、今後も多様な観測手法で注意深く監視していくことが大切です。
観測画像について
図2、3
観測衛星 | 陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2) |
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観測センサ | フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(PALSAR-2) |
観測日時 | 2021年1月13日~4月21日 |
図4
観測衛星 | 陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2) |
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観測センサ | フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(PALSAR-2) |
観測日時 | 2021年4月7日、4月21日 |
図5、6
観測衛星 | 気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C) |
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観測センサ | 多波長光学放射計(SGLI) |
観測日時 | 2021年4月11日14時頃(UTC) |
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