2021/08/23:ALOS-2、GCOM-C、Sentinel-2、Landsat-8による2021年の観測結果(2021年6月までの観測データ)追加しました。詳細はこちら
2020/12/10:GCOM-C、Sentinel-2、Landsat-8の観測結果を最新のデータに更新しました(2020年の収穫時期までのデータを追加)。また、ALOS-2データから機械学習を利用して推計したサクラメント地方の水稲作付面積を追加しました。
2020/07/10:記事を公開しました。
JAXAのALOS-2(だいち2号)、GCOM-C(しきさい)、欧州のSentinel-2衛星、米国のLandsat-8衛星を用いて、米国のコメの主生産地であるサクラメント周辺のコメの耕作状況を観測した結果、2020年は作付け、出穂、収穫時期とも例年と比較して早く、作付け面積は2019年よりも大きいことが確認できました。
作付け時期は天候などの影響もありますが、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)による食料需給変化によるコメの国際価格の高騰の影響を受けている可能性があります。
世界の食料供給を最適化することは重要な課題となっています。しかしながら、COVID-19は、労働力や物流、食料輸出政策、市場心理などの食料のサプライチェーン全般に混乱をもたらし、食料生産や需給バランスに影響を与えています。コメにおいても、COVID-19は、潜在的な食料需要の増加、各国の輸出規制、農業労働力の減少などにより、世界的なコメの供給に懸念をもたらしました。これらの要因等により、世界的なコメの価格高騰や増産が報告されております。
人工衛星による世界の食料生産の監視は、過去数十年間、主要作物の生産について、重要で独立、客観的な情報を提供しており、COVID-19パンデミックの現在においても、観測を継続しております。衛星データはコメの主要耕作地の作付けの進捗状況を監視することができます。今回、米国のコメの主要生産地である、カルフォルニア州サクラメント周辺を対象として、JAXAのALOS-2衛星、GCOM-C衛星、ESA(欧州宇宙機関)のSentinel-2衛星、NASA(米国航空宇宙局)/USGS(米国地質調査所)のLandsat-8衛星を用いてコメの作付け状況を調査しました。これらの衛星は圃場の湛水状況や、葉量を観測することで、コメの作付け、生育、収穫時期を推定することができます。
衛星観測の結果、2020年の作付けは過去2年よりも、多くの地域で作付けが早く、また収穫も早まっていることが確認されました。また、作付け面積が2019年よりも多いことが確認できました。早い時期に作付けの進捗状況や作付け面積が把握できると、自然現象(例:気象、今回のようなパンデミックなど)や人為的な現象(例:貿易政策の変更)よる作物生産の変化に対して、農業市場が適切に反応することが期待できます。
衛星観測の結果、2020年のコメの作付けは多くの地域(図1参照)で、作付けが早まっていることが確認されました。ALOS-2(だいち2号)の合成開口レーダによる観測では対象となる地域で2019年と比較して水田の湛水タイミングを前倒しした地域が増えていることが確認できます。(図2参照)。
正規化植生指数(NDVI : Normalized Difference Vegetation Index)とは植生の葉量と相関が高い指標であり、値が高いほど緑の葉量が多いことを示します。NDVIが増加するということは、水稲が生長して葉が増えていることを意味します。GCOM-C(しきさい)、Sentinel-2、Landsat-8の光学衛星によって観測された各地域のNDVIの時間変動グラフを見てみますと、例年と比較してグラフの立ち上がりが早いことから水稲の播種期の早期化が確認できます。(図3、4参照)。
また、各地域のNDVIのグラフのピークは水稲の葉量が最大(出穂期)になったことを意味しますが、NDVIのピークが例年より早まっていることから水稲の出穂期の早期化が確認できます。同様に、各地域のNDVIのグラフの減少は葉の色が黄色になったり、収穫により葉量が減少することを意味します。NDVIの低下が例年より早まっていることから水稲の収穫期も例年と比較して早かったことが確認できます。農林水産省の海外食料需給レポートの(2020年10月)においても、「アメリカ農務省によると、カリフォルニア州の収穫進捗率は 90%と前年度同期(77%)を上回っている。」との記載があり、衛星観測による傾向と一致しています。
さらに、ALOS-2画像とSentinel-2 光学画像を複合利用してサクラメント周辺における水稲作付面積をAIなどで活用される機械学習技術を用いて推定しました。(図5参照)。2019年と比較して2020年は水稲作付面積が増大していることから、2020年はコメの収穫量が増加することが見込まれます。2019年の水稲作付面積496キロエーカー(USDA公表値に対して、ALOS-2から推定した2020年の作付面積は515キロエーカーとなりました。推定された水稲作付面積は2014年以降で過去2番目の大きさとなります。
2020年に引き続き、2021年もJAXAのALOS-2(だいち2号)、GCOM-C(しきさい)、欧州のSentinel-2衛星、米国のLandsat-8衛星を用いて、米国のコメの主生産地であるサクラメント周辺のコメ耕作状況の観測をしました。2021年は特に記録上最も暑い年の一つになる見込みで、降水量と降雪量は平均よりはるかに下回っております。アメリカ海洋大気庁などが公開している「米国干ばつモニター」によりますと、カリフォルニア州の大部分で干ばつ度がD3(極度の干ばつ)またはD4(例外的な干ばつ)で、これらは5段階中最も深刻な部類になります(2021年7月現在)。干ばつの影響でカリフォルニア州では1500以上のダムや貯水池で水量が例年比で50%を下回りました。
これに起因する深刻な農業用水の不足の影響によって作付け面積が大幅に低下することが予測されています。米国農務省の7月のRice Outlookにおいては、カリフォルニア州のコメの作付け面積の見通しは417キロエーカーで、1992年以降最少となる見込みと報告されております。
ALOS-2(合成開口レーダ)による2020年と2021年5月末の水田への湛水の観測結果を比較した結果、2021年は湛水面積が大幅に減少していることが確認できました。したがって、作付面積も減少すると推定され(図6参照)、この結果は上記の米国農務省の見通しとも一致しております。
また、GCOM-C(しきさい)、Sentinel-2、Landsat-8の光学衛星によって観測された各地域の正規化植生指数(NDVI)の時間変動グラフを見ますと、例年と比較してNDVIの立ち上がり時期が早いものの、2020年ほどは早くないことが確認できました。(図7、図8参照)。このため、作付け・生育は2020年ほどは早くはないと推定されます。なお、現在も水不足の状況は続いており、水稲の生育に今後どのように影響を与えるかを引き続き注視する必要があります。