「いぶき」による都市のCO2変化

「いぶき」による米国カリフォルニア州ベーカーズフィールドでのCH4変化

「いぶき」による都市のCO2変化

記事公開日: 2020/6/25
概要

「いぶき」による世界の大都市のCO2増加量の変化を抽出。2020年は平年よりもCO2増加量の減少がみられた。

観測結果

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行による経済活動の大きな変化が、多くの人が住み働く大都市で報告されている。そこでGOSAT対流圏2層CO2濃度データを使って、東京、ニューヨーク、北京、上海、デリー、ムンバイ、ダッカについて、2016年-2020年の1月-4月の月別のCO2増加指標を算出した。これら7大都市の月平均の下層大気のCO2濃度増加量を棒グラフとGOSAT観測点の地図で示す。CO2濃度増加量は月毎に変動しているが、2020年は以前の年に比べて概ね小さいことが分かった。

都市気候学的な背景場を算出するために、2016年-2019年の上層大気CO2濃度の4年間の都市域を月別平年値し、下層大気の濃度との差を評価した。2020年の1月-4月のデータを、2016年-2019年の月別平年値と比較するとまず、2020年のCO2濃度増加量は平年と比べて減っていることがわかる。このCO2濃度増加量の変化は新型コロナウイルス感染症の流行に起因した化石燃料消費の減少の影響をうけていると考えられる。注意したいのは、観測した大気中CO2には、化石燃料消費によるCO2排出に加えて、都市周辺における、植物の光合成によるCO2吸収、生態系の呼吸によるCO2排出が含まれ、さらに濃度増加量も風速による影響を受ける。

東京は、2020年1月-2月は平年とほぼ同じでCO2増加量は高い値を示していたが、3月-4月は減少に転じており、活動自粛の期間に合致する。 ニューヨークは、2020年1月-2月は平年とほぼ同じでCO2濃度増加量は高い値を示していたが、3月は減少に転じており、都市封鎖の期間と合致する。4月のニューヨークは曇りで有効な観測ができなかった。 北京や上海は、平年と比べて2020年2月-4月にCO2濃度増加量の減少が見られ、都市レベルでの制限期間に合致する。 デリー、ムンバイ、ダッカは解釈が複雑である。2月は背景場となる生態系活動の影響が大きい時期で、2020年2月のCO2濃度増加量は平年とほぼ変わらないが、3月にはデリーは高い値を示し、ムンバイとダッカは低い値を示している。4月には3都市とも減少に転じ、都市封鎖の期間と合致する。しかし、この季節のインドは大規模な気候現象によるCO2変化が起きるので、これらの変化をパンデミックの結果と結論付けるのは難しい。

観測結果(東京)

Analyzed by JAXA/EORC


図1-1:1月-4月の東京におけるCO2濃度増加量

Analyzed by JAXA/EORC


図1-2:2020年1月-4月の東京におけるCO2濃度増加量と、2016年-2019年の平年値との比較
(GOSATの集中観測点は直径約10km視野で色付けした円で示している。)

観測結果(ニューヨーク)

Analyzed by JAXA/EORC


図2-1:1月-4月のニューヨークにおけるCO2濃度増加量

Analyzed by JAXA/EORC


図2-2:2020年1月-4月のニューヨークにおけるCO2濃度増加量と、2016年-2019年の平年値との比較
(GOSATの集中観測点は直径約10km視野で色付けした円で示している。)

観測結果(北京)

Analyzed by JAXA/EORC


図3-1:1月-4月の北京におけるCO2濃度増加量

Analyzed by JAXA/EORC


図3-2:2020年1月-4月の北京におけるCO2濃度増加量と、2016年-2019年の平年値との比較
(GOSATの集中観測点は直径約10km視野で色付けした円で示している。)

観測結果(上海)

Analyzed by JAXA/EORC


図4-1:1月-4月の上海におけるCO2濃度増加量

Analyzed by JAXA/EORC


図4-2:2020年1月-4月の上海におけるCO2濃度増加量と、2016年-2019年の平年値との比較
(GOSATの集中観測点は直径約10km視野で色付けした円で示している。)

観測結果(デリー)

Analyzed by JAXA/EORC


図5-1:1月-4月のデリーにおけるCO2濃度増加量

Analyzed by JAXA/EORC


図5-2:2020年1月-4月のデリーにおけるCO2濃度増加量と、2016年-2019年の平年値との比較
(GOSATの集中観測点は直径約10km視野で色付けした円で示している。)

観測結果(ムンバイ)

Analyzed by JAXA/EORC


図6-1:1月-4月のムンバイにおけるCO2濃度増加量

Analyzed by JAXA/EORC


図6-2:2020年1月-4月のムンバイにおけるCO2濃度増加量と、2016年-2019年の平年値との比較
(GOSATの集中観測点は直径約10km視野で色付けした円で示している。)

観測結果(ダッカ)

Analyzed by JAXA/EORC


図7-1:1月-4月のダッカにおけるCO2濃度増加量

Analyzed by JAXA/EORC


図7-2:2020年1月-4月のダッカにおけるCO2濃度増加量と、2016年-2019年の平年値との比較
(GOSATの集中観測点は直径約10km視野で色付けした円で示している。)

関連リンク

GOSAT/GOSAT-2 EORC Daily Partial Column GHGs

GHGs Trend Viewer - Partial Column

「いぶき」による米国カリフォルニア州ベーカーズフィールドでのCH4変化

記事公開日: 2021/3/31
概要

「いぶき」による米国カリフォルニア州ベーカーズフィールドでの対流圏下層でのCH4の変化を抽出。

観測結果

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴う経済活動の停滞によって、石油の需要は大幅に減少、また原油価格は2020年3月に急落した。米国カリフォルニア州カーン郡ベーカーズフィールドは石油・天然ガスの採掘が盛んで、カーン郡の油田は州内では最も石油生産量が多い。米国エネルギー情報局の統計データによると、カリフォルニア州の原油生産はここ数年、減産の傾向が続いているが、2020年3~6月にかけて更に減産が進んでいる(参照【1】)。

ベーカーズフィールドは、カリフォルニア・セントラル・バレーの南側に位置し、周りを山脈に囲まれている(図1)。GOSAT観測による対流圏下層メタン濃度について、2019~2020年の1~6月の月平均値のグラフ(図8-1)、および0.1度格子・各月平均の対流圏下層メタン濃度のマップ(図8-2)を示す。いずれの月も、2020年の方が2019年よりも概ね低い濃度を示している。なお、WMO温室効果ガス年報によると、全球平均でのここ約10年のメタン年増加量は約0.01ppmvである(参照【2】)。

Analyzed by JAXA/EORC


図8-1:GOSAT観測によるベーカーズフィールド周辺の月別対流圏下層メタン濃度

Analyzed by JAXA/EORC


図8-2:GOSAT観測によるベーカーズフィールド周辺の月別対流圏下層メタン濃度マップ
GOSAT/GOSAT-2による観測について

GOSATは太陽光波長と熱赤外波長を同時に分光観測できる唯一の衛星利点を生かして、対流圏上層(4-12 km)と対流圏下層(0-4 km)の対流圏2層CO2濃度データを提供している。上層の都市域月別平均CO2濃度は、都市表層からの影響が少なく広範囲を代表する背景場となり、一方、下層CO2濃度は、都市からの排出影響を受けて上昇すると考えられる。下層CO2濃度データから月平均の上層CO2濃度データを引き算することで、季節変化するCO2濃度背景場を大胆に取り除き、都市表層のCO2増加量だけを見ることができる。

GOSAT対流圏2層CO2濃度データは、11年以上の長期に渡る全球観測と、世界50以上の大都市の集中観測を提供していく。JAXA GOSATおよびGOSAT-2は、NASA OCO-2衛星、ESA TROPOMIセンサと協力して新型コロナウイルス感染症の流行による温室効果ガスと大気質の変化の追跡に挑戦していく。

※GOSATおよびGOSAT-2はJAXA、国立環境研究所、環境省の共同プロジェクトです。

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